自由交易都市アルカディア
ここまでのお話をちょこちょこ整理しながら書いています。書き直したところは改めて前書きの方でお伝えすることもあると思いますので、よろしくお願いいたします。今回は、『成長編』「私とは違う君」の一部を変更いたしました。
馬車が深い森の奥に隠されたアルカディアのアジトに滑り込み、重い車輪の音がようやく止まった。
扉を開けると、そこは木々に覆われた小さな石造りの小屋だった。ヒルダの手配した部下たちが手際よく馬を繋ぎ、周囲の警戒に当たっている。
私はカータの肩を借りながら車内を降り、冷たくも澄んだ森の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。泥臭い権力闘争や、あの重苦しい図書館の空気とはまるで違う、自由の匂いがした。
小屋に荷物を下ろしていると、ここまで馬車を走らせてくれたヒルダの部下たちが静かに佇んでいた。
「……ここまで送ってくれて感謝する。君たちのおかげで無事に逃げ延びることができた」
私が頭を下げると、頑強な体の部下は苦笑いを浮かべて首を振った。
「滅相もございません、モルガン様。姐さんからの厳命ですから。……俺たちはこれからパビリオンへ戻り、姐さんのサポートに回ります」
「ヒルダに伝えてくれ。……絶対に無理はするな、とな」
「へい、お伝えしておきます。……お二人とも、お気をつけて。『アルカディア』は、この森を抜けた先にあります」
部下たちは深々と一礼すると、再び馬車に乗り込み、追手を撒くため別の街道へと走り去っていった。その遠ざかる車輪の音を見送る。
「……行きましょうか、ご主人様」
何日間か小屋に滞在した後、アジトの中で旅の荷造りを整える。
父の手記を耐水性の高い革で包み直し、カータのカバンの最奥へ厳重に仕舞い込む。最小限の調合器具と、路銀、そしてヒルダから託された紹介状。どれもこれからの潜伏生活に必要なものばかりだ。
カータがしっかりと背負い直した荷物のベルトを確かめ、私の隣に立つ。その手には、もう迷いはなかった。
「ああ。行こう」
私たちは手を取り合い、木漏れ日が差し込む森の小道を抜け、しばらく歩く。
そうして半刻ほど歩いていると、森の終わりが見え、周囲が開ける。そこに広がるのは悠然とした美しい街並みだった。湿り気を含んだ風が、潮の香りと活気に満ちた人々の熱気を運んでくる。夕日に照らされて黄金色に輝く幾重もの石造りのアーチと、活気に満ちた人々の熱気にカータは驚きの声をあげていた。




