好きなもの
私たちは賑やかな街の路地を抜け、香ばしいタレの焦げる匂いに導かれてやってきたのは、活気あふれる屋台街だった。大きな肉串を一口かじると、ジューシーな肉汁が溢れ出す。カータは「おいしいです……!」と頬を膨らませて嬉しそうに尻尾を振っていた。
その様子を微笑ましく眺めていると、ふとカータがこちらを見上げて尋ねてきた。
「あの……ご主人様?」
「ん? 口元にタレがついているよ。……どうしたんだい?」
「ご主人様は……何が好きなんですか?」
予想外の質問に、肉串を運ぶ手がピタリと止まった。
「……私の、好きなもの?」
「はい! ごはんでも、お花でも、なんでも! 僕、ご主人様の好きなものをもっと知りたいです!」
まっすぐな瞳で見つめてくる。
自分自身の「好き」など、いつ以来考えただろうか。いつも調合のことや薬草のことばかり考えていて、自分の趣味趣向を人に話したことなど一度もなかった。
「じゃ…ジャガイモや、肉…。あとはそうだな……。甘い焼き菓子や、雨上がりの森の匂いは好きだよ。あとは……静かな場所で本を読む時間とかかな」
「へぇぇ……! ご主人様、甘いものが好きなんですか?」
「……あ、あぁ。少し意外だったかい?」
大柄な私が甘党だと言うのが照れくさくて視線を泳がせると、カータはパッと顔を輝かせた。
「ううん! すごく素敵です! 僕、ご主人様のことノート?に書いてみたいです」
「あぁ、もちろん構わないよ。あとで文字を教えてあげるから」
ただ赤くなった顔を誤魔化すように、カータの肉串を追加で注文する。
…別に私のことじゃなくて、君の好きなことでいいんだけどなぁ。
腹ごしらえを済ました私達は、ギルドの方に向かった。




