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第九話 白沢山の中で助手を拾う(後編)

挿絵(By みてみん)

「ところで……」

 山の神の娘は白沢の方を見る。。

「おぬし、白沢殿であろう?」

 山の神の娘を見た時から嫌な予感がしてずっと黙っていた白沢はぴくっと反応し答える。

「ええ、まあ巷ではそう言われているようですがただの町医者でして……」

「隠しても無駄じゃ。お主のことは草分神社の九尾の狐殿から聞いておる」

 先日のちりめん問屋の息子の誘拐騒ぎの際、九尾の狐はこの山で修業している天狗にも話を聞きに行っている。その時にこの山の神の娘にも会っており、それ以来ちょくちょく遊びに来ているようなのだ。

「女磨きの為に江戸の町で住みたいが、あてが無くての、親父殿もさすがに一人暮らしはいかんと言うし」

 そりゃ、見た目せいぜい十歳のおなごが一人暮らしなど奇異過ぎるし、家も借りれないだろうと白沢も思う。

「それで、九尾の狐殿にも相談してみたが、自分は人として暮らしておらんから住まわせると家もないので無理じゃが、白沢という知り合いが人間のふりをして江戸の町に住んでいると聞いておったのじゃ」


 あの狐め、面倒なことを……、白沢は心の中で舌打ちをする。

「近いうちこちらから江戸の町に出向こうと思っていた時に、なんとわらわの山に白沢殿が来るというではないか。とんで火にいる秋の虫と言うべきかの」

 もちろん、九尾の狐からの情報である。

「さっきからなんのお話です? 九尾の狐とか白沢先生が人間のふりをしてとか」

 茫然と話を聞いていた小次郎がやっとのことで口をはさむ。

 山の神の娘は小次郎を横目で見て、

「白沢殿を連れて来てくれたこと褒めて遣わす。しかし、このことは他言無用。もし喋れば山に結界を張り何人たりとも立ち入れんようにするからの」

「それはもちろん、山の神様もその娘様の言うことも我らにとっては絶対ですから」

「それは重畳。では白沢殿参ろうか」

「まだ私は了承してませんよ」

「ほう、そんなこと言うと、この山を封印して二度どこの山のきのこを食べられんようにしてもいいのだぞ、そうなると山に入れんこやつの家も飯の食い上げじゃがの」

 といって、小次郎を見る山の神の娘。

 小次郎が心配げに白沢を見る。

 むう、きのこと小次郎一族を人質にするとはなんと卑怯な、しかし、どっちにしろこの娘は私の診療所に押し掛けるつもりであろう。仕方がないきのこの為……いや小次郎さん一族の生活の為だ。白沢は観念した。


「わかりましたよ、でも修行の為ですからね。一年くらいで終わったらおとなしくこの山に帰ってくださいよ」

「もちのろんじゃ」

 こうして、白沢の診療所に子供の助手が住み込むことになった。


 さて、神田の診療所に戻った二人は……と思いきや、白沢たちはまだきのこを採った山のふもとの村にある小次郎の家にいた。採れたてのきのこを食べるためだ。

「江戸の町に持って帰ってから食えばよかろう」

「それじゃ、何のためにこんな遠くまできのこ狩りに来たのかわからないんですよ。採れたての舞茸を食べずに帰れますか」

 不服そうな山の神の娘に白沢が反論する。

「もうすぐきのこ鍋が出来ますから、もう少しだけ待ってください」

 小次郎が部屋の真ん中にある囲炉裏にかかった鍋をかき混ぜながら言う、舞茸をはじめ沢山のきのこに鴨の肉、さらにこのあたりで撮れた山菜などが入った鍋だ。


「待っている間にあなたの呼び名を決めておきましょうか」

 白沢が言うと。

「名じゃと? そうか、人の町で暮らすには必要じゃの。山の神の娘じゃからのう、山の姫とかじゃいかんか?」

「庶民として暮らすんですから、そうゆう訳にはいかないでしょう。きのこが取れる山の神の娘なので、きのこさん……おきのさんとか?」

「なんか、野暮ったいのう、他にはないのか?」

「じゃあいい舞茸が取れたから、舞……お舞さんでどうでしょう?」

「まあ、おきのよりはましじゃの」

「では、そう言うことで、十四の娘と一緒に住むというのは私の世間体が悪いので歳は十と言うことにしておいてください。それとあなたは私の親戚の娘で、しばらく預かってるってことにしますんで」

「何やらいろいろ面倒くさいのう、まあ、厄介になる身なので致し方ない。でも何もやることがないとつまらんからの、白沢殿は医者をやっておるそうじゃから、その助手と言うことで良いな」

 お舞は少しふくれっ面をしながら言った。

「ま、その辺は勝手にしてください。それより、娘さんをお預かりするのに親父殿、つまり山の神様に挨拶しなくてよかったんですか?」

「親父殿とは山そのものじゃからの、ある意味姿は現しっぱなしじゃ。さっきの一連の出来事もちゃんと聞いておるで、心配無用じゃ」


「ささ出来上がりましたよ」

 小次郎が出来上がったきのこ鍋をたっぷりとよそってくれる。鍋の他にも舞茸のてんぷらや松茸ご飯などきのこづくしだ。

 きのこ鍋には舞茸のいい出汁が出ており、鴨の脂と相まって最高の味になっている。

 更には舞茸のてんぷらは噛みしめると口中に山の香りが広がった。

「いやいや、小次郎さんの言う通り採れたては香りが違うね。ここまで来た甲斐があったよ」

 白沢は舞茸のてんぷらを頬張りながら、上機嫌だ。

「喜んで頂けて良かったです」

 小次郎はお舞(山の神の娘)が現れたことで家に帰って来てからもずっと緊張気味であったが、白沢の笑顔を見てほおが緩んだ。

「わしはいつも食べとるから珍しくもないがの」

 お舞が自慢げ言うと白沢がチクリと言う。

「江戸の町に行ったらこんなに美味しい山の幸は簡単には食べられませんよ」

 白沢の言葉にお舞が「それは困るのう」と口をとがらせる。

「私がこの山の食材はきのこでも山菜でも採りたてを急いでお届けしますので」

 小次郎が言うとお舞は笑顔になり、

「それは重畳」と言った。


 こうして白沢とお舞は絶品のきのこ料理で腹を満たし江戸は神田の診療所へと帰って行った。

 しばらく留守にしたので患者が沢山待ってるであろう。早く戻らねば。と白沢は江戸への帰路を急いだ。

 江戸の町に戻ってから九尾の狐に文句を言いに行ったら「小さな女の子の助手なんてブ〇○ク・ジャッ○みたいでよいではないか」と言われた。

 時代考証もなにもあったものではない。

                                         続く

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