城塞都市パビリオン
「見えてきたぞ…あそこが目的地だ」
「うわぁ…!」
街道の緩やかな坂を下りきると、石畳の街並みと賑やかな喧騒が一気に押し寄せてきた。
活気ある市場の匂い、馬車の鉄輪が弾む音、飛び交う威勢のいい声。
馬の上で、カータが目一杯に身を乗り出し、初めて見る街の光景に、ぴんと立った猫耳と尻尾が右へ左へ大忙しで動いていた。落ちそうになる身体を、私は慌てて腕の中でぎゅっと抱き留める。
「ごしゅじん…いいにおい」
「……静かに乗ってなさい。落ちるぞ」
…私の身長で馬に乗っていると嫌でも目立つ。さっさとギルドに商品を卸してしまおう。
城塞都市パビリオン
人口数千〜1万人規模の中小都市で、鬱蒼とした森林がどこまでも続く山間の盆地に力強く根を張り、乾季と雨季の二つによって姿を変える。濡れた灰色の石壁が円を描くように街を覆い、街の中心を切り割るようにゆったりと流れる大川は、連日の雨を集めて鈍色に光り、水車小屋の巨大な木輪をゴトゴトと重厚に回し続けている。王都に向けた街道が伸び、人の往来も盛んな街だ。
門をくぐり、職人街へと足を踏み入れ、王立ギルドに着くと、馬小屋に停め、店の扉を開けると、奥の方のカウンターから煙草の匂いがする。
「いらっしゃい…おぉ、森の賢者様が下界に降りてきた…キシシ」
「うるさい…納品の手続きをしたい。用意してくれ」
「久しぶりの再会だってのにつれないじゃないかぁ…おやぁ?そちらの小さい子猫ちゃんは?」
「…助手を雇うことにしたんだ」
「…キシシ。おやおやぁ?あの堅物のモルガン様が助手なんて、どういう風の吹き回しだい…キシシ」
「うるさいぞヒルダ…!」
「…少しは体調も良くなってきたみたいじゃないか。助手君のおかげかな?」
そう言って私の顔をニヤニヤと見上げながら台帳を取りに裏手へと消えていった。
「ご…ご主人様」
「す…すまない。助手などとつい口走って─」
言い終わる前にカータは私の足にぎゅっと抱きついてくる。
「嬉しい…です」
「…そうか」
「はいはーい。っと…お邪魔だったかな?」
ヒルダの声にぱっと手を放し、再び私の後ろへと隠れる。
「冗談はこれくらいにして…今回の納品は、ポーションと塗り薬。それに煙草の箱がそれぞれ30個ずつだったか?」
「あぁ、ちょっと待っててくれ、今馬から運んでくる」
「キシシ…いいよいいよ。うちのモンに運ばせるから。オィ!早くしネェか!」
カンカンと煙管をカウンターに当て、部下が持ってきた納品物を手早く確認し終え、台帳の控えと小切手、現金をカウンターの下から取り出す。
「親父さんと変わらず、良い仕事だ…キシシ…。しっかり頼むよ、最近は王都への出荷も増えて結構儲かってるんだ。来月までにできた分、最低でもこの値段以上で買い取ることを約束するよ…またきな。子猫の僕ちゃんもまたあおうね❤️」
「邪魔したな」
そう言って震えているカータの手をしっかりと握り、そそくさと店を後にする。
「…怖かっただろう」
「す…少しだけ」プルプル
馬を預けたまま、滞在するための宿をとりに行くため、いつもの通りを目指し私達は二人で歩き出した。




