【閑話】君の笑顔
カータがうちに来てから二週間近くがたった。
最近、カータが子供らしく笑うところが増えてきたと……思う。
うちに来たときは…ずっと私に怯えていた、それでも生活を共にして、なんとか仲良くなれている…はずだ。
「ふぅ……よし、これで今日の洗濯物は全部干し終わったな」
青い空の下、庭の洗濯紐に白いシーツを干し終え、私は心地よい汗を拭った。
それにしても、工房で活動すると少し、息切れする時がある。あまりウリをしすぎるとよくないのだが、まだまだ私は努力しなければ…父のように。それにしても…
「……? カータ、どこへ行ったんだい?」
返事がない。
母屋のほうを振り返ると、縁側にちょこんと座っていたはずのカータの姿が見当たらなかった。代わりに、リビングの奥から「あぐっ! ……にゃぁぁっ!?」という大騒ぎな効果音が聞こえてくる。
慌てて部屋に入ってみると──
「か、カータ……!? 一体何をしているんだい!?」
そこにあったのは、カゴから溢れ出た「毛糸玉の山」と、その中心で完璧に自爆して絡まっているカータの姿だった。
「ご、ごしゅじんさまぁ……っ! たすけてくださいぃ……っ! 毛糸さんが、僕の手足をはなしてくれません……っ!」
「……それ、調合用の袋をしばる麻ひもとウールの毛糸じゃないか……!」
調合用の紐を棚から引っ張り出そうとした際、ついうっかり爪が引っかかり、転がり落ちた毛糸玉を本能で追いかけてしまったらしい。手首、足首、さらには自慢の尾っぽにまで毛糸が幾重にも巻き付き、身動きが取れなくなった猫耳少年が、瞳をうるうるさせて見上げてくる。
(…!あぁもう…。)
「まったく……じっとしていなさい。今ほどいてあげるからね」
カータの前に膝をつき、大きな手で小さな手足をそっと固定する。
ハサミを使うと危ないため、大きな手のの指先で繊細に結び目を一つずつ解いていく作業だ。大きな私が小さなカータの体に覆いかぶさるような体勢になり、どうしても距離が近くなる。
「……ふにゃ」
「ん? どうした?」
「ご主人様の手……すごく大きくて、あたたかいです……」
解かれている最中、安心したのかカータがふにゃふにゃと身体の力を抜き、私の胸元に頭をすり寄せてきた。ピコピコと跳ねていた猫耳が幸せそうに倒れ、喉の奥から「ゴロロ…ゴロ…」と機嫌の良い鳴き声が漏れ出す。
(〜〜〜〜ッッ!! 喉を鳴らすな……!!)
「……はい、解けたよ。怪我はなかったかい?」
なんとか解き終わると、カータは「ぱぁぁっ」と顔を輝かせ、パタパタと跳ね起きた。
「ありがとうございます、ご主人様! !」
「大丈夫だよ。…うわっ」
言いや否や、カータは私の太ももに抱きつき、頭のてっぺんから頬まで全力で擦り付けてきた。獣人が親しい相手に行う「匂い付け」の行動だ。
「すりー、すりー! ご主人様は僕のご主人様です!」
「わかった、わかったから! 抜け毛が服につく……! カータ、くすぐったい……っ!」
大きな体の私に、全身で甘えてくる小さなカータ。
日差しが差し込むリビングで、しばらく二人のドタバタとした平和な笑い声が響き続けるのだった。




