第六十一話 組合長のお仕事【三猫】 ※エピソードの最終話
「ちょっとちょっと、お玉さんこれは何なんですか?」
庭の犬小屋で寝ている所を起こされて拉致されてきた柴犬の茶太郎は、両の前足を化け猫幹部に抱えられて、空き家の前に連れて来られていた。
さながら捕まった宇宙人のような体制である。
「悪いな茶太郎、今日の事は今日中に済ませとうてな」
茶太郎というのは、三津屋というちりめん問屋で飼われている犬で、以前三津屋の跡取り息子が誘拐された際に息子に化けるため九尾の狐から尻尾を一本借り受けた結果、神力が宿り、人の言葉を理解してなおかつ人語をしゃべれるようになった犬である。
「それに、お前は以前猫探しの時、相棒であるウチを騙して行動を監視しとったやろ? あれは傷ついたなあ~」
「え~あれはだって白沢先生から頼まれてやったことだし……」
「どうでもええけど、語尾に『ワン』つけるの忘れとるで」
「白沢先生から頼まれてやっただけワン」
茶太郎はキャラづくりの為、語尾にワンを付けて喋る面倒くさい犬である。
「ほんまお前は面倒くさいのう、とにかくちょっとついてきてや」
お玉は茶太郎を空き家の中に案内した。
「これは……犬ですワン」
「アホ! わかっとるわ! こいつらは捨て犬や。犬は人間に世話になる生きもんやから、ウチらみたいに組合もない。生類憐みの令があるのに犬を捨てるなんてええ度胸やがこのまま子犬だけでほっといたら、死んでしまうかもしれん」
「確かにそうですワン」
「そこでや、この子犬たちに話を聞いてどこに家におったか調べてくれ。五匹丸ごとそいつに叩き返したる」
「まあ、子犬でも嗅覚はしっかりしてるんでわかるかもしれないですけど、そもそもこの子たちを捨てた家に帰すって、それもどうかと思いますワン」
「なんでや?」
「こんなかよわい子犬たちをまとめて捨てるなんて人でなしワン。戻してもまた捨てるに決まってるワン」
この頃江戸市中には野犬を保護して死ぬまで世話をする施設もあったが、この飼い主は預け賃すらケチったのだろう。茶太郎はそれも知ってて言っているのだ。
「私もそう思います」
ここまで成り行きを見守っていたアントニオも同調する。
「じゃあどうせえゆうんねん? さすがに江猫組で犬の面倒はみれんぞ」
「坊ちゃんに話してみますワン」
「え? お前飼い主と会話してるんか?」
「正確には飼い主の息子ですけど、坊ちゃんは考え方が柔軟なんで喋る犬も受け入れてくれるワン」
「大丈夫かそいつ? 逆に心配になるわ」
「大丈夫ですよ。坊ちゃんが見つけたことにして、旦那様にちゃんとした飼い主を見つけてもらいますワン」
茶太郎の言う坊ちゃんは不思議なことにも理論的に対処する利発な子で、おそらく今回の事もうまく立ち回ってくれるだろう、と茶太郎は考えている。
「なので、一旦今日の所はこのままここで寝かしといてあげてくださいワン。夜が明けたら坊ちゃんと一緒に迎えに来ますので」
そうして子犬たちそのまま空き家に残し、いくらかの食べ物をそばに置いて、家主の子猫たちはアントニオのねぐらで今夜は過ごすことになった。
アントニオはこの子犬たちを見守っていると言って、空き家の外で朝まで過ごすそうだ。
——再度白沢の家
「で、今に至るという訳や」
お玉は話し終えると大きなあくびをした。
「じゃあ、おぬしはその後どうなったかは知らんのか?」
「おぬしも知っての通り、ずっとここで寝とったからな。まあ、あの犬の事や。そのうち報告にくるやろ。もちろん良い知らせや」
すると、魚の焼けるいいにおいが立ち込めてきた。脂の焼ける魅惑的な香りだ。
「そろそろ、昼餉が出来そうじゃの」
そう言ってお舞は立ち上がり、お膳の準備をしに台所へ向かった。
「出来たら起こしてや~」
お玉はそう言ってまた寝ころんだまま瞼を閉じる。
そのころ隣りの麒麟堂では、扉が閉められた店の前で一匹の犬がきょきょろしていた。
「せっかくいい知らせを持ってきたのに、あの猫どこに行ったワン」
終わり 次回エピソードへ続く
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回も木曜日くらいに更新予定です。




