何度目かの敗北
「あれから、あの子の顔が見れない…」
あの子が言っていた「好き」はきっと、敬愛からくるものなのに……私は。
「一度しか言わない」という命がけの告白と、それに対するカータの耳元での破壊力抜群の囁き。あの朝以来、私が纏っていたはずの防壁は木っ端微塵に砕け散っていた。
調薬の手はどことなく覚束なく、カータと視線が合いそうになるたび、身体を不自然に「すっ……」と背けてしまう。
いい年してなんでこんな…。
(作業台のフラスコを不自然な手つきで磨きながら、内心で必死に自分を宥めていた)
(……あの子は、純粋で、まっすぐな、家族や親に対する親愛を伝えてくれたんだ。それを大人の私が何を勝手にドギマギして……! 冷静になれ…! )
背後で「たったっ」と軽やかな足音が近づいてくる。
「すっ……」
視線を逸らし、棚の奥にある薬瓶を意味もなく整頓し始めた。背中に届くカータの視線だけで、耳の先端がじんわりと熱い。
「……ご主人様?」
「な、なんだねカータ。私は今、調合の計算をしていて忙し……」
早口で捲し立てようとしたその瞬間。
背後からスッと近づいてきたカータが、つま先立ちになり、モルガンの大きな背中に「ぽすん」と軽く身体を預けてきた。そして、私の長衣の裾をギュッと握りしめると、横からひょっこり顔を覗き込ませて宣言した。
「ご主人様!」
カータは満足そうに「ふふん!」と胸を張ると、いつものとびきり可愛い笑顔に戻って、パッと手を離した。
「僕、冷たいお茶淹れてきますね〜!」
パタパタと楽しそうに厨房へ走っていく小さな後ろ姿。残された私は、作業台に突っ伏した。
(あんなまっすぐな目で見つめられて…あの子は……っ!)
「…謝らなくちゃ。」
あの子の純粋な優しさにただ甘え、流されているだけではきっとダメだ。自分の不甲斐なさや、勝手に動揺して避けてしまうずるさを隠したままでは、いつか後悔することになるだろう。
顔面を真っ赤に染め上げ、大きな身体を薬師特有の精密な作業台の上で丸めながら、本日何度目かの愛おしい敗北感を噛みしめるのだった。




