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第七十九話 桜の姉妹【夜桜】 

挿絵(By みてみん)


 白沢達三人は九尾の狐に教えてもらった神社の場所に向かう。

 幸い先ほどの花見会場からそれほど遠く離れてはおらず、ほどなく目的の神社につくことが出来た。

 確かに大きさはさほどではないが、立派な鳥居があり本殿にも重厚感がある。

 千年以上は歴史があると思われた。

 白沢達はまず参拝を済ませてから、あたりを見ると宮司の方がほうきで境内を掃除していたので、桜について聞いてみる。

 すると宮司は本殿の東側の方の少し開けた場所に案内してくれた。

 そしてそこには満開の時を迎えたエドヒガシが居(・)た(・)。


「この桜の木はいつからここにあるんですか?」

 白沢が宮司に尋ねると、先々代の頃に知り合いから寄進されたという話は聞いているが、はっきりした時期はわからないとの事だった。

 宮司は白沢達にお辞儀をしてまた仕事に戻って行く。


「大体ですが時期的には合ってそうですね。佐古姫様、この桜の木とお話しできますか?」

 すると佐古姫は「当然ですわ」と言わんばかりに笑みをたたえてくうなずき、桜の木の下に歩を進めると、右手をそっと桜の木の幹に添えた。

 手を幹に添えたまま一旦目をつぶってから、佐古姫はゆっくりと目を開いた。桜の木が少し揺れたように見えた。

「お久しぶりね、桜花(おうか)ちゃん」

「…………」

「そうね、今年も綺麗に咲くことができたね、よかったわ。実は今日はここに居る白沢さんが美桜の頼みであなたの様子を見に来たの、白沢さんと少しお話ししてもらえるかしら?」

「…………」


 白沢達に桜の木である桜花の声は聞こえないが、佐古姫は会話をしているようだ。

 佐古姫は幹に手を当てたまま白沢を手招きした。

「白沢さん、私の手の上に手を重ねてください」

 佐古姫の言う通り白沢は木に当てている佐古姫の手に右手を重ねた。すると桜の木の話声が脳内に直接響いてくる。

「白沢様、お話は佐古姫様より聞きました。私も美桜のことが気になっていたのですが、彼女は元気ですか?」

「ええ、元気過ぎて妖精となって人の姿に見えるようになりました」

「そうなんですの、それはとても素敵なことですわ」

 桜花は嬉しそうに桜の花を揺らした。

「いずれにせよ、本体の木からはそんなに離れられないので、私にあなたを探し出して様子を見て来て欲しいと言われまして……そうそう、彼女の花びらを少し持ってきました」


 白沢は数枚の花びらを左手に乗せて木に差し出す。

「ああ、確かにこれは美桜の花だわ、相変わらず良い香り、懐かしいわ」

 桜花は少し間をおいて再び白沢に語りかけた。

「では、私からも白沢様にお願いがあります。私の花びらも持って帰って美桜に渡してもらえませんか? そして、私は今この場所でとても大事にされて幸せですと、そしてお互い江戸に春の歓びを届けましょうとお伝えください」

「分かりました。確かに伝えます」

「ありがとうございます」

「良かったわね、桜花ちゃん」

 今回白沢は正直有力な手掛かりもなかったので、行き当たりばったりで探していたが、無事見つけることが出来てほっとしていた。

 佐古姫の手に重ねていた右手を離す。


「さて、話はついたようですわね。日もさらに落ちてきたことだし、私は宴会……いや花見に戻りますわ」

 佐古姫は幹から手を放し、そそくさと神社の出口の方に向かって行った。

「やれやれ、余韻も何もあったもんじゃないですね」

 白沢がそう言ってお舞を見ると、お舞はまだ満開の桜の木をうっとりと眺めていた。


「白沢殿、わらわたちはもう少しこの桜花殿を愛でてから行かぬか?」

「そうですね、折角ですから我々はもう少し余韻を楽しみましょう」

 白沢は落ちてくる花びらをいくつか掌にのせ、和紙にくるんで懐に入れた。

 桜花は白沢に礼を言うかの様に桜吹雪を舞わせて白沢達を包み込んでいた。

 まるで桜の世界に入り込んだような気分になる幻想的な空間で、こんな花見は白沢の長い人生の中でも初めてであった。

 その日白沢とお舞は思う存分花見を楽しんだ。


 さて、桜花の伝言を無事美桜に伝えると彼女はたいそう喜び、持ち帰って来た花びらの匂いを懐かしんでいた。

 佐古姫はまた麒麟達との宴会……いや花見に戻り夜遅くまで楽しんだとの事。

 ただ、まもなく暗くなって桜がよく見えなくなったので、九尾の狐が狐火(きつねび)を出して、灯りにしたらその周辺では人魂が出たとかなんとか、ちょっとした騒ぎになったらしい。

 まあ結局そこにいる全員が酔っぱらっているので、最終的には幻を見たのだろうということになったらしいが、やれやれである。


 そして数日後、桜の時期も終わり、すべて散ってしまった桜の花とともに妖精の美桜ともお別れ……かと思っていたが、今日も普通に縁側に座って、お舞と一緒に饅頭を食べていた。

「美桜殿って桜の妖精じゃから、花が散ったら消えるんではないのか?」

 お舞が不思議そうに聞くと、

「私は桜の木の精ですから、花が咲いていようが、散っていようが木が生きている限り居ますよ」

 との事。そりゃそうだ。


 ただ一つ変わったのは、美桜が着ている着物の色が鮮やかな新緑の色になっていたという事だった。


     次のエピソードに続く

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