足りない材料…!
「…ちょっと足りないっ!」
こういう時、なんでいつもちょっと足りないんだろう。やはり庭で栽培環境をもう少し改良して…はぁ。夕刻までになんとか完成できると思っていたのだが…薬草が少し足りなかった。今から裏山に行って間に合うかどうか…まぁ行くしかないか。自室に戻り、上着を着てブーツへと履き替える。階段を降りると、椅子を台所に寄せて昨日の残っていた食器を自分が使った食器と共に洗っているカータが目に入った。
「おや。ゆったり過ごしてくれてよかったのに…ありがとう」
「…ご主人様」スリスリ
トコトコとこちらによってきて私の手に頭を擦り付けてくる…!
「すまないがしばらく出る…待っていてくれ…なぁ」
カータは私の手と服の裾を手で持って離そうとしない…うぅ…一人でこの子を置いて出かけるのも少し…気が引ける。そもそも見ず知らずのものを一人で置いていって本当に大丈夫なのか…?明日までには薬を作って届けなければいけないし…はぁ。
「ごしゅじんさま…いいかおりがする」スンスン
「あぁ…これはクルマバソウの匂いだね。」
「このにおい…いっぱいあるとこしってます」
「…?まぁここら辺の森の近くでは群生地も多いが、これは乾燥した匂いで…」
「しってます!」
「わ…わかった。ちょうどこの匂いの薬草が足りなくなってしまったんだ」
そう言って私の方にヒョイと彼を持ち上げて抱き寄せる。
「案内してくれるかい?」
こくりと頷いて彼は鼻を鳴らしながら私を案内してくれるようだった。そうして私たちは工房の裏手にある森の中へて入って行った。夕刻までには帰れると良いが…。
──沢を越え…しばらく山道を逸れた場所へと案内される。そうしていると山脈に太陽がかかり夕闇が迫り、ランタンを持ってこなかったことを後悔し始めた頃、不意に視界が開け、小高い丘に出た。
「……ここです」
「……なんてことだ」
丘一面に、絨毯のように群生したクルマバソウ。驚いて駆け寄り、星型の葉を摘み取って肌に擦り付ける。バニラのような甘い香り。間違いない。
「まちがっていましたか……?」
カータがシュンと耳を垂らす。
「い、いや、そうじゃないんだ! でも……この薬草がこんな場所に生えるなんて」
本来なら日陰の湿った深森にしか生えないはずの薬草が、なぜこんな日当たりの良い丘に……? 疑問が頭を駆け巡り、考え込んで歩いた拍子に足を取られかける。
「あたた……っ」
「ごしゅじんさま……!?」
「す、すまない。大丈夫だよ」
パニックになる彼を撫でてやると、「……にゃぁ」と耳をピコピコ動かして安心したようだ。
「とりあえず今日はこれを持ち帰って、群生地のことは少し考えよう。さあ、帰ろうか」
も、もしかしたら新種…?なのか?いやそれにしても…あいたっ!
──クルマバソウの新種かもしれない植物をカータのおかげで採取できた…が、そもそも違いが植生くらいであまり大きな違いを感じることがない…。植物の同定をしようにもこれからさらに観察しなければいけないだろう。もともと栽培しようとしていたものよりも簡単そうだから…試してみることにする。




