【閑話】お菓子づくり!
「ご主人様……! 僕、甘いもの作ってみたいです! ご主人様!甘いもの好きなんですよね!」
身を乗り出して目を輝かせるカータ。
小さな胸を張るその姿があまりにも愛おしく、私は目尻を下げずにはいられなかった。
「覚えていてくれたのかい?… それは嬉しいな。でも、何を作るつもりだい?」
「えへへ、僕、丸くて、真ん中にあなが開いてて……油であげると、ふんわりあま〜いにおいがするやつ!」
「ほう……ドーナツかい?」
「どーなつ! そうです、それです!」
どうやら以前、街の買い出しで見かけた露店のお菓子を覚えていたらしい。
粉をこねて形を作るドーナツなら、包丁も使わないしカータの『初めてのお菓子作り』にはぴったりかもしれない。
「よし、明日の午後は二人でドーナツを作ろうか」
「はいっ! お任せください、ご主人様!」
パタパタと嬉しそうに揺れる尻尾を見つめながら、私の胸の奥には、温かい感情が静かに満ちていくのだった。
翌日の午後。
陽射しが優しく差し込む厨房に、小麦粉と砂糖の甘い香りが漂っていた。
「カータ、ボウルに粉を入れたら、お砂糖と少しの牛乳を入れて……そう、そっとこねるんだ」
「はいっ! こねこね……こねこね……」
エプロン代わりに私の手ぬぐいを腰に巻いたカータが、小さな手で一生懸命に生地をこねている。
夢中になるあまり、鼻の頭に白く小麦粉がちょこんとついていて、頬にも白い粉の筋ができていた。
(……あぁ、付いているな)
私は無意識のうちに手を伸ばしていた。
思考を挟む間もなく、吸い寄せられるように私の大きな指先がカータの小さな頬に触れ、そのまま吸い込まれるように、彼の柔らかい頬肉を『むにっ』と優しくつまみ上げていた。
「へふっ……!? ご、ごひゅじんしゃま……?」
カータのつぶらな瞳が丸くなり、フニャリと歪んだ口元から疑問の声が漏れる。
その声で、私はハッと我に返った。
(……おや? 私は今、何を……?)
自分でも驚くほど自然に手が動き、気づけばこの愛おしい塊をこね回そうとしていたのだ。まるで、こねられている生地よりもカータの頬のほうが柔らかそうに見えてしまったかのように。
「……あ、あぁ。すまない、カータ。頬に粉がついていたから、取ろうとして……つい」
「ふふ、ご主人様の手、冷たくて気持ちいいです!」
悪びれもせずへにゃりと笑うカータに安堵しつつ、私はひっそりと自分の手元を見つめた。……危ない。理性を失っていたわけではないのに、身体が勝手にこの小さな存在を愛でようとしてしまう。これは……少々重症かもしれない。
「ご、ごほん。さあ、生地を輪っかにしてみようか」
危なくないよう私が油で揚げて、仕上げにカータが砂糖をパラパラと振りかける。
片方が太くて片方が細い、少し歪でちいさな二人だけのドーナツが完成した。
「ご主人様、どうぞ! 僕が作った、はじめてのどーなつです!」
小さなお皿を両手で大切そうに差し出してくるカータ。
一口噛み締めると、外はサクッと、中はふんわりとしていて、素朴な砂糖の甘さが広がった。
「……すごく美味しいよ、カータ。こんなに美味しいドーナツは初めて食べた」
「本当ですか……!? 良かったぁぁ……!」
パぁっと顔を輝かせ、カータは嬉しさのあまりトコトコと私に近寄ると、私の太ももに丸ごと抱きついてきた。
「えへへ……ご主人様が『あまいもの好き』って言ってくれたから、作れてすごく嬉しいです……!」
私の足に頭をすりすりと擦り付け、細い尻尾を私のふくらはぎにキュッと巻き付けてくる。しなやかで温かい尻尾の感触。
(……愛おしい)
気がついた時には、私の両手はすでに動いていた。
無意識のうちに大きな手でカータの小さな身体をすっぽりと抱き上げ、そのまま自分の胸元へと引き寄せていたのだ。
「ふにゃっ……!? ご主人様……?」
抱き上げられたカータが目を白黒させている。
私は無自覚のまま、彼の猫耳の付け根を大きな指先でゆっくりと、吸い付くように優しく揉みしだいていた。頭を包み込み、まるで親猫が子猫を毛づくろいするかのように、頭頂部から背中にかけて何度も何度も撫で下ろしている。
(壊れてしまいそうなほど小さくて、温かい……)
「ごしゅじんさまぁ……くすぐったい……けど、気持ちいいです……」
カータは一瞬驚いたものの、すぐに力を抜いて私に全身を預けてきた。のどの奥から「ごろごろ……ごろごろ……」と甘い鳴き声が漏れ出す。
「……あ」
カータのその声で、私は再び我に返った。
自分でも気づかないうちに、私は彼を強く抱きしめ、全身で愛で回していたらしい。
「す、すまないカータ。あまりに嬉しくて、つい……」
「いいえ! 僕、ご主人様にこうしてもらうの、だいすきです!」
腕の中で満足そうに目を細めるカータを見つめながら、私は自分の「無意識の行動」に内心で少しだけ頭を抱えた。
【カータのにっき】
(まるくて真ん中にあながあいたドーナツの絵)
きょうは ごしゅじんさまと どーなつを つくった。
きじを こねこねしてたら、ごしゅじんさまが ぼくの ほっぺを むにーって した。
ごしゅじんさまの ては おおきくて ひんやりして きもちよかった。
あげたての どーなつを 「おいしい」って たべてくれたから うれしくて すりすりしたら、ごしゅじんさまが ぼくを ぎゅーって だっこしてくれた。
あたまを なでなでされて、みみのうしろも モミモミされて、きもちいいが とまらなかった。
あしたも ごしゅじんさまに いっぱい なでてもらいたい。




