寝る前の日課
ご飯を食べた後、カータに頼まれて二人でベットに入る。
父の遺した図鑑を開き、カータを胸に抱いて読み聞かせる時間は、いつしか日課となっていた。
「……でね、この『風鈴草』は、夜風が吹くと小さな鈴のような音を立てて種を飛ばすんだ。父さんはよく、この音が聞こえる夜は森の妖精が踊っているんだと言って、私を笑わせたものさ」
「ようせいさん……! ご主人様、風鈴草さんのお音、僕も聴いてみたいです……!」
ベッドの中、私の腕の中ですっぽりと丸まったカータが、興奮気味に猫耳をぴこぴこと揺らしている。
分厚い図鑑のページをめくるたび、古い紙の匂いと、カータの小さな体から伝わるぽかぽかとした体温が混ざり合い、部屋をやさしく満たしていく。文字はまだたどたどしいカータだったが、私が語る薬草の知識や父との思い出を、一言も聞き漏らすまいと目をキラキラさせて聞いていた。
(……っ!! 読み聞かせを聞きながら、私の胸に背中を預けてすりすり寄ってくるこの信頼しきった仕草……っ!! 可愛すぎて…読んでいる声が震えてしまう……っ!!)
沸々と湧き出る気持ちと必死に戦いながら、私はそっとカータの頭に顎を乗せ、次のページを開いた。
「次はこれだ。見てごらん、カータ。……『星見の苔』という草だよ」
「わぁ……! お星さまみたいなかたちをしてます……!」
「そうだよ。この苔はね、暗闇でほんの少しだけ青白い光を放つんだ。父さんが王都からの帰りに持ち帰ってくれてね。部屋の電気を消して、二人で夜遅くまでこの小さな光を眺めていたんだよ……『星を掌に乗せているみたいだろう』って、父さんは少し得意そうに笑いながらね」
語りながら、ふと胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。かつては孤独と寂しさの象徴だった父の遺品や思い出が、カータに語り聞かせることで、優しく温かな記憶へと塗り替えられていくようだった。
「ご主人様のおとうさま……すごく優しい方だったんですね」
カータがそっと私の手に自分の小さな手を重ねてきた。
「あぁ……不器用な人だったが、とても優しい父だったよ。……今なら、父さんが私に何を残したかったのか、少しだけ分かる気がするんだ」
ぽつりと漏らした私の言葉に、カータは「ふふっ」と嬉しそうに目を細めた。
そして、大きなあくびをひとつ噛み殺すと、私の胸にぐぐっと顔をうずめてくる。
「ご主人様のおはなし……だいすきです……」
「……ありがとう。さあ、そろそろ目を開けているのが難しくなってきただろう。今日はここまでにしようか」
「んぅ……明日も……読んでくれますか……?」
「あぁ、もちろんだとも。毎日でも、君が望むならいくらでも読んであげるよ」
図鑑を静かに閉じ、サイドテーブルの上に置く。
ゆっくりと規則正しい寝息を立て始めたカータの背中を、落ちついたリズムでトントンと優しく叩いてやると、彼は安心したように「ごろ……」と喉を鳴らして深い眠りへと落ちていった。
腕の中にある、かけがえのない温もり。
この図鑑のように、私もまた、この小さな存在にたくさんの愛と知識を注いでいこう──
【カータの日記】
『ごしゅじんさまの だいすきな ほんを よんでもらった。
『ほしみのごけ』は おやしきを まっくらにすると あおく ひかるらしい。
ごしゅじんさまの おとうさまの おはなしを するとき、ごしゅじんさまは すごく やさしい かおをする。
ごしゅじんさまの むねのなかは ぽかぽかで いいにおいがした。
きょうも つづきを よんでもらう。』




