プレゼント
腕の中で「ふにゃ……」と小さな塊が動く感触に、私は目を覚ました。
視線を落とすと、金色の毛並みをキラキラと光らせたカータがいた。私の胸にピトッと頬を押し付けたまま、パチリと大きな目をひらめかせていた。
「あ……ご主人様、おはようございます」
「……おはよう、カータ。気分はどうだい?」
「はい…大丈夫です!お腹もすきました」
ピンと立った猫耳をぴこぴこと揺らし、尻尾をパタパタ振る姿は、昨日の弱々しさが嘘のようだ。元気いっぱいなその笑顔があまりにも眩しく、そっと布団の中で拳を握りしめた。
宿の食堂で朝食を済ませたあと、私たちは朝の活気あふれる街へと繰り出した。
慣れない人混みに少し緊張しつつも、私の服の裾をキュッと握りながらトコトコとついてくるカータ。向かったのは、街の静かな路地裏にある小さな本屋だった。
「ご主人様、ここは……?」
「羊皮紙が少し足りなくなってしまってね、店主と少し相談してくるからここで本を見ていてくれ」
そう言ってカータには内緒で店主と話をする。
「今日も羊皮紙、買っていくかい?」
「あぁ、後それと、これも一緒に」
店内に入り、私が選んだのは、子ども向けの絵入りの文字図鑑と――手のひらサイズの、頑丈な革表紙の小さなノート、それにインクのいらない小さな鉛筆だった。
「どうしたんだい?あの子」
「…私に……私に、新しい家族ができてね」
恥ずかしそうに、でも少し誇らしげに答えると、店主は「ほう」と目を丸くしたあと、どこか優しげな目を細めた。
「そりゃあいい。さっきから君の背中が見えるとずっと目で追ってるよ」
振り返ると、店内の一角で大きな図鑑を器用にめくりながらも、チラチラとこちらを気にしているカータと目が合った。視線が交差した瞬間、ぴこんと猫耳が跳ね、パッと顔を輝かせて小さく手を振ってくる。
私は店主にラッピングを頼み、カータの元へと戻った。
「お待たせ、カータ。何か面白い本は見つかったかい?」
「あ、ご主人様! うん、このお魚の本!」
「なら…それも買おう」
そう言って店主のところへと持って行かせる。
「は、はいっ! 行ってきます!」
カータは大きな図鑑を大事そうに両手で抱えると、抱えきれないほどの宝物を運ぶようにして、トコトコとレジのカウンターへ向かっていった。自分の力で買い物をさせてもらえるのが嬉しいのか、ピンと立った猫耳がぴこぴこと弾み、尻尾が誇らしげに左右へ揺れていたが、店主から値段を聞いたとき、ギョッと売る反応を見せた。
「はい…30万リラだ」
「にゃ…!?」
「はい、それとさっきの分も小切手で」
店主は差し出された用紙を受け取り、透かし模様と王都銀行の魔導印(または蝋封)を確かめると、息をのんで深々と頭を下げた。
「毎度あり。いつもありがとうございます」
荷物を受け取り、外に出る。
「ご…ご主人…さま?」
さっきまでの姿とは打って変わり、私には見えないほどに小さく縮こまったカータは、小さい声で弱々しく私に話しかける。
「申し訳ありません…あんなに高いもの…」
「…大丈夫だ。君は私が助手と言ったことを…喜んでくれた。だから」
そう言って、隠していた小さな包みを差し出す。
カータは不思議そうに首を傾げながら、ゆっくりと紙包みを開いた。中から出てきたのは、子ども向けの絵入りの文字図鑑と――手のひらサイズの頑丈な革表紙のノート、そして小さな鉛筆だ。
「……これ、僕に……?」
「あぁ。字を覚えたら、そこに君の好きなことを書いてごらん。今日食べたものや、気になった匂いのこと……何でもいい」
カータはしばらく呆然とノートを見つめていたが、やがてじわっと大きな瞳に涙を溜め、両手で壊れ物を扱うようにぎゅっと胸に抱きしめた。
「僕の……ノート……! ありがとうございます、ご主人様……! 僕、一生懸命お勉強します……っ!」
宝物をもらった子どものように目を輝かせ、満面の笑みを向けてくる。
あまりの眩しさに胸の奥がキュッと締め付けられ、私は愛おしさを誤魔化すように、その目が隠れるほどの毛量になっている髪の小さな頭を大きな手でぽんぽんと撫でてやった。
そこで私たち二人はいい匂いを感じ、カータがお腹をグゥーっとならした。
「ふふ…。少し早いがお昼にしようか。」
そう言って彼に手を引き、抱きあげる。
「ご主人様っ?」
「いいから…ほら。落ちるぞ?」
「…!はいっ!ありがとうございます!」




