大きな私と小さな君
カチャリ、とドアの鍵を開けて部屋に入る。
「……ただいま。気分はどうだい?」
ベッドへ近づくと、カータが冷やし布を載せたおでこをこちらに向け、弱々しく目を開けた。
「おかえり……なさい、ごしゅじんさま……」
「スープを買ってきたよ。カボチャと羊乳のポタージュだ。少し飲めそうかい?」
カータは少し不安そうにこちらを見ていたので、私は咄嗟に自分でスープを少し食べて見せる。
「ほら。大丈夫」
こくりと頷くのを見て、私はベッドの端に腰を下ろした。
抱き起こしてやると、カータは小さな背中を私の胸元にぽんと預けてくる。熱を帯びた体温が、服越しにじんわりと伝わってきた。
木の匙ですくうと、とろりとした黄金色のポタージュから甘く香ばしい匂いが立ち上る。
自分の口元で「ふー……ふー……」としっかりと息を吹きかけ、十分に冷ましてからカータの口元へ運んだ。
「ほら、あーん」
差し出すと、カータは小さな口を「はむ」と開けて受け止めた。
ごくりと飲み込んだあと、目をまるくしてパッと顔を輝かせる。
「あまい……です」
「ふふ、口に合ったようでよかった。焦らなくていい、ゆっくりお飲み」
匙を運ぶたびに、小さな喉が「こくっ、こくっ」と鳴る。
口の端に少しだけ残ったポタージュを親指でそっと拭ってやると、カータは気持ちよさそうに目を細め、私の指に「すり……」と頬をすり寄せてきた。
(うぐっ……! 可愛い……ッ! )
バレないように必死で取り繕い、奥歯を噛み締めながら、私は一口ずつ、丁寧にスープを飲ませてあげるのだった。
「ごちそうさまです」
「うん…よく食べたね。お腹は苦しくないかい?」
問いかけると、カータは「はい」と小さく頷き、空になった器を置こうとした私の手に、そっと自分の小さな手を重ねてきた。
差し出された小さな指先が、私の指をキュッと包み込むように握りしめる。
私の手のひらで、あの子の両手がすっぽり埋まってしまうほどの体格差だ。あまりの小ささと柔らかさに、うっかり力を込めたら折れてしまいそうで指先を動かすことすらためらわれる。
「……どうしたんだい?」
私が尋ねると、カータは私の手を自分の両手で抱え込んだまま、頬をすり寄せるようにしてベッドの上で小さく体をすり寄せてきた。
「ごしゅじんさまの手……すごく大きくて、あたたかいです……」
「…さっきからそう言ってくれるのは…嬉しいが、私の手は骨ばっていて硬いだろう。武骨で、可愛げのない手だよ」
「そんなことないです……っ。とってもやさしくて、だーいすきな手です」
ぎゅっと指を抱きしめ直しながら、上目遣いでまっすぐに見つめてくる。
カータの細い指先、ぽやぽやとした柔らかい髪、そして胸元でパタパタと揺れる猫耳。そのすべてが愛おしくて、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように熱くなった。
「……ありがとう。そう言ってもらえると、救われるよ」
私の大きな手が頭に乗ると、カータは目を細めて「んぁ……」と幸せそうに喉を鳴らした。
身体の熱と満腹感もあってか、やがて彼の瞼が重たそうにトロンと落ちていく。握られていた親指の力が少しずつ抜けてきた。
「ごしゅじんも…いっしょにねましょう?」
そう言って、カータは小さな体でベッドの片側へゴロゴロと転がり、ぽんぽんと空いたスペースを小さな手で叩いた。あまりにも無邪気な、そして恐ろしい誘いだった。
「っ……!? い、いや、私はそこの椅子で寝るから大丈夫だ。ベッドがひとつしかないからね」
「やだ……。ごしゅじんがとおくにいるの、さみしい……。ここ、おっきいからいっしょに入れる…」
カータは掛け布団を少しめくり、ぴこぴこと猫耳を揺らしながら上目遣いで私を見つめてくる。
「おいで?」とでも言いたげに、両手を小さく広げて待っている姿は、破壊力という言葉すら生ぬるい。
私が躊躇していると、カータは「ふにゃ……」と悲しそうな声を漏らし、ベッドの端まで這い出てくると私の太ももにギュッと抱きついてきた。
「ごしゅじん……おねがい……」
太ももにすり寄せてくる柔らかい頭、足にシュルリと巻きつく温かい尻尾。
逃げ場を完全に塞がれ、私は大きく息を吐き出した。自分がこの愛くるしい生き物に勝てるはずなど最初からなかったのだ。
「……わかった。横になるだけだぞ。……私は体がデカいから、潰さないように気をつけないと……」
観念して靴を脱ぎ、ベッドの縁へ慎重に腰を下ろす。私が横になると、ダブルベッドがギシっと軋んだ。
横になった瞬間、待っていましたとばかりにカータが「えへへ」と笑い、私の胸元へすっぽりと飛び込んできた。
「あったかい……ごしゅじんさまのにおい……」
私の大きな腕の中に丸ごと収まってしまったカータは、嬉しそうに私の胸に鼻をすり寄せ、コロコロ……と喉を鳴らし始める。
こんなのが癖になってしまったら…私は後々とっても後悔することになるだろうと思いながら、腕の中に収まる柔らかくて温かい存在に心臓がトクトクと素早く打つのを隠しながら、そっと小さな背中に手を回すのだった。




