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月見草

「月見草という植物は古来、煎じて飲むものとして使われていたり、北の先住民たちは草全体をすりつぶして患部に塗ることで炎症を抑えるものとしても使われていたりする立派な薬草だよ。今ではしっかりと月見草を乾燥させ、ガラス瓶に植物油に成分を抽出させる方法で薬用オイルにして使うのが一般的だね」


「…?……?」


「こっちの銀鈴草は、水晶蘭とも言われて、見た目から一部地域で龍の鱗だとかいう伝承もあって薬効があるとされていたんだけど、あまり効果が見られないということで、最近では薬草図鑑からは外された珍しい植物だから、見つけたらとてもラッキーだよ」


「龍の…鱗…?」


「…実際に見てもらったほうが早いかな」


そう言って私は、頭に疑問を浮かべ続けているカータを庭へ連れていく。





「ほら。これが月見草。花びらが萎んでいるだろう?」


そう言うと、カータはまじまじと見ている。


「この花はね。夕暮れから夜にかけて開花して、朝には枯れる一夜花なんだ。宵を待ってその美しい姿を見せるから。月見草。待宵草って呼ばれているんだ」


「ゆ、夕方から夜だけに咲くお花……! だから『月見草』なんですね!

」

萎んだ黄色い蕾を不思議そうに指先でツンツンと突きながら、カータが大きな瞳をさらに丸くさせた。ピーンと立った猫耳が興奮でぴこぴこと細かく揺れ、尻尾がパタパタと地面の草を叩いている。


「そうだよ。だから採集するなら、夕刻から夜にかけてが一番良い成分が採れるんだ」


「へぇぇ……! じゃあ、今夜咲くところを見られますか……!?」


「あぁ、もちろん」


そういうとカータは喜んでぴょんぴょんと跳ねながら私の服の裾を引っ張って──


「見たいです!ご主人様!」


「ふふ、そうだね。そろそろ採取しても良いだろうし」


満足そうに満面の笑みを浮かべるカータの小さな頭を、私は愛おしさを込めてぽんぽんと撫でてやった。


「よし、庭の植物も確認できたことだし、一度工房に入って文字の勉強と…少しだけお手伝いしてもらおうかな」


「はいっ、ご主人様!」



静まり返った室内には、乾燥させた薬草の香ばしい匂いと、蒸留器やフラスコが放つ特有の静けさが満ちている。


お得意様からの注文書と手紙を作業台に広げ、棚に並ぶ瓶や木箱をひとつずつ確認していく。


「……ふむ。基本的な解毒薬と傷薬の材料は揃っているな。だが、来月分の納品量を考えると……『月見草のオイル』と、山奥で採れる『竜胆草』が少し心許ないか」


「ご主人様、僕もお手伝いできますか? 瓶を運んだり、お掃除したり!」


「ありがとう、助かるよ。じゃあ、あちらの棚にある空のガラス瓶を数えてくれるかい?」


カータは「はいっ!」と元気に返事をすると、慎重な手つきでガラス瓶をひとつずつ指差し、「いーち、にーぃ……」と丁寧に数え始めた。その真剣な横顔と、作業に合わせてぴこぴこと跳ねる猫耳がたまらなく愛おしい。


「それに…」


確かめたいこともある。カータとともに、納品の時に足りなくなったクルマバソウを集めに行った時、この植生地が違うクルマバソウを見つけ、乾燥させていた。

それを薬研で薬へと調薬する。できた塗り薬を肌に擦り、変化を待つ。


「…毒では…ないか?」

10分ほど経っても変化はないため、それを自分の手に塗る。ささくれや傷も多い手なら、この薬の効果も少しはわかるだろう。と言っても、薬を試しすぎた私では、どんな反応かどうかなど…データにもならないが…。


そうしてカータの方に行って一緒と、初めての勉強に苦戦しているカータを見ていると、あっという間に時間は過ぎていった。




工房の小窓から差し込む光が、少しずつオレンジ色から深い茜色へと移り変わっていく。


「ふぅ……これでひとまず終わりだ。よく頑張ったね、カータ」


「…は…はいぃ…」


慣れない頭を使って知恵熱が出そうなのか、猫耳をぺたんと寝かせて「しおしお」にしなびかけているカータ。

あまりの健気さに苦笑しつつ、私はその柔らかい頭を大きな手でぽんぽんと撫でてやった。

そして私は咳払いをして話を変える。


「そろそろ夜ご飯の準備もしようか。……だがその前に、ちょっと庭に出てごらん」


私はピッと耳を立てるカータの手を取り、茜色と濃紺が混ざり合う薄暗がりの中へ、再び庭へと踏み出した。

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