優しい朝
昨夜の醜態が、覚めかけた頭の中で次々と鮮明に蘇ってくる。
「……うぐっ……」
頭からすっぽりと掛け布団をかぶって…私は絶望していた。
(私は一体何を言っていたんだ……?あの子の優しさに甘えた挙句… 『行かないでくれ』? 『ダメな奴だ』? 子供相手に胸元に顔をうずめて……)
顔から火が出るどころの話ではない。全身の血液が沸騰しそうなほどの羞恥と、カータを傷つけてしまった罪悪感が交互に押し寄せてきて、布団の中で身悶えする。
「……ご主人様? 起きてますか……?」
トントン、と遠慮がちなノックの音とともに、ドアがそっと開く気配。
モルガンはピクッと体を跳ねさせると、息を殺して死んだふりを決め込もうとした。しかし、布団からわずかにはみ出していた長身の足先が、あまりの動揺に「もにょ…」と情けなく動いてしまう。
「あ、足動いた。ご主人様、朝ごはん持ってきましたよ。お粥と、温かいお茶……」
トコトコと枕元まで歩いてきたカータが、布団の端を「つんつん」と突っつく。
「……ん……う……」
布団の中から漏れ出る、蚊の鳴くような低い呻き声。普段の厳格でクールな薬師の面影は微塵もない。
「ご主人様? 体調、まだ悪いですか? お顔。見せて……」
「……入ってくるな……見ないでくれ……」
「えっ?」
モルガンは布団の端をぎゅっと握りしめ、顔だけをほんのわずか、目元すら隠れるほど覗かせた。真っ赤に染まった耳たぶと、気まずそうに泳ぐ瞳。
「……昨日は……その……大変、見苦しい姿を……」
ボソボソと消え入りそうな声で謝罪を口にする。そんな彼女の姿を見つめていたカータは、一瞬ぽかんとした後、ぷっと吹き出した。
「ふふっ! ご主人様、照れてるんですか?」
「テ、照れてなど……! 私は薬師としての尊厳と、大人としての品位をだな……っ」
「いいんです! 昨日のご主人様、すごく可愛かったから!」
「かわッ……!?」
追い打ちをかけるような純粋無垢な言葉に、モルガンは「ぐはっ」と息を詰まらせ、再び勢いよく布団の中へと潜り込んでしまった。
「もういい! 私は今日一日、この布団と一体化する! 探さないでくれ!」
「ダメですー! お粥冷めちゃいますから、出てきてくださいー!」
昨日の重苦しい空気はどこへやら。大きな布団の山に抱きついて必死に引っ張る小さなカータ。
布団の端をほんの少しだけ引き下げ、真っ赤になった顔を隠すように腕で覆いながら、モルガンは蚊の鳴くような、けれど途切れ途切れの真剣な声で呟いた。
「……一度しか、言わないからな。……よく、聞いてくれ」
ごくり、と息をのむ気配。
私は視線を明後日の方向へ泳がせながら、震える唇を必死に動かした。
「……本当に、ありがとう。私は、君のこと…好きだから…」
180センチの体を小さく丸め、命がけで絞り出した本音。言い切った瞬間に限界を迎え、再び布団へ潜り込もうとした——そのときだった。
パタパタとベッドの上によじ登ってきたカータが、布団越しに耳に近づく。
そして、恥ずかしさで熱を持った私の耳元へそっと口を近づけると、ふわりと温かい息とともに、小さな声で囁いて応えた。
「……僕も、世界でいちばん、大好きだよ。ご主人様」
くすぐったいぬくもりが、耳の奥から胸の底まで一気に駆け抜けていく。
「……っ!」
完全にノックアウトされ、もう反論することも、大人ぶることもできなくなった。
布団の中で顔を真っ赤にしたまま固まる大きな薬師と、その頭を「えへへ」と誇らしげに撫でまわされる。
朝の光が差し込む部屋に、昨日までの重い影はもうどこにもなく、甘く愛おしい時間がゆっくりと満ちていった。




