ギャル軍団、三人でプールを満喫
夏の日差しが容赦なく照りつける、絶好の屋外プールびより。
更衣室での準備を終えた私たちは、すでにそれぞれの水着に身を包み、プールサイドへと足を踏み入れていた。
「っしゃー!着いたー!」
真っ先に声を上げたのはユナだ。
防水ケースに入れたスマホをしっかりと首からぶら下げ、青空に向かって両手を高く掲げている。
「いぇーい!」
あゆっちも弾けた笑顔で、ユナに応じるように両手を上げる。
「ちょっと二人とも、はしゃぎすぎじゃね」
私は頭の高い位置でまとめた髪を軽く整えながら息を吐いた。
「だってプールだよ?夏だよ?テンション上げなきゃ損じゃん!」
「気持ちはわかるけどさ」
ユナの膨れっ面に苦笑しつつ、私は周囲を見渡した。きらきらと輝く水面からは、大勢の歓声が響いてきている。
「で、最初どこ行く?流れるプール?」
「その前に写真撮ろ!三人で!」
流れるプールを提案した私を遮るように、ユナがすかさず提案した。
「えー、先に場所取ろう。サンシェードとか、いい位置埋まっちゃわね?」
「いいじゃん、写真くらい!今が一番メイクも髪型もバッチリなんだからさ!」
ユナは首からぶら下げていたスマホを器用に手に取ると、すでにカメラアプリを起動している。あゆっちも「賛成ー!」とばかりに隣でポーズを取り始めていた。
「はいはい。撮るなら早くしてよね」
私は観念したように二人の隣へと並んだ。
中央のユナがスマホを高く掲げ、三人全員が画面に収まるように角度を調整する。
「じゃ、いくよー!いぇーい!」
パシャッ。
軽快なシャッター音とともに、夏の眩しい光に負けないくらい元気な三人のはじける笑顔が、スマホの画面にしっかりと収まった。
「よし!ストーリーに上げよ!」
「はやっ。まだプール入ってもないんだけど」
「いいじゃん、記念だし!ほら、あゆっちもタグ付けすんね!」
「ありがとー、すぐシェアする!」
「はいはい。もう行くよ」
スマホを突き合わせて盛り上がる二人を促すと、私は真っ先にプールへ向かって歩き出した。その後ろ姿を、ユナとあゆっちが笑顔で追いかけていく。
私たちは、念願の『流れるプール』へと足を浸した。
ひんやりとした心地よい水が体に馴染むと、一気に夏の暑さが吹き飛んでいく。流れに身を任せてぷかぷかと浮かぶのは最高に気持ちがいい。
……はずなのだが、前を進むユナの手には、相変わらず防水ケース入りのスマホが握られていた。
「はい、こっち向いてー!動画回してまーす!」
ユナが自撮り棒代わりに腕を伸ばし、レンズをこちらに向けてくる。
流れに揺られながらポーズを取っていたあゆっちが、画面を確認した瞬間に「あ!」と声を上げた。
「ちょ、待って!今のあーし、盛れてなくない?」
あゆっちは濡れた前髪を気にしながら必死に抗議する。
「いや、角度が大事じゃん! もう一回上から撮って、ユナ!」
「おっけー、じゃあ次いくよ!」
ユナが「ほらひよりんも!」と不意打ちでカメラを向けてくる。
「――っ」
私はわずかに顔をしかめつつも、レンズを向けられた瞬間に身体が勝手に反応してしまい、顔の横で反射的にピースサインを作っていた。
「あはは!日和、ポーズ完璧じゃん!」
「……うっさい。早く前向きな、流されるよ」
あゆっちにからかわれ、私はぷいっと顔を背ける。
ひとしきり流れるプールを満喫した後、ユナがプールの敷地の奥を見上げて目を輝かせた。
「次、あれ乗ろう!」
ユナが勢いよく指さした先には、青空に向かってうねるように伸びる、巨大なウォータースライダーがそびえ立っていた。
「うわ、結構高くない?」
あゆっちは少し身震いするような仕草を見せつつも、楽しそうに笑いながら見上げた。
「マジ楽しそうじゃん!行こ、行こ!」
「オッケー。せっかくだし、乗っとこ!」
私もつられて笑うと、足早に歩き出す二人のあとについていった。
見上げるよりも、実際に上ってみる方がはるかに高く感じる。
コンクリートの階段を一段ずつ上り、じりじりと照りつける太陽の下で自分たちの順番を待つ。
そして、ついに私たちの番がやってきた。
係員の合図とともに、勢いよく滑り出す。
「きゃあああっ!」
トンネルの中に、ユナの突き抜けるような叫び声が響き渡った。
「ちょっ、速っ!やばっ!」
カーブを曲がるたびに体が激しく揺さぶられ、あゆっちもスリル混じりの笑い声を上げる。
激しい水の流れに乗って、視界が高速で回転していく。
「――っ、あはははっ!」
私も思わず声を上げながら、水しぶきを切り裂いて勢いよく滑り降りていった。
ドボォン!!
プールの水を少しばかり浴びながら、もがくようにして水面から顔を出した三人は、同時に顔を見合わせた。
「やっば!めっちゃ楽しいんだけど!」
髪をツインテールごと振り乱しながら、ユナが興奮した様子で叫ぶ。
「あははっ、もう一回乗ろうよ!」
あゆっちも巻いていたポニーテールをすっかり濡らしながら、満面の笑みで言った。
「いいじゃん! 次は連続で乗ろ!」
私も前髪をかき上げ、弾けたような笑顔で賛成した。
スライダーを何度も連続で滑り倒し、さすがに少し疲れた私たちは、休憩がてら浅いプールをゆっくりと歩いていた。
そんな中、ユナが「あ、見て」と、賑わう人混みの一角を指さした。
「青葉じゃん!おーい、青葉ー!」
ユナが大きく手を振ると、クラスメイトらしき女の子たちと楽しそうに話していた清水青葉が、こちらに気づいて表情を明るくした。
「あ、ユナ!それにひよりんにあゆっちも!みんなで来てたんだ」
青葉は友達に少し断りを入れてから、こちらへと歩み寄ってきた。
「そっちこそ、クラスメイト?」
あゆっちが尋ねると、青葉は「うん、今日はオフだし息抜きにね」と爽やかに笑った。
「いいなー、青葉もこっち来て一緒に遊ぼうよ!」
「あはは、今日は友達と来てるから。また今度ね」
ひとしきり盛り上がったところで、青葉はふと、何かを思い出したように視線を少し泳がせた。
「そういえば、ひよりん」
青葉が、どこか少し言いにくそうに口を開いた。
「ひよりんのお兄さんって、最近どうしてる?」
突然降ってきた兄の名前。私は特に気にする様子もなく、あっさりと答えた。
「あいつ?合宿中だけど」
「合宿?」
「オカルト研究会の。なんか、結衣ちゃんと一緒らしいよ」
「……えっ?」
その瞬間、青葉の動きがピタッと固まった。
青葉は目を見開いた。さっきまでの爽やかな笑顔が、驚きの表情に変わる。
「如月先輩も、一緒?」
「そう言ってたけど」
「……どうして?」
思わずといった様子で青葉の口から言葉が漏れる。
「知らない。あいつに聞けば?」
「あ、う、うん……だよね」
ちょうどその時、遠くから青葉の友達が彼女を呼び戻す声が響いた。
「あ、青葉ー!そろそろ次行こー!」
「あっ、はーい!今行く!」
青葉はそちらに手を振り返すと、名残惜しそうにしながらも、私たちに向かって小さくお辞儀をした。
「……じゃあみんな、また!」
「うん、またね!」
どこかそわそわした様子のまま、青葉は自分のグループへと走って戻っていった。
清水青葉と別れた後、さすがにお腹が空いてきた私たちは、プールサイドにある売店へと向かった。
お昼時ということもあり、売店の前には長い行列ができている。ソースやタレの香ばしい匂いが漂う中、私たちは順番を待ちながらメニュー表を見上げていた。
「ねー、アタシ焼きそばにしよっかなー。でもフランクフルトも捨てがたいんだよねぇ」
「ユナ、さっきから食べる話ばっかじゃん。流れるプールでもお腹空いたって言ってたでしょ」
「だってプール来たらお腹すくっしょ!」
「あはは、確かに。あーしはクレープにしようかな」
そんな他愛のない会話をしていた時だった。
私たちのすぐ後ろに並んでいた若い男二人組が、距離を詰めて声をかけてきた。
「ねえねえ、君たち三人?これから俺たちと遊ばない?」
あまりにベタな声かけに、ユナは相手の顔を見て、面白そうに片眉を上げた。
「えー、なになに? ナンパ?」
「まあ、そんなところ。せっかくだし、俺たちと遊ぼうよ。奢ってあげるからさ」
男たちが調子に乗ってさらに一歩近づいてくる。あゆっちは困ったように眉を下げて苦笑いしながら、やんわりと拒絶の意思を示した。
「悪いけど、あーしら、今日は友達と来てるので」
しかし、男たちはあゆっちの態度を見て、いけると思ったのか引き下がらない。
「いいじゃん、ちょっとくらい。そっちのコもさ、一緒にさ――」
男の一人が、ここまで完全に沈黙を守っていた私の肩へ手を伸ばそうとした、その瞬間。
「失せろ」
私は、男たちを冷徹な瞳で一瞥して言い放った。
「……え?」
笑顔すらない。声を荒らげるわけでもない。圧倒的に冷ややかな声音。
男たちは言葉を失って完全にフリーズした。
「いや、そんな怒んなくても……」
男が引きつった笑みで言い訳がましく呟くが、私の冷徹な視線は微動だにしない。
「失せろ、って言ってんの」
「…………」
男たちは何も言い返せないまま、すごすごと列から離れ、足早に退散していった。
その情けない後ろ姿を見送りながら、ユナが我慢しきれずにぷっと吹き出した。
「ひよりん、こっわ! 今のマジで効いたっしょ!」
「しつこいからでしょ」
「いやー、今のは効いたわ。絶対、あの人たち今日一日引きずるわ」
「うっさい。ユナ、何食べんの?」
私は何事もなかったかのように昼食選びへと意識を戻した。
「え、アタシ焼きそば!」
「じゃあ、ウチもそれでいいや。あゆっちは?」
「あーしはやっぱりクレープにしよっかな!」
撃退された男たちのことなど忘れ去り、私たちは再び楽しげにメニューを選ぶ。
無事に購入できた焼きそばとクレープを手に、私たちはパラソルの下のベンチへと移動した。
「んん~!やっぱりプールで食べる焼きそばは最高!」
口いっぱいに焼きそばを頬張りながら、ユナが幸せそうに目を細める。
お腹が満たされると、午前中の疲れなんて綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。
「よし!エネルギーチャージ完了!午後も遊びまくるよー!」
ユナが勢いよく立ち上がると、頭のツインテールが再び元気よく跳ねた。
「賛成!じゃあ、まずは腹ごなしにまた流れるプール行く?」
「いや、そこはウォータースライダーっしょ!」
あゆっちの提案を遮り、ユナがニカッと笑って巨大なタワーを指さす。
「あはは、ひよりんも行くよね?」
「もちろん!さっきので完全にコツ掴んだからね。次は誰が一番綺麗に着水できるか勝負しよ!」
「お、受けて立とうじゃん!」
「負けないよー!」
私たちは再び、賑やかなプールの喧騒へと飛び込んでいった。
午後のプールは、太陽の光を浴びてさらにきらきらと輝いていた。
その後も、流れるプールで浮き輪の奪い合いをしたり、ビーチボールで遊んだりと、私たちは時間の許す限り全力で夏を満喫した。
気づけば太陽は少しだけ傾き、プールの水面をオレンジ色に染め始めようとしていた。
「あー……めちゃくちゃ遊んだわぁ……」
プールサイドのベンチに寝そべり、ユナが完全に真っ白な灰のようになって呟く。
「ユナ、今度こそ本当にバッテリー切れだね」
あゆっちがクスリと笑う。あゆっちの巻いたポニーテールも、私の髪型も、今はすっかり水に濡れてストレート気味になっていたけれど、その顔にはやりきったような充実感が満ちていた。
「ほら二人とも、そろそろ更衣室混むから上がるよ」
二人を促しながら、荷物をまとめ始める。
「はあい」
「りょ」
ユナとあゆっちが気の抜けた返事をしながら立ち上がる。
更衣室へ向かう私たちの影が、プールサイドに長く伸びていく。
日焼けした肌の火照りと、心地よい疲労感。
更衣室での着替えと身支度を終え、私たちはプールの退場ゲートをくぐった。
外に出ると、夕方の心地よい風が、火照った肌を優しく撫でていく。プールを出た時はまだオレンジ色だった空も、今では綺麗なグラデーションの夕焼け空に変わっていた。
「あー、本当に楽しかったねぇ」
すると、前を歩いていたユナが突然くるりと振り返り、首から下げていたスマホをパッと構えた。
「はいストップ! 最後にもう一枚撮るよ!」
「えー?最初にも撮ったじゃん」
私がバッグの紐を肩にかけ直しながら、苦笑交じりに足を止める。
「最初と最後は別!思い出じゃん!ほら、あゆっちもひよりんも寄って寄って!」
あゆっちが笑ってユナからスマホを受け取り、三人全員と、背景の綺麗な夕焼け空も収まるように位置を調整する。
私も、文句を続けることなく自然に二人の隣へと並んだ。お互いの肩が自然と触れ合う。
「いくよー、チーーーズ!」
パシャッ。
画面の中で、夕日に照らされた三人が、今日一番の飾らない笑顔でピースサインを決めていた。一日中全力で遊んだ充実感が、その表情からはっきりと伝わってくる。
「よし、今日の写真まとめて上げよー!」
ユナがさっそくスマホを覗き込み、嬉しそうに画面をタップし始める。
「ちょっとユナ、変な顔のやつは消してよ」
「えー、ひよりん、変顔してなくない?どれも可愛く写ってるよ?」
「だから言ってんの。……半目になってるやつとか、変なタイミングのやつがあったら恥ずいじゃん」
「大丈夫だって!全部最高の写真だから!ほら、あゆっちにも送るね!」
「ありがとー、今日中に全部保存しとく!」
スマホを突き合わせて賑やかに歩く二人に、私も微笑みながら歩調を合わせる。
心地よい疲労感と、楽しかった余韻に包まれながら、私たちの夏休みの一日は、静かに幕を閉じた。




