街道を進んで
街道を進むにつれ、森の深い緑から徐々に人の手が入った畑や牧草地へと景色が変わっていく。爽やかな風を浴びながら、カータが「トリ!」と指を指すたび、私の胸元にポンポンと小さな頭が当たる。私は「危ないから暴れるな…」と注意しつつも、そのふわふわの耳が顎の下に当たる感触を楽しんでいた。
そうして順調に進んでいた時、カータがポツリと一つの言葉を口にした。
「…雨がきそうです」
「……なぜわかる?」
「…においがするんです」
慌てて私も確認のために腰につけている花を出す。花の花弁がキュッと固く閉じているのを見て、私は目を見張った。
「…確かにそのようだ。少し休憩にしよう」
──タープを張って、二人で水筒の水を分けて飲んでいると、予想通り雨が降ってきた。
「ごしゅじんさま…このお花は?」
「あぁ。この花はチャボアザミと言って、キク科の花なんだ。この子は賢くて、雨が近くなると花弁を閉じて身を守るんだ」
「このお花…まだいきてるってことですか?」
「いや正確には…まぁそんな感じかな」
おぉーとカータはキラキラした目を向けてくる。
「この花の根っこには油分が含んでいて、それを抽出すると薬の材料になるだけでなくそのまま使っても効能を期待できる凄い植物だ…大量に摂取すると胃が空っぽになっても戻し続けるほどの強い毒性を持つようになるが…。ちなみに花は結構好んで食べる地域もある。」
…?…?何度も首を傾げながらカータは尻尾を振って話を聞いているので、あまりにも可愛いその姿を見ていると思わず笑いが込み上げてくる。
「蛇足だったね。悪かった」ヨシヨシ
私が昔こうされたように、どうやら私もこういう会話の仕方しかできないようだ。全く困ったものである。
「それにしても…本当に鼻が良いんだね」
獣人はこの世界では珍しいわけではないが、この地域では特区のようなものを設置している街も少ないため、あまり目にすることはない。五感の鋭い者や運動に秀でる者が多い種族だとは聞いたことがあるが、1時間前の雨を当てるのは、王都で研究されている空を読む観測者や人生経験の長い農夫くらいなものだ。それを統計ではなく感覚でやるというのだから面白い。
「僕…いろんなにおいがわかるんです…少し色のついたような」
「ほぅ…興味深い。もし機会があれば私も味わってみたいな」
──そう言ってしばらくたわいも無い話を続けていると、気がつけば雨が止んでいた。私達は再び馬を進める。
昨夜の読み聞かせを思い出す。文字が読めない彼の年齢や生い立ちが改めて気にかかる。
街に着いたら、まずは薬の納品だ。それから……あの子のために読みやすい本を探してやるとしよう。
3ページ目
昨日は楽しかった。読み聞かせをするのは初めての体験だったし、自分に子供もできないだろうから…と思っていたが、また一つ彼のおかげでおもいがけない出来事が私に訪れた。しかし、文字が読めないとは…彼は一体どれくらいの年齢なのだろうか。識字率的にはわが国も高くはないとはいえ、ここら辺の地域にはある程度の教育が施されるようにもなってきている。…この文字が読めないだけで…他の言語の文字は読めるとかだろうか。今度試してみよう…。そうして図鑑は私と、一人の時には絵本を勧めてみた。納品から帰ってきたら、また続きを書くことにする。




