第八十一話 小さな侵入者【中編】
三番目の影はもはや光に照らされて正体も見えるようになっていた。そこにいたのは鼠くらいの大きさの人。
小人であった。
大きさは現代の尺度で三センチほどであろうか。
驚いたのは薬箱によじ登っていた一番目の影と二番目の影。
勿論この二人も小人である。
二人は三つ目の影が捕まったのを見ると、慌てて下に下りようとしている。
逃げようとしているのか、三番目の影だった小人を助けようとしているのかは定かではないが、とりあえず白沢は両の手でそっと二人を捕まえた。
さすがに大きさに差がありすぎるため、小人二人は早々に観念しておとなしくお縄についた。
かくして三つの影は三人の小人と判明し、白沢は一旦自家製の鼠捕り機の中に入れた。
この鼠捕りは白沢の髪の毛で作っており、光を当てないと見えないようになっている。
また白沢の髪はそのままだと糸のように柔らかいが、白沢が霊力を込めると針金のように固くなる。
そして、中には焼き立てのカルメ焼き(砂糖と卵白を混ぜたものを加熱して、サクサクの触感にしたもの。現代でもたまに売ってるよ)を餌として吊るしていたのだ。
侵入者はまんまとその罠にかかったわけで、残った二人の小人も一旦この中に入れた上で、取り調べを行う事とにした。
「それにしても……」
白沢が戸惑ったのは小人たちの格好だ。武士の様な話し方をしていたことから侍風の格好かと思ったが、むしろ西洋風の服を着ているように見える。
「えーと、まずどこのどなたか聞いても良いですか?」
二人は黙って下を向いているが、三番目の影、つまり最初の罠で捕まった小人はまだカルメ焼きをほう張りながらもこう答えた」
「我らは……もぐもぐ……姫様お付きの武官でござる。もぐもぐ」
「貴様! だまらんか!」
リーダー格の小人が怒る。
「しかし、こうなっては是非もないことではござらんか」
「そもそも、こうなったのはお主が……」
まだ、リーダー格の男は何か言おうとしたが、二番目の影だった男も三番目の影だった男に同調した。
「蝉丸殿、確かにこうなっては正直に話して、お力をお借りするほかないかもしれません。今日拝借しようとした薬も効くかどうかわからぬのですから」
「ぐむむ」
蝉丸と呼ばれたリーダー格の男は口をつぐむ。
名前を聞くとリーダー格の男は蝉丸、二番目の影だった男は鈴丸、三番目の影だった、そして食い意地が張ったせいで罠にかかった男は福丸と言った。
「内輪の話はついたようですね。ではまずあなた方の素性を聞きましょうか」
リーダー格の蝉丸は覚悟を決めて話し始めた。
「まずは、勝手に薬を拝借していたことお詫び申す。われらは小さな……あくまでおぬしたちに比べてではあるが、小さな体の一族でもう数百年前から江戸に住んでおる。我らの先祖は元々は違う国に住んでいたがある時乗っていた船が難破して、乗っていた数十人が命からがらこの島に到着したところ、周りは天を突くような大男や大女ばかり、いや人だけではない。猫も犬も山も川も我々の国とは比べ物にならぬ大きさだった。その後、先祖は人の目を隠れるように森の中で生活していたが、森の中でも大きなな虫や動物がおり危険だった為、やがて人里に下り、人家の屋根裏や縁の下に暮らすようになったと聞いている」
確かに小人たちの姿をよく見ると、髪の毛はやや赤みがかっており、顔の色は日本人より浅黒く鼻も高い。
「そんな前から……よく家の者に気づかれなかったものですね」
白沢とお舞は感心しながら興味深く話を聞いている。
「まあ、昼間は基本的に隠れておるし、夜に見つかった時は鼠や鈴虫の真似をしてやり過ごしている。だれもこんな小さな人がいるなど想像せんから意外とばれぬものじゃ。わしの知る限り長い歴史の中で人に見つかったうっかり者は一人だけ。そ奴はうまく人の生活に馴染んだ様じゃがの、たしか一寸法師とか名乗っておったそうじゃ」
蝉丸は少し得意げだ。
「とはいえ、白沢殿のように勘の鋭いお人の家には入らないようにしておったのじゃが、のっぴきならない事情があってな」
「それが本題ですね」
蝉丸はうなずく。
「実は先祖が難破した時、船には国の姫君が乗っておられてな。江戸についた後も数百年、代々の姫君を一族の長として守っておったのじゃ。今は十五代目である。」
「今回の事はその姫君に関係が?」
「おおありじゃ、このところ姫様が胸を患っておってな、我らの持っている薬も色々と試したのじゃが一向に良くならん。そこで江戸で一番の名医である白沢殿が良い薬を持っているに違いないと思ったのじゃ。もちろん後で代価は支払うつもりであった」
「それなら普通に診療所に尋ねてくれれば良かったのに」
「我らは人から隠れて生きておるし、こんな小人が居たら普通腰を抜かすではないか? そういえばなぜお主達はわしらを見てはそんなに平然としておるのだ?」
そう言われて白沢とお舞は顔を見合わせた。
「まあ、不思議な生き物には慣れてるというか……それよりも話を聞くと、結局あなたたちの目的は姫君の体調不良を治したいということですね?」
「然り」
「然り」
「然り」
小人三人は順番に言った。
「分かりました。では今からその姫君を連れて来てください。胸を患っているという事であればもしかしたら一刻を争うことかもしれません」
「おお、これはかたじけない、恩にきりまする」
「どうでもいいですけど、見た目は西洋風のいでたちなのに、なんでそんな侍言葉なんですか? 名前も忍びみたいだし」
今度は小人三人がお互いの顔を見合わせる。
少しの間三人はごにょごにょと話し合っていたがやがて蝉丸が言うには、
「なんとなく、かっこいいから」
であった。
後篇(完結)につづく




