【閑話】天日干し
季節はすっかり夏。
天気も良いのでいつものように、薬草を乾燥させるために天日干しをすることにした…のだが。
風通しを良くして均一に乾かさなければならないため、竹のヘラを手に庭へ戻ると、そこにはすでに先客がいた。
「カータ。そこにいられると困るのだが」
「ん、うぅん。」
一番陽当たりのいい木枠の真ん中で、カータが猫のように丸くなっている。
「……カータ。そこは日干しの場所だ」
声をかけると、カータは小さな耳をぴくっと揺らし、目を細めて「ふにゃ……」と口の中で呟いた。薬草が日光を吸い込んでほんのりと温まり、最高の寝床になっているらしい。ふさふさの尻尾が、満足そうにパタン、パタンと草を撫でている。
「これでは草が乾かない」
モルガンは低く呟き、カータをどかそうと大きな手を伸ばした。けれど、指先がカータの背中に触れた瞬間、日差しをたっぷり含んだ毛並みの柔らかさと、規則正しい小さな寝息が手のひらに伝わってきた。
すやすやと幸せそうに眠る顔を見下ろしていると、伸ばした手はそのままぴたりと止まってしまう。
モルガンは一瞬だけ躊躇するように眉をひそめたが、やがて小さく息を吐き出すと、竹のヘラを地面に置いた。
「……まあ、今日中に乾かす必要もないか」
自分に言い訳をするように呟くと、モルガンは木枠の縁にどっかと腰を下ろした。大きな手でカータの小さな身体を壊さないよう優しく撫でさすり、そのまま頭頂部に自分の鼻先をそっと押し当てる。
(モルガンの大きな手が、カータの小さな背中を「ぽん、ぽん」と一定の心地よいリズムで撫で下ろす)
「……起きているのだろう。尻尾の先がピクピクと動いている」
モルガンは静かな声でそう呟くと、少し呆れたような、けれどどこか楽しそうな気配を漂わせた。
寝たふりを続けるカータの頭に覆いかぶさる。次の瞬間、無意識のうちにすっと顔を近づけ、カータのふんわりとしたおでこに自分の額を「ごちん」と優しくあわせた。
そのまま、日差しをたっぷり吸い込んだ毛並みの匂いを「すー……」と深呼吸するように嗅いでいる。
(モルガンの指先が、カータのふさふさした耳の裏を「くいくい」と手の手慣れた手つきで撫で回す)
抱き枕のようにカータの丸い体をすっぽり腕の中に抱え込むと、そのまま木枠の端に背中を預けてどっかりと座り直した。
「すー……ふぅ」
あごをカータの頭頂部にすっぽり乗せて、遠慮のない深呼吸。日差しを吸い込んだカータの毛並みから香る、草の匂いとお日様のぬくもりを全身で堪能する。少しからかってやろうと、空いた方の手でカータの肉球をぷにぷにと遠慮なく押しこね回し、耳の先を優しくつまんでは「ふにふにするな……」と満足気に呟いてみる。
「ご、ご主人様…」
そう言って満喫していると、急に力を込めて巻きついてきたカータの小さな腕と、無邪気な声。
「しまった」というように目を見開いたが、カータの身体が食虫植物が獲物を見つけたように…ぎゅっと抱きしめる。
「つかまえた…」
耳元で囁かれるその声に、私は小さく息が漏れる。
「か、カータ…それ…んっ」
私はあきらめて吐息をつくと、その小さな体をもう一度ぎゅっと抱き締め返し、二人は甘い薬草の香りが漂う陽だまりの中で、ゆっくりと呼吸を重ねた。
【モルガンの日記】
天気が良かったので、薬草の天日干しをしようとしたら、カータに悪戯をされた。あれは…危険すぎる。あれは…癖になってはいけないやつだ…。とりあえず、叱ってはみたが、カータには私の匂いで嫌ではないのがきっと伝わってしまっている。最近は疲れていて、何かに甘えたくなっているのが自分でもわかる。
表情を崩さないようにと頑張っている私を、あの子は意図も容易く見破ってくる。と、とにかく。忘れよう。今日は…早く寝ることにする。




