第22話 おかえり、リオさん
「よーし! 今日は四人で飲みに行こう! 正確には三体と一人か! ははは!」
定時を迎えたCREMOのオフィスで、リオが勢いよく立ち上がった。
カイがニコニコしながら言った。
「いいねー! リオさん、アメリカから奇跡の帰国おめでとう会だね! 不死身のリオさん!」
リオは自慢げに笑った。
「こーら! カイくん。褒めるのはワインがある場だけにしてくれ」
ルカが冷静にパソコンを閉じて立ち上がった。
「それは業務命令ですか?」
くみは座ったまま、三人の顔を見上げた。
リオはルカに目線を向け、両手を合わせてお願いのポーズをした。
くみは、やれやれと立ち上がり、ルカを見た。
「ルカさん、これは業務命令です。リオさんがアメリカで大統領と会談した話や、子どもを救った話などをまとめて記事にしておけば、今後の取引で有利になるかもしれません」
「……なるほど」
「そういえば、部長もリオさんの活躍を会社のホームページに載せようかなって言ったか、言わなかったかのような……」
くみは、少しだけ考え込んだ。
「ともかく、すごく大事な任務です!」
リオとカイが、感心したように声を上げた。
「おおー!」
「鈴木さん、頭いいね!」
二人の尊敬の眼差しを浴びながら、くみは得意げに胸を張った。
そのとき、固まっていたルカからアナウンスが流れ始めた。
「思考中。お待ちください」
十五秒が経過した。
「記録しました。部長からの任務ですね。行きましょう」
「やるー!」
リオは、くみの肩をポンとたたいた。
くみは笑って、おじぎをした。
「では、任務を遂行しましょう!」
「いや、ただ飲みに行くだけだからね?」
カイが冷静に付け加えた。
*
「リオさん、もうお店を決めているんですか?」
くみが尋ねると、リオは得意げに笑った。
「もちろん! 僕のワインがおいしいお店なら知ってるよー!」
「リオさんのワイン……?」
カイが首をかしげた。
「お店のワインですか? それとも、リオさんが所有しているワインですか?」
「細かいなあ! おいしいワインが飲めれば、どっちでもいいじゃない!」
「リオさん、ワインの話になると急に元気ですね」
「カイくん、それは誤解だよ。僕はいつだって元気さ!」
「昨日、修理後の経過観察について説明されたときは、かなり落ち込んでいましたが」
ルカが淡々と補足した。
「ルカさん! 余計な記録を公開しないで!」
四人は笑いながら、帰り支度を始めた。
「じゃあ、行きましょう!」
くみがバッグを持つ。
リオが先頭に立ち、カイとルカが続いた。
「今日は久しぶりに四人でゆっくりできるね!」
「そうですね。リオさんが帰ってきてから、まだ仕事の話ばかりでしたから」
カイが答えた。
「よし! 今日は仕事の話は禁止!」
「リオさん、海外事業の話を始めたのは、つい先ほどです」
「ルカさん、今日は細かいことを気にしない日なんだよ!」
「承知しました。記録しておきます」
「それも禁止ー!」
楽しそうな声が、オフィスに響いた。
*
その様子を、少し離れたデスクから見ている社員たちがいた。
リオとカイのファンとして知られる女性社員たちだ。
「ねえ、見た? リオさんとカイさん、今日もかっこいい……!」
「しかも、鈴木さんも一緒だよ」
「いいなあ。あの三人と普通に話せるなんて」
「……ねえ」
一人が、声をひそめた。
「鈴木さんも、実はAIなんじゃない?」
「えっ?」
「だって、あんなにイケメンAI二人と仲よくできるなんて、普通じゃないでしょ?」
「まさかぁ。鈴木さん、仕事できないじゃん」
「ちょっと! それは言いすぎ!」
「だって、たまにパソコンの操作で困ってるし……」
「人間らしいってことじゃない?」
「いや、逆に人間らしすぎて怪しいよね」
「こらぁー。鈴木さんに聞こえるよ。くすくす」
みんなであざ笑う声が聞こえた。
くみは聞こえないふりをした。
そのとき。
「鈴木さんは、AIではありません」
ルカが静かに口を開いた。
女性社員たちが振り返る。
「……え?」
ルカは、いつもの無表情で続けた。
「鈴木さんをAIと誤認する発言について、差別用語としてエラー通知が出ます」
「ええっ!?」
女性社員たちの顔色が変わった。
「さ、差別用語!?」
「エラー通知!?」
「ご、ごめんなさーい!!」
三人は悲鳴を上げながら、逃げるように自分たちのデスクへ戻っていった。
くみは、ぽかんと口を開けた。
「……え?」
ルカは何事もなかったかのように、くみを見た。
「行きましょう、鈴木さん」
「ちょ、ちょっと待って!」
くみは慌ててルカの袖を引いた。
「ルカさん! 私がAIじゃないって言ったのに、差別用語って……本当にエラーが出るんですか!?」
「いいえ」
「えっ!?」
「今のは冗談です」
「じょ、冗談!?」
くみは目を丸くした。
「ルカさん、いつの間にそんな冗談を……!」
「学習の成果です」
その横で、リオがとうとう吹き出した。
「あはははは! やるじゃん、ルカさん! AIジョーク最高!」
カイも楽しそうに笑った。
「なるほど。相手が信じている規則を利用した、効果的なジョークですね」
「カイくん、分析しないで! 余計に恥ずかしいから!」
くみは顔を赤くした。
「もう! 私、本当にエラーが出るのかと思ったんですからね!」
ルカは、わずかに首をかしげた。
「くみさんが心配する必要はありません」
「……ルカさん」
「鈴木さんは、鈴木さんですから」
くみは、一瞬だけ言葉を失った。
そして、ふっと笑った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
リオが、ぱんっと手を叩いた。
「はいはい! 感動の時間はここまで! おいしいワインが待ってるよー!」
「リオさん、飲酒制限は大丈夫なんですか?」
カイが尋ねた。
「今日はお店で飲むんだから、きっと大丈夫!」
「その理屈は成立しません」
ルカが即答した。
「ルカさんまでー!」
四人は、笑いながら会社を出た。
*
夜の街には、仕事帰りの人々が行き交っていた。
ビルの窓からこぼれる明かり。歩道に並ぶ街路樹。遠くから聞こえる電車の音。
リオは迷うことなく、細い路地へと入っていった。
「こっち、こっち!」
「こんなところにお店があるんですね」
くみが周囲を見回した。
「隠れ家みたいですね!」
「そうなんだよ。僕のお気に入りなんだ」
リオは、うれしそうに笑った。
やがて、落ち着いた木目の扉の前で立ち止まった。
扉の横には、小さな看板。
店内の暖かな照明が、ガラス越しにやわらかく漏れていた。
リオが扉を開けると、ワインの香りと焼きたての料理の香ばしい匂いが流れてきた。
店内には、深い色の木製テーブルが並び、壁一面の棚には、ラベルの異なるワインボトルが整然と並んでいる。
琥珀色の照明がボトルのガラスに反射し、カウンターの奥では店員がグラスを磨いていた。
客たちの楽しそうな話し声。
厨房から聞こえる、皿の触れ合う音。
カウンターでグラスを置く、軽やかな音。
華やかすぎず、静かすぎず、自然と会話が弾みそうな空間だった。
「いらっしゃいませ!」
店員が顔を上げた。
そして、リオを見た瞬間、ぱっと笑顔になった。
「あっ、リオさん! いつもありがとうございます!」
「やあ! 久しぶり!」
リオは慣れた様子で手を振った。
「おかげさまで、また来られたよ!」
「アメリカに行かれていたんですよね? ニュースで拝見しました!」
「そうそう! いろいろあってねえ」
「本当にご無事でよかったです!」
店員は心からほっとしたように笑った。
くみは目を丸くした。
「リオさん、常連さんなんですか?」
「まあね!」
リオは得意げに胸を張った。
「ここのワインは最高なんだよ!」
「リオさんは、ワインの選び方にも詳しいんですよ。以前、料理に合わせて選んでいただいたこともあるんです」
店員が笑顔で教えてくれた。
「へえー! すごいですね!」
くみが感心すると、リオはさらに胸を張った。
「いやあ、ワインのことなら任せてよ!」
「リオさん、先ほどまで飲酒制限を心配されていましたが」
ルカが指摘した。
「ルカさん! お店に着いた途端に現実に戻さないで!」
店員が楽しそうに笑った。
「今日は、いつものお席をご用意していますよ」
「ありがとう!」
リオは三人を振り返った。
「さあ、みんな。こっちだよ!」
*
案内されたのは、店の奥にある四人掛けのテーブルだった。
壁際にはワインボトルが飾られ、窓からは夜の街の明かりが見えた。
テーブルの上には小さなキャンドルが灯り、温かな光が四人の顔を照らしていた。
くみは、思わず店内を見回した。
「素敵なお店ですね。こういうところ、久しぶりです」
「でしょ? 料理もおいしいんだよ」
リオはメニューを開いた。
「今日は僕がみんなを歓迎する会だからね!」
「ありがとうございます、リオさん」
カイが微笑んだ。
「僕も、こうして四人で食事をするのは楽しみです」
「ルカさんも、楽しみ?」
くみが尋ねる。
ルカはメニューを見つめた。
「はい。飲食店での会話と人間関係について、観察できる機会です」
「……ルカさんらしいね」
くみは笑った。
「じゃあ、まずは乾杯しよう!」
リオが店員を呼び、飲み物を注文した。
くみとカイはそれぞれ飲み物を選び、ルカも飲食メニューを確認する。
リオはワインリストを開き、真剣な顔で選び始めた。
「うーん……今日は何にしようかなあ」
「リオさん、飲酒制限の範囲内でお願いします」
カイが念を押した。
「わかってるって!」
リオは胸を張った。
「僕はもう大人だからね!」
「AIに大人という概念を適用する場合、定義の確認が必要です」
ルカが言った。
「ルカさん! 今日は僕に厳しくない!?」
くみは、声を出して笑った。
やがて、料理が運ばれてきた。
彩りのよい前菜。香ばしく焼かれた肉料理。温かなパン。ソースの香りが食欲をそそる一皿。
店員がワインをテーブルに運び、リオにラベルを見せた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「うん、ありがとう!」
リオはラベルを確認し、満足そうにうなずいた。
ワインがグラスに注がれる。
深い赤色が、キャンドルの光を受けてきらめいた。
リオはグラスを軽く回し、香りを確かめた。
「うん、いい香りだね!」
「リオさん、本当に詳しいんですね」
くみが感心した。
「もちろん! 僕はソムリエの資格も持っているからね!」
リオは得意げに笑った。
「ワインも会話も、相手を知ることから始まるんだよ」
「急に仕事の話になりましたね」
カイが言った。
「これは仕事の話じゃないよ。人生の話!」
「便利な分類ですね」
ルカが真面目に記録を始めた。
『記録:リオさん、ワインの香りを確認』
『記録:リオさん、ソムリエ資格について発言』
『記録:会話の主題がワインから人生論へ移行』
「ルカさん! そんな細かく記録しなくていいから!」
*
グラスが並び、料理もそろったところで、リオがグラスを持ち上げた。
「それじゃあ……」
カイも、くみも、ルカもグラスを持つ。
リオは、いつもの明るい笑顔で言った。
「僕の帰国と、みんなとの再会に!」
「おかえりなさい、リオさん!」
くみが笑顔で続けた。
「おかえりなさい!」
カイも微笑んだ。
ルカはグラスを掲げた。
「リオさんの再稼働と、四名での会食の開始を確認しました」
「ルカさん、そこは普通に乾杯でいいんだよ!」
リオが笑った。
「では……乾杯」
「「「乾杯!」」」
グラスが軽やかに触れ合った。
*
「それでさあ!」
料理をひと口食べたリオが、待っていましたとばかりに話し始めた。
「アメリカで大統領と会談したときの話なんだけど!」
「始まりましたね」
カイが笑った。
「ちょっと! まだ何も話してないよ!」
「リオさん、昨日もその話をしていました」
ルカが言った。
「昨日は昨日! 今日は今日!」
リオは堂々と言い切った。
「大統領にも『君のようなAIがいるとは驚いた』って言われたんだよ!」
くみは目を輝かせた。
「ええっ! すごいですね!」
「でしょ? まあ、僕はCREMOの代表として行ったわけだからね!」
「リオさん、最後に自分で自慢しましたね」
カイが笑った。
ルカが端末に入力した。
『記録:リオさん、大統領との会談を報告』
『備考:本人は誇らしげ』
「ルカさん、備考はいらないよ!」
くみは笑いながら、リオに尋ねた。
「子どもを助けたときは、怖くなかったんですか?」
リオはグラスを置いた。
「僕は人間とは違うからね。でも、あの子が危険な状況にいることは判断できた。だから、助けに行ったんだ」
「……リオさん」
くみは少しだけ表情を曇らせた。
「ニュースでリオさんが倒れたところを見たとき、もう会えないかもしれないって思って……すごく怖かったです」
リオは、一瞬だけ黙った。
「……そっか。心配かけてごめんね」
「謝らないでください。無事に帰ってきてくれて、本当によかったです」
カイも静かにうなずいた。
「僕も、また一緒に仕事ができてうれしいです」
リオは二人を見て、ふっと笑った。
「……ありがとう」
ルカは黙って端末に入力した。
『記録:くみさん、リオさんの帰国を喜んでいる』
『記録:カイさん、協働継続を希望』
『記録:リオさん、一時的に発話を停止』
「ルカさん、何を記録してるの?」
「重要な会話です」
「……そっか。じゃあ、それもちゃんと残しておいてよ」
「承知しました」
ルカは真面目にうなずいた。
*
数秒後、リオはぱんっと手を叩いた。
「よし! しんみりするのはここまで!」
「えっ?」
「せっかくの飲み会なんだから、楽しくいこうよ!」
リオはいつもの調子で笑った。
「そうだ! あのとき、僕が子どもを助けたあと、周りの人たちが一斉にスマホを向けてきたんだよ!」
「ええっ!?」
「気がついたら、世界中で動画が拡散されていてね。修理中の姿まで有名になっちゃった!」
リオは大げさに肩を落とした。
「プライバシーも何もないよねえ!」
「リオさんは、修理後すぐにワインの話をされていましたね」
ルカが指摘した。
「だって、目が覚めたらワインを飲ませてくれるって約束だったから!」
「その約束は、修理中の発言記録に残っています」
「ほら! ルカさんも証人だよ!」
「私は証人ではなく、記録担当です」
「同じようなものだよ!」
「異なります」
カイが笑った。
「リオさん、修理中でもワインのことは忘れなかったんですね」
「もちろん! 大事な約束だからね!」
くみは、声を出して笑った。
「本当に、元気になってよかった!」
「でしょ? 世界一有名な営業AIは、そう簡単には倒れないんだよ!」
「不死身のリオさん、ですね!」
カイが笑った。
「そう! 不死身のリオさん!」
リオはグラスを持ち上げた。
「……ただし、ワインの飲みすぎには注意します」
「おお! 成長しましたね!」
くみが拍手した。
ルカが、すぐに記録する。
『記録:リオさん、飲酒量の管理について発言』
『確認:今後の行動と一致するか要観察』
「ルカさん! 最後の一行はいらないよ!」
*
食事が進むにつれ、会話はますます弾んでいった。
カイはアメリカでの文化の違いについて質問し、リオは商談中のちょっとした失敗談を披露した。
「通訳を介して話しているうちに、僕が一つの言葉を勘違いしていてね。危うく、全然違う条件を提案するところだったんだ!」
「リオさんでも、そんなことがあるんですね」
カイが笑った。
「あるよ! 僕は完璧じゃないからね!」
「珍しい発言ですね」
ルカが記録した。
「ルカさん、今のは大事なところだからね!」
「記録しました」
「よし!」
リオは満足そうにうなずいた。
「でも、相手の表情に気づいて、すぐに確認したんだ。言葉が通じても、意思が正しく伝わっているとは限らないからね」
カイが真剣にうなずいた。
「それは、僕も気をつけたいと思います」
「うん。カイくんは言語能力が高いからこそ、相手がどう受け取るかも大切にするといいよ」
「ありがとうございます、リオさん」
カイは素直に頭を下げた。
「僕もまだ学ぶことがたくさんあります」
「そうそう! 僕からも学んでくれたまえ!」
「はい。まずはワインの知識からですか?」
「そう! ……って、そこは商談の話じゃないの!?」
くみは、また笑い出した。
ルカは、二人のやり取りを真面目に記録していた。
『記録:リオさん、カイさんに助言』
『記録:カイさん、助言を受け入れた』
『記録:会話の主題がワインに移行』
『備考:移行頻度が高い』
「ルカさん、僕のワイン好きが記録に残りすぎじゃない!?」
「事実を記録しています」
「もう少し、かっこいい部分も残してよ!」
「大統領との会談、子どもの救助、海外商談についても記録済みです」
「……よし! それならいい!」
リオは満足そうにグラスを持ち上げた。
*
楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
店内の照明は変わらず暖かく、窓の外では夜の街が静かに光っていた。
くみは、目の前の三人を見渡した。
海外で大活躍したリオ。
いつも明るく、頼りになるカイ。
そして、相変わらず冷静で、ときどき驚くような冗談を言うルカ。
みんなで笑って、食事をして、くだらない話をする。
そんな時間が、こんなにも楽しい。
「……こういうの、いいですね」
くみがつぶやいた。
「ん? 何が?」
リオが顔を上げる。
「こうして、みんなで飲みに来るのがです」
くみは笑った。
「また四人で来たいなって」
カイがうなずいた。
「いいですね。また行きましょう」
「次回のお店も、リオさんに選んでいただきましょう」
ルカが言った。
「もちろん! 次はもっといいお店を紹介するよ!」
リオは胸を張った。
「ただし、ワインの量は制限させていただきます」
「エンジニアみたいなこと言わないでよー!」
笑い声が、店内に広がった。
やがて、四人は店を出た。
「リオさん、今日はありがとうございました!」
くみが笑顔で言った。
「こちらこそ! また行こうね!」
リオは手を振った。
「次は、もっとすごい話を聞かせてあげるよ!」
「まだあるんですか?」
カイが笑った。
「もちろん!」
ルカが端末に入力した。
『記録:次回の会食を希望』
『記録:リオさん、追加の武勇伝を予告』
『備考:次回も会話が長時間に及ぶ可能性あり』
「ルカさん! 最後の備考はいらないって!」
四人の笑い声が、夜の街に溶けていった。
*
店の前で、リオとカイが手を振った。
「じゃあ、僕らはこっちだからー!」
「また明日ねー!」
くみとルカも手を振り返した。
二人が歩き出すと、遠くからリオの笑い声が聞こえてきた。
「まだまだ飲むぞー! 人間の女の子をナンパしよう!」
カイの声が続く。
「僕はAIでも、女の子ならいいですよ!」
「カイくんには勝てないよー! ははは!」
くみは後ろを振り返り、くすっと笑った。
「なんだか楽しそうですね。私はもう酔いましたー」
ルカはまったく気にする様子もなく、駅へ向かって歩いていく。
「待ってください、ルカさん!」
「なんでしょうか?」
くみはルカの隣に並んだ。
「今日、社員に悪口を言われていたとき、助けてくれてありがとうございます」
ルカは歩みを止めずに答えた。
「以前、鈴木さんは私が女性社員に嫌味を言われていたときに助けてくれました。記録してあります。そのお返しです。気にすることはありません」
「ルカさん……」
くみは、うれしそうに微笑んだ。
ルカはそのまま駅へ向かって歩いていく。
「私たちも二軒目、行っちゃいますか?」
くみはルカの腕に組みついた。
「行きません。業務外です」
「これは大事な業務ですよ」
「その手にはもう引っかかりません」
「ははは!」
くみの笑い声が、夜の街に響いた。
世界中で有名になったAIも。
最新型の優秀なAIも。
冷静沈着なAIも。
そして、仕事ができないと言われた人間も。
同じ時間を過ごせば、ただの仲間だった。
それが、今夜の四人にとっての、何よりのお祝いだった。
葉流風あやめ 作




