調査へ
【モルガンの日記】
昨日試しに塗り薬にした薬の経過観察。
ご飯を作っている時に気づいたのだが、自分の指の怪我がほとんど…というか全て治っていた。薬の効果としてはあまりにも高すぎる。塗り薬でこんな効能を得ることが可能なのならばあるいは…。あの植物は一体なんだったのだろう。私は長いことここで暮らしていたが、あんなところがあったなんて知らなかった。カータにもう少し話を聞こうか…少し混乱している。また明日、考え直すことにする。
朝、机に向かいながら、改めて鏡を見る。あれほど取れなかった目の下のクマがもうほぼなくなっている。体も心なしか軽い。手先の傷の治りといい、身体の芯から湧き上がるような軽さといい、あのクルマバソウらしき薬草の効能はやはり尋常ではない。そう思って、リビングの方に降りると、もうすでに起きているカータがご飯の準備をしてくれていた。
「おはようございます!」
「おはよう、カータ。今日も早いね」
リビングに響く元気な声に、心が自然と和らいでいく。
(間違いなく、あの子が導いてくれたおかげだな……)
そんな私の視線に気づいたのか、カータはエプロン代わりの手ぬぐいをきゅっと結び直し、誇らしげにピンと耳を立たせた。
「ご主人様、お顔の色がすごくいいです! 身体の香りも…とっても穏やかになって…!」
「あぁ、カータのおかげだよ。よく眠れたし、体も驚くほど軽いんだ」
「ほんとですか!? えへへ……よかったぁ!」
共感覚を持つカータには、私の体調の変化が「匂い」や「雰囲気」でしっかり伝わっているらしい。尻尾をパタパタと嬉しそうに振る姿が、眩しい朝光の中で生き生きと輝いている。
(っ~~~か…可愛い……! 頭を撫で回したい……っ!)
「……ねぇ、カータ。朝ごはんの前に、少しお話を聞かせてもらえるかい?」
「はい! なんでも聞いてください、ご主人様!」
真面目な顔で姿勢を正して向き合い、私はこの前の薬草について、優しく問いかけを始めた。
「この前採取したクルマバソウだが、実は私が見たことのないものだったんだ。是非とももう一度行って調査をしたい。そして……君がなぜあの群生地を見つけられたのか、教えてくれないか?」
真剣な眼差しで問いかけると、カータは「ふぇ……?」と目を丸くし、小さな首を傾げた。
「見たことない……? ご主人様でも知らない草だったんですか……?」
「あぁ。見た目はクルマバソウにそっくりなんだが、薬効があまりにも凄まじい。私の長年の傷も、蓄積していた疲労も一晩で消し去ってしまうほどだ。……普通のクルマバソウには、ここまでの効果はないんだよ」
語るにつれて熱が入る私の説明を、カータは不思議そうに、けれど一生懸命に聞いている。
ぴくぴくと揺れていた猫耳が、少しずつ当時の記憶を辿るようにピンと佇んだ。
「あのね……ご主人様」
カータは言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。
「あの場所、すごく『匂い』が違ったんです」
「匂い……?」
「はい。普通の草の匂いじゃなくて……冷たくて、透き通った……まるで大きな結晶みたいな、濃くて青い匂いが立ち上っていて」
視界に映る感覚を言葉にしようと、カータは小さな手で空中に大きな円を描いてみせる。
「風がふっと吹いた時に、その青い匂いが遠くから流れてきたんです。だから……ご主人様に見せてあげたくて、僕、匂いをたどって走っていったんです」
「なるほど……」
私は得心がいき、深く頷いた。
五感で自然の微細な変化を捉える稀有な才能。私のような熟練の薬師でも見過ごしてしまうような深い森の隠れ家を、あの子はその「特別な鼻と目」で見つけ出したのだ。
「……ありがとう、カータ。君のその素晴らしい力のおかげで、私は歴史に残るような発見ができたのかもしれない」
そっと目線を合わせ、誠心誠意の感謝を伝えると、カータは一瞬ぽかんとした後、顔を真っ赤にしてパタパタと耳を動かした。
「ほ、褒められた……! へへ……ご主人様のお役に立てた……!」
誇らしげに胸を張り、照れくさそうにへにゃりと微笑むカータ。
その健気で愛くるしい姿に、胸の奥から再び愛おしさが爆発しそうになる。
私は咳払いをひとつした。
「よし。朝ご飯を食べたら、仕度をしてもう一度あの群生地へ向かおう。……私の大切な助手君、案内を頼めるかい?」
「はいっ! ご主人様、僕にお任せください!」
【モルガンの日記】
共感覚というものが獣人には多く見られるという文献がある。人間よりも自然な生き物に近い彼らには、コミュニケーションの取り方一つをとっても我々の常識とはやはり一線を画すようだ。
濃青の匂い。…この近くで何かが起きている?薬草が多く育つこの地域というのは昔から地中深くを通る魔素の流れが集まる龍穴、湧出地が各地に存在している。おそらく…それらの影響によるものなのだろう。それが見えるとなると…。とりあえずこのままカータのことについても知らなくては。(走り書きで乱雑に書かれている)




