魔素の影響
工房に戻り、採取してきたばかりの新鮮な株と、前回採取して庭の土に植えておいた株をそれぞれすりつぶし、抽出液を試薬の入った試験管へと注ぎ込む。
夕闇が差し込む薄暗い室内に、二つの試験管が淡い青光を放ち始めた。
しかし、その輝きには明らかな差があった。
「……やはり、魔素が抜けたか」
ぽつりと漏らした言葉に、横でじっと試験管の光を見つめていたカータが「えっ?」と耳をピンと立てた。
「魔素が……ぬけた……?」
「あぁ。自家栽培をしようと庭の土に植え替えてみたんだが……ごらん。試験管の光が、今日採ってきたばかりの株より数段階も鈍いだろう?」
庭で育てた方の抽出液は、どこか濁ったように弱々しく明滅しているだけだった。
魔素を含んだ特殊な植物は、その土地が持つ特殊な地脈や湧き水、固有の魔素濃度に依存して生育することが多い。どんなに丁寧に土を耕し、水を与えても、環境が違えばただの「効果が少し強い個体になる」、しかし大きなメリットとして、土壌に栄養素が高まることで、全体の薬草たちの生育が…おそらく促進されることになるだろう。
それでも市場にはほとんど流れない上質な素材であることは間違いない。これだけでも本来であれば研究所への報告義務が発生するレベルの案件だ。
「じゃあ……ご主人様のお庭では、このすごいお草は作れないんですか……?」
しょんぼりと猫耳を寝かせ、申し訳なさそうに下を向くカータ。まるで自分の見つけた特別な場所が無駄になってしまったかのような顔をしている。
私はすぐさまカータの前に屈み込み、その小さな肩を優しく叩いた。
「がっかりすることはないよ、カータ。むしろ、これで分かったことがたくさんあるんだ」
「わかったこと……?」
「そうさ。この薬草は『あの特別な環境』でしか育たない。つまり、あの場所を大切に守りさえすれば、世界中で私とカータだけが扱える特別な薬草になるということだ。……それに、栽培できないとなれば、定期的に君と一緒にあの森へ採取に行かなきゃいけないからね。」
「またご主人様と、お散歩に行ける……!」
理由を理解したカータの表情がパッと華やぎ、パタパタと嬉しそうに尻尾が振られる。
「それに、あの場所以外にも多くの魔素を含んだものがあるとすれば、研究にも役立つ副産物も採取しやすくなるだろう」
「お散歩…お散歩!」
「ふふ…そうだよ。だからこれからも、私の優秀な助手に案内を頼むことになる。よろしくね、カータ」
「はいっ! お任せください、ご主人様!」
満面の笑みを浮かべるカータの頭を撫でながら、私は試験管の鈍い光を見つめ、薬師としての思考を深めていく。
研究はとりあえず…私だけで進めるか…。魔素を含んだ薬草は…魔法を大きく凌ぐ時もある。もしこれが国にバレたら…面倒臭いことになるだろう。
それにしても疲れが出てきた。まだ疲れが残っているのだろうか?…あんまり無理はしない方が良さそうだ…。
「よし。ご飯にしようか」
【モルガンの日記】
やはりクルマバソウは特別なものだった。魔素を含んだものを見つけるのは、研究者であればあるほど困難を極める。通常生える場所と植生地が大きく異なることが多く、通常の場所を探しても見つからないことがしばしば。さらには魔素が貯まる場所や時間帯、植物によっては採取時間によっても効能が大きく変わることがあるという。
カータはそれがわかるのだろうか…私の予想では彼に見えている青いモヤは魔素の流れだ。さらには、植物などの自然物に含まれる魔素にも反応していた。このことから、魔素の溜め込んだ植物を見極めた採取も可能なのだろう。…実に羨ましい。私の父と同じだなんて……今日はここまでにする。




