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第七十一話 普通の探し物?【③】

挿絵(By みてみん)


 この幽霊が言うには、自分はここに住む大工の重吉の弟の妻ということだ。

 名前はおふじという。

 夫は七年前にすでに亡くなっていて、当時五歳の息子である宗吉を一人で育てていた。

 ところが無理が祟ったのか自分自身も病にかかり、一年前に死んでしまった。

 一人になった息子はその後、大工の重吉に引き取られたと聞いた。なぜ自分は死んでしまったのに重吉に預けられたことを知っているかというと、死んだ後も子供が心配で家の中に幽霊としてとどまっていたからだ。

 近所の人に連れられて、子供が家を出て行く際に近所の人が「重吉さんって人があんたの面倒を見てくれるからね。しっかり修行しなよ」と言っていたのを聞いていた。

 自分も宗吉についていこうとしたが、どうにもこの場所から動けない。

 家への執着が強すぎて地縛霊のようになってしまったようだ。


 しかし、体というか霊体を引きずるように家から這い出て、なんとか重吉の家を目指そうとした。確か重吉の家は神田の方にあったはず。重吉の弟がである夫が亡くなって以来疎遠になっていたが、今年五十にもなるのに嫁も取らず、一人暮らしをしていたはずだ。

 性格の悪い人という印象はないが、かなり頑固な職人だったように記憶している。

 近所の人によると大工の見習いをするようだけど、あの気の弱い子がひどい目に遭っていないか心配で仕方がない。

 おふじの幽霊……面倒くさいので今後はおふじと呼ぶが、まさに牛歩の歩みで神田に向っていたが一年近く経ってもまだ数キロしか動けていない。このままだと宗吉に会えるまで数十年かかかりそうだ。夜もだいぶ更けてきた。

 しかし途中でなにやら横から体が引っ張られていくような感覚に襲われた。引っ張られる方向に進むと今までの事が嘘のように、体が軽く動く。


 そうして引っ張られるまま大きな家に入って行くと、さらに引っ張られる間隔は強くなり、やがて一つの部屋にたどり着く。

 その部屋の中央には女の子が寝ており、隣には添い寝するような形で座布団の上に人形が置いてあった。

 引っ張っているのはその人形の様だ、正確には人形の髪の毛に力を感じて、はっと思い出す。むかし生活費の足しにするために、髪を伸ばしてそれを人形師に売ったことがある。


 間違いない、この人形の髪の一部は私の髪だ。吸い寄せられるように人形のそばに行くと、人形がむくりと起きる。

「ひい! お化け様! お許しを」

 すると人形はおふじのほうを見た。

「いや、あんたもお化けでしょうが」

 もっともな意見におふじは首をすくめる。

「こんな夜更けになんですか? この子は由緒正しき旧家の娘、幽霊にとり憑かれる覚えなどありませんよ」

「とり憑くなんて滅相もない。私は……」

 おふじはこれまでのいきさつを説明した。

「なんと、あなたの髪の毛もこの人形に使われていたのですね。髪も自分の肉体の一部なので魂が戻ろうと吸い寄せられたんでしょう、事情は分かりました。その息子さんに会いに行く間しばらく、この体をお貸ししましょう。」

「人形の体を?」

「この人形は関節が自由に動くので普通に人のように動くことが出来ます。上をごらんなさい。二階からの明かり採りがあるから、箪笥(たんす)を踏み台にして二階に上がって気づかれないように外に出るのです」

「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げたらよいやら」

「礼には及びません、私も幽霊で似たような境遇ですし、同じ人形に髪の毛を使われた奇縁もあります」


「三日後には必ず戻ってきます。ありがとうございます」

 そう言って人形に憑依したおふじは軽やかに箪笥に登り、二階へと上がって行った。その様は子ザルのような身軽さで、それは子供に会いたいというおふじの気持ちの強さの表れでもあるが、そうはいっても、体にその機能が備わっていなければ出来る動きではない。

 この人形の作者はかなりの達人であることが伺い知れた。


 人形に乗り移ってからのおふじの動きは早かった。

 途中変な猫に追っかけられもしたが、人家の中を通り抜けたりして逃げ切った。

 そして、夜のうちに重吉の家について少し遠目で様子をうかがっていたのだが、重吉は先に子供を寝かし、大工道具の手入れをしていた。夜遅くまで道具の手入れをしているのはまじめな証拠ではあるが、道具に愛着があるのか、なにかぶつぶつ喋るかけながら手入れをしている。

 特にカンナの手入れのときはまるで想い人に話すように、囁きながら手入れをしていた。さすがにちょっと気持ち悪い、大丈夫かこの人? とおふじは思った。

 そして、重吉も灯りを消して床に就いた後、しばらくすると寝息が聞こえてきたので、息子の顔を見ようとそっと扉を開けようとした瞬間、甘奈に見つかった。


 ——再度、白沢と甘奈の会話に戻る。

「で、いまその人形……というかおふじさんはどこに?」

「おふじさんが子供の様子を見たいというので、屋根裏に隠れてもらってます」

「まるで忍者だね」

「重吉さんは雇い主の家に打ち合わせに行っています。宗吉も連れて行っているので、今なら大丈夫です。どうぞ中へ」


 二人は重吉の部屋に入る。確かに天井にあるのが白沢が追っていた気配だ。

「おふじさん、大丈夫です。下りてきてください」

 すると天井裏の板がカタッと外れそこから人形が飛び降りてきた。

「いや、予想以上の身軽さだね。驚いた。あなたがおふじさんですか?」

「はい、そうです。話は聞いておりました、ご面倒をおかけしております。私にこの体を貸してくれた幽霊さんもこの町には白沢先生という探し物の名人がいるので三日が限度でしょうと言っておられましたが、戻る前に見つかってしまいました」

「で、どうですか? 息子さんの様子は?」


「毎日重吉さんにしごかれてクタクタで帰ってきてはいますが、とても楽しそうでたくましく日焼けもしていました。重吉さんに預けられて本当に良かったと思います。カンナに話しかけている姿だけは不気味ですが」

 人形は心なしかちょっと笑っているように見える。

「ちょっとおふじさん、私だってもう少し年季が入れば重吉さんや宗吉からも人として見えるようになるはずなんだから! そうですよね、白沢様」

 からかわれた甘奈が笑いながら言う。

「甘奈さんは異例の速さで付喪神になってますからね、霊力が追いついてくれば普通の人からも視認されるようになりますよ」

 次に一拍間をおいてから白沢がおふじに聞く。

「で、どうしましょうかね?」


    ④につづく

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