ダブルベッド
こんなに甘えられても…ど、どうすれば良いのだろうか…。
とりあえずベッドに寝かせようと部屋の奥へ向かったのだが──
「ベッドが…ひとつ…!?」
なぜだ、私は確かに「二人で泊まる」と伝えたはずだ! 部屋を間違えたか? いや、鍵の番号は合っている。
動揺して部屋の中をウロウロしていると、不意にぬくもりが頬に張り付いた。
「ごしゅじん…さま?」ピトッ
「ひゃぁ…な、なんでもない。少し待っていてくれ。私は店主と話を…!?」
「ぎゅー…」
「ひゃあッ!? な、なんでもない! 少し待っておくれ、店主と話をして──」
「ぎゅー……」
カータを降ろそうとするが全く私の身体から離れようとしない…。胸にぐりぐりと頭と耳を押し付けてイヤイヤ甘えてくる…こそばゆいぃ…。
「わ…わかったから、ほら」
「…❤️」
降ろすのを諦めて抱き直し、そのまま階段を下りてフロントへ向かった。
「ベッドがひとつ? それはそうですよ、お客さんが『ダブルルーム』っておっしゃったから……てっきり。部屋の変更? 無理無理、今日は満室だ。ツインが良けりゃ、今度はそう頼んでくださいな」
ニマニマと笑う店主に銀貨を渡しながら、私は顔が熱くなるのを感じた。
しくじった……! ダブルとツインの意味が違うなんて……。
そもそも、私以外の誰かと宿に泊まるなんて人生で初めてなのだ。
腕の中を見ると、カータが熱で荒い息を吐きながらも、どこか嬉しそうにニコリと笑いかけてきた。その無邪気な笑顔に、私の張り詰めていた心がすっと軽くなる。…君を抱いているからだろうか。こっちまで熱を帯びてきたようだ。
部屋に戻り、彼をそっとベッドへ寝かせる。カータは額に汗を浮かべ、苦しそうに呼吸していた。
「わたしのせいで…」
バックから布を取り出し、彼の汗を拭ってやり、持ってきた水筒でもう一枚の布を濡らす。
「フロスト…」
簡易冷却魔法で布を冷やし、額にあてがう。
「すまないが、熱が治るまでこうして安静にしておくように」
「…はぃ」
「食べ物を買ってくる…何か食べたいものはあるか?」
尋ねると、カータはベッドの端に座る私の大きな手へ、すり寄せるように頭を預けてきた。
「もう少しだけ…いっしょにいてほしい…です」
「……あぁ」ヨシヨシ
髪を優しく撫で続けていると、やがてスースーと安らかな寝息が聞こえ始めた。
私は起こさないように部屋を後にした。




