甘え声
──店を出て…カータの手を取ろうとすると、少し体調が悪そうだった。
「だ…大丈夫かっ!」
「ごしゅじん…ここ…人のにおいが…強くて…頭痛い」
「ほら……おいで」
私の大きなローブで包み込むようにひょいと抱き上げると、あまりの小ささに驚く。まるで羽毛でも抱えているようだ。
「いいものをあげよう…ほら、口を開けて?」
あーんと口を開けたところに、腰の薬瓶から取り出したチョコレートを口に含ませてやると、「ん……」と驚いた顔で体を強張らせたあと、緊張が解けたように「ふにゃ……」と私の首元へ頭を預けてきた。
ここまで歩いてくるのもこの子にとってはきっと大変なことだっただろう。慣れないところで無理をさせすぎてしまった。私の言うことを拒むこともできないだろうに…。
私は急いで宿に戻ることにした。
「お帰りなさい。部屋は2階だ。荷物はリビングの方に置いてある。ごゆるりと…っと!」ニヤニヤ
「あぁ、ありがとう」
カウンターに大銅貨を一枚置き、こちらをニマニマと見る店主を不思議に思いながら、受け取った鍵に書いてある部屋を開けた。
「ごしゅじん…!」
部屋に入った途端、小さな爪が服の生地に引っかかるくらい私のシャツを必死に握りしめる。見て見ると、カータの顔はリンゴのように真っ赤で、大きな瞳がうるうると揺れていた。垂れた猫耳をぴくぴくさせ、しなやかな尻尾が私の太ももへしがみつくようにシュルシュルと巻きついてくる。彼は私の服の匂いを何度も何度も鼻をひくつかせながら熱心に嗅いで…その度にぬくい息が私の首筋にハァと当たる…。
「お…おいっ!いったい何を──」
「ごしゅじんのにおい……安心するにゃ……んぁ」
喉の奥からは「コロコロ……」と、胸に響くような甘い鳴り音が絶え間なく溢れている。完全に子猫の甘え方だ。
「あついぃ……ごしゅじん、もっと……」
抱きついて離れない彼の頭を撫でながら、私は思考を必死に回転させる。手でおでこの熱を測るが…微熱程度だと思う。人酔いの症状が見られたが、体の疲れから病気も一緒に出てきたのだろうか?あぁ…どうしよう。
………まてよ。
一つの結論に辿り着いた私は頭に手を当てうなだれる…
「私があげたチョコレートの効能が……この子には効きすぎてしまったらしい。」
「にゃぁ…!」フリフリ
羊皮紙の切れ端
チョコレート
遠き土地にて栽培されていたカカオというものには様々な効能があり、父が王立植物園にて多額の資金の援助のもと持ち帰ってきた高級品。それを半分にわり中のドロっとした白いものを取り除き、種を焙煎して細かく粉砕したものに、油とカモミールを加えて練り上げ、冷やし固めたもの。主な効果として期待されるのは、人をリラックスさせる効果。そして特例として援助を認められた最大の理由…人を欲情させる悪魔の食べ物。
最初に栽培に成功し、これを献上した時、王様は大層喜んだそうで、長らく生まれなかった跡取りも誕生し、父は大層感謝の品を受け取っていた。…私が試した時にはそんなことないと半信半疑だったが、カータにはとってもきいてしまったようだった。…あながち都市伝説でもないのだろうか?




