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第五十一話 名探偵白沢【第三幕】

ようやくこのエピソード書き切りました。今回は7部構成です。

なんと日曜日までつづきますのでお楽しみください。

挿絵(By みてみん)


「え、いまなんと?」

 忠助があっけに取られて聞き返す。

「『箱の中身の物がどこにあるかは検討がつきました』と言いました」

「なんと、箱を見ただけでわかるとは、まるで神の仕業の様じゃ」

 忠助がまた驚きの声をあげる。


「そんな大げさなものではありませんよ。部屋に入っていたものが出て行ってないのに見当たらないのですから、その茶壷はまだこの部屋の中にあるということです」

「しかし、部屋の中は我らがさんざん調べたのじゃぞ、山田殿などは手が真っ黒になるまで探したというのに」

「そのことについて、今ここに入って確認したのですが、どの場所を見ても手が真っ黒になるほど汚れている所はありませんね、じゃあなぜ山田様の手が真っ黒になったのか?」


「い、いや真っ黒というのは橋本殿がちょっと誇張していて、さほど黒くはなかったと思う」

「そうですか、ではその袖についている黒い点は何でしょう?」

 確かに次郎三郎の右手の袖には黒い点のようなものがついている。次郎三郎はとっさにそれを隠した。


「この床下にも黒い点が一つ二つありますから、隠しても無駄じゃないですかねえ」

 そう言って、白沢は床にある黒い点を指でなぞると、その指の先は深い黒色で汚れ、すすやほこりなどではないことは一目瞭然であった。

「白沢殿がさっきから何を気にしているのかわからぬな。それが、茶壷の紛失とどう関係があるのだ?」

 次郎三郎が白沢に物申すが、額には汗がにじんでいる。


 白沢はわずかに鼻をヒクヒクさせて、一番大きい箱を手に取った。

「木を隠すには森の中、茶壷を隠すなら……」

 白沢は木箱に残ったかすかな香りを辿って、部屋の奥に行き、部屋の隅にあった大きめの木箱を手に取った。


「白沢殿、その箱はわしが確認したが、中はただの壺であったぞ」

 忠助が言うが白沢は構わず紐をほどき蓋を開ける。

 箱の中には漆黒の壺が入っていた。大きさは三十センチほどであろうか、ぱっと見その壺だけが入っているように見えるが、白沢はその壺を箱から出し壺の中に光を当てると中に何か黒い包みが入っている。

「なんだこれは?」


 忠助が思わず声をあげる。

「薄暗い部屋で黒い壺の中に黒い包み、これではちょっと見ただけではわかりませんね」

 黒い包みは半紙に墨を塗ったものだった。この部屋には日用品も格納されており、書道道具も置いてある。その半紙を墨で黒くした紙であろうと白沢は語った。

「そして包みの中は当然……」

 白沢が包みを取り出して開けると、失われたはずの茶壷が包まれていた。白沢は真っ黒になった両手を見ながら言う。

「こんな紙を触ったらそりゃ手が真っ黒になりますよね」


 それを見た次郎三郎は観念したようにその場に座り白状した。

「いかにも、その茶壷を隠したのはそれがしじゃ」

「なんと! お主が盗みを働いたというのか?」

 忠助が怒りと失望が混ざったような声で、次郎三郎に詰め寄った。

「盗みではない、隠したのじゃ」

 次郎三郎はさっきまでとうってかわって、冷静に言葉を返す。

「何を屁理屈を……」


 忠助がさらに次郎三郎に詰め寄ろうとしたとき、白沢が口を開く。

「それは、この茶器が偽物だからですか?」

「な、なんじゃとて?」

 驚きのあまり忠助の言葉が乱れる。

「さすが白沢殿、知らぬことはござらぬか」

「本物を見たことは無いですが、これは名品というには細部がお粗末すぎますから」


「さよう、それがしも箱を開けて確認した時、気が付き申した。もちろん某は本物を知っているからでござるが」

「茶器を隠したのは、これを茶会で使わせない為ですね」

「有力な大名が集まる場で、偽物茶器を使えば必ず誰かが気づき申す、上様に恥をかかせるわけにはまいりませんゆえ」

「それで隠したと申すか? へたをすれば盗みの罪で切腹ぞ!」

 忠助の強い問いにも次郎三郎は冷静だ。

「その時はそれがしが腹を切れば済むこと」

「愚かなことを……」

 忠助が肩を落とす。


「しかし、大岡園が白沢殿を呼んでくださったのは不幸中の幸いでござった。噂通り、いや噂以上の御仁でござる」

 そう言うと次郎三郎は白沢に向き直り頭を下げた。

「初めから白状するべきであったが、あえて白沢殿の力を試させて頂いたこと許されよ。さらに、面目ないことだが、本物の茶壷を探すのにお手を貸していただけぬか? この通りお頼み申す」

 次郎三郎はさらに深々と頭を下げる。エリート旗本が町人にここまでへりくだるなどありえないことだが、それほど綱吉を守りたいという想いが強いのであろう。

 それを見た忠助も一緒に頭を下げる。


「わしからも頼む、この通りだ」

「お二人とも頭をお上げください」

 白沢が優しく促すと二人は頭をあげて白沢を見る。

「そっちはそっちでもう動き出したようですよ」

 白沢は汚れた手を手拭いで拭きながら言った。


                第四幕に続く

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