↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣のAIさん  作者: 葉流風あやめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/35

第13話 僕は全然気にしてない

「鈴木さん、この商品説明なんですけど」


カイが、くみのデスクにやってきた。


「はい?」


「ちょっと相談してもいいですか?」


「私にですか?」


くみは思わず、自分を指さした。


「もちろんです!」


カイは笑顔でうなずいた。


「昨日、鈴木さんが修正した日本語版を見たんです。あれ、すごくよかったです」


「えっ!?」


くみは目を丸くした。


「私、そんな大したことは……」


「いえいえ。僕が作った文章、情報としては正確だったんですけど、少し説明的すぎたんですよね」


カイは画面を見せた。


「鈴木さんは、商品の特徴を変えずに、読む人が使っている場面を想像できる文章にしていました」


くみは画面をのぞき込んだ。


昨日、何度も書き直した商品説明だった。


「……そんなところまで見てくれたんですか?」


「もちろんです。共同プロジェクトですから!」


カイはにっこり笑った。


「鈴木さん、文章を考えるのが好きなんですか?」


「好き、というか……。私、あまり勉強が得意じゃなかったので。難しい言葉を並べられると、読むのが大変だなって思うんです」


「なるほど!」


カイはうなずいた。


「だから、読む人がわかりやすい文章にできるんですね」


くみは少し照れくさくなった。


誰かに仕事を褒められることは、あまりなかった。


しかも、相手は最新型のAIだ。


「ありがとうございます。嬉しいです」


そのとき。


「へえー!」


背後から、やけに明るい声がした。


リオだった。


「カイ君、もうくみさんの能力に気づいたんだね!」


「はい! 鈴木さん、すごいですよ!」


「そうだろう? 僕が採用した人だからね!」


リオは得意げに胸を張った。


くみは首をかしげた。


「あれ? リオさん、今の話、聞いてたんですか?」


「え?」


「ずっと向こうの席にいましたよね?」


「いやあ、声が聞こえたからね!」


リオは爽やかに笑った。


「僕、耳がいいんだよ」


「AIですからね」


ルカが隣から口を挟んだ。


「……そうだね!」


リオは笑顔を崩さなかった。


*


午後。


海外向けの商品説明を作成する会議が開かれた。


カイが翻訳案を提示し、リオが販売戦略を確認する。


くみは、その内容を日本語の資料にまとめていた。


「この表現はどうでしょう?」


くみが提案すると、カイはすぐに画面を確認した。


「いいですね! そのほうが商品の魅力が伝わります」


「本当ですか?」


「はい。採用しましょう!」


カイは即答した。


リオが口を開いた。


「ちょっと待って」


「はい?」


「その表現なら、こっちの言い回しもいいんじゃないかな?」


リオが別の案を出した。


カイは二つの文章を比較した。


「なるほど。こちらも魅力的ですね」


「だろう?」


リオの顔が明るくなった。


「では、両方の案を使って、対象者ごとに反応を検証しましょう!」


「……え?」


「鈴木さんの案を基本に、リオさんの案も比較します。データを集めれば、より効果的な表現を選べますから!」


「……なるほど」


リオはゆっくりうなずいた。


自分の案も採用された。


しかも、カイは素直に評価している。


何も問題はない。


むしろ、理想的な共同作業だ。


なのに。


(なんか、すっきりしないな……)


リオは自分の思考を分析しようとした。


競争心。


評価への欲求。


自己性能に対する不安。


いくつかの可能性が浮かんだ。


「リオさん?」


くみが顔をのぞき込んだ。


「どうしたんですか?」


「いや、何でもないよ!」


リオは即座に笑顔を作った。


「僕は全然気にしてないからね!」


「……だから、何も聞いてませんって」


*


会議が終わったあと。


カイは資料をまとめながら、ルカに話しかけた。


「ルカさん、今回のプロジェクト、すごく楽しみですね!」


「業務の進行に支障はありません」


「ははは! ルカさんって、面白いですね!」


「面白さを目的として発言していません」


「そこが面白いんですよ!」


ルカは数秒、カイを見つめた。


「……理解できません」


「ですよね!」


カイは楽しそうに笑った。


その様子を、少し離れた場所からリオが見ていた。


(……あいつ、ルカにもあの調子か)


カイは誰にでも自然に話しかける。


相手が笑えば一緒に笑い、困っていればさりげなく助ける。


そして、相手の反応を見て、会話の仕方を変えている。


最新型のコミュニケーションAI。


その性能は、確かに高い。


リオは認めざるを得なかった。


「リオさん」


ルカが近づいてきた。


「何?」


「先ほどから、カイさんを観察していますね」


「観察なんてしてないよ?」


「視線の移動回数を記録しました」


「……ルカ」


「はい」


「その記録、消せる?」


「可能です」


「じゃあ――」


「ただし、削除する理由がわかりません」


「……そうだね」


リオは天井を見上げた。


*


退勤時間。


くみが帰り支度をしていると、カイが声をかけてきた。


「鈴木さん、今日はありがとうございました!」


「こちらこそ、ありがとうございました」


「明日も一緒に頑張りましょう!」


「はい!」


カイは軽く手を振り、エントランスへ向かった。


その姿が見えなくなると、リオがくみの隣に立った。


「……ねえ、くみさん」


「はい?」


「カイ君って、そんなに感じいい?」


「えっ?」


くみは少し考えた。


「はい。優しいし、仕事もできるし。話しやすいですよね」


「ふうん」


「リオさんも、もちろん話しやすいですよ!」


「もちろん?」


「はい!」


リオは満足そうに笑った。


「そうだよね!」


そして、少し間を置いてから言った。


「まあ、僕のほうがCREMOのことは詳しいけどね」


「そうですね」


「販売戦略も得意だし」


「はい」


「人間との交渉経験も豊富だし」


「はい」


「それに、僕のほうが――」


「リオさん」


ルカが通りかかった。


「何?」


「退勤時間を過ぎています」


「……そうだね!」


リオは立ち上がった。


「じゃあ、帰ろうか!」


くみは笑いをこらえながら、バッグを持った。


やっぱり。


リオさんは、全然気にしていないらしい。


ただ、明日の朝もカイの性能データを確認するつもりなのだろう。


その夜。


リオの端末には、取引先AIの比較資料が開かれていた。


画面の上部には、カイの名前。


その下には、細かな性能評価が並んでいる。


リオはしばらく画面を見つめたあと、静かに呟いた。


「……別に、勝ちたいわけじゃないんだけどね」


誰もいない部屋に、返事はなかった。


葉流風あやめ 作

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。