第四十五話 狐の嫁入り【肆】 この話の最終話
今日は七夕ですね~
真生にも素敵な出会いはあったんでしょうか?
結局寺の中には五人の女性がおり、無事解放してそれぞれの家に帰すことが出来た。
後程奉行所に行って事の次第を話してもらうこととなっている。
しかし問題が一つ、四人はさらわれてここに来た娘なのだが、もう一人、真生が戦っている最中に声を出していた女性はさらわれてここに来たわけではなく、勝手にこの寺に忍び込んでいたということだ。
この女性はこの近くに住んでいるということだが、娘たちたちがさらわれて荒れ寺の一室に閉じ込められているのを見て何とか助けないといけないと思い、誘拐された娘のふりをして寺に居たそうだ。
偽狼男はかなり適当で何人誘拐して来たかも把握していなかったらしい。
男は若い娘をさらって、一夫多妻制宜しくハーレムを作りたかったようだが、この女性がそれを防いでいたということになる。
「あの男には幻術を見せて楽しい思いをしたように騙してましたから、娘たちには指一本触らせてまへん」
「えーと、あなたが幻術を?」
真生が少し間抜けな声で聞き返す。
「私は妖狐、人を化かすのはお手のものですから」
「え、妖狐? まるで妖気を感じないんですが?」
「殺生石の事は知ってはりますよね? 私はそのかけらが変化したものですので妖気は出しません。元は石ですから」
女性の言葉にぽかんとする真生。
「ところでお兄さんの名前はなんて言いますのん? 最初に外で名乗ってはったようですけどまだ奥におったんでよう聞こえませんでした」
「あ、真生と言います」
「真生はん、いいお名前やわあ。わては理子言います。末永くよろしゅう」
「ああ、こちらこそって……末永く???」
「わて、あんさんにすっかり惚れてしもうて、嫁にしてもらうつもりやさかい」
「いやいや、私は剃髪(丸坊主にすること)こそしていませんが仏に使える身ですので、女人禁制です。とにかく、娘さんたちを守ってくださりありがとうございました。それでは私は奉行所へこの偽狼男を突き出してきますので。失礼!」
真生は逃げるように荒れ寺を後にする。
理子はその背中を満面の笑みで見ていた。
さて、真生は奉行所に行って、この事件の経緯を説明し、この犯人が窃盗や人さらいだけでなく、狼を殺したことも含めて処罰するようにお願いした。(狼の祟り神や妖狐のことなどはややこしいから、伏せて説明した)
そしてその後、寺に戻ったのだが玄関では、理子が三つ指をついて待っていた。
「え?」
すると和尚がやって来て、この娘は自分の姪っ子でしばらく家事手伝いとして、寺にいることになったという。
当然姪っ子の訳はない。
「……化かしましたね?」
真生の言葉に理子は答えず、にこやかな笑みだけを返す。
ここの和尚はなまぐさではあるが、中々の法力を持っている。それをいともたやすく催眠をかけるとは、この妖狐相当な力を持っているのではないかと真生は推測した。
「そもそも、理子さんはいつでも娘を連れて逃げ出せたんやないですか? 自由で動けてたみたいやし」
「真生はんも見はったでしょう? あの男は狼に憑かれてたさかい、変に刺激したらむしろ町に危険が及ぶとおもいまして」
「そこまで、見えていたんですか、私もまだまだ修行が足りないな……」
まあ、いずれにしても自分はこの寺にずっといるわけでもないし、と思っていた真生だが例の化け猫封じのお札に法力を込めるのに今から丸一年かかるという。今度は永久に封印するお札なので自分の法力だけでなく、お釈迦様の仏像の中に一年保管して、毎日霊力を封入する必要があるのだという。
真生にも毎朝お経を唱えて法力を注入するよう和尚は言ってきた。
これも、理子の催眠によるものなのかどうかはわからないが、とにかく、お札を手に入れるため真生は一年間この寺に居ることになるのだが、その間も理子は真生のそばから離れようとしなかった。
そして一年後ようやく完成したお札を持って、真生は堺に旅立つ。
理子には「ちょっと境で仕事があって」と言って、そそくさと旅立っていった。
元々は化け猫を再度封印したら摂津の大龍寺に戻るつもりであったが、そこで麒麟に出会い、なんだかんだ成り行きで江戸に身を置くことになり今に至る。
……というわけです。
真生の話を聞いた、麒麟とお玉であったが、「やっぱりようわからん」と言って首をひねった。
「で、結局理子さんは真生の奥が奥方ってことでええの?」
麒麟の言葉に二人が同時に反応する。
「そうです」
「違います」
どっちがどっちの返事かは言わずもがなである。
「いややわあ、真生はん照れはって」
「照れてません!」
「兄貴、こうゆうの夫婦喧嘩ってゆうんやろ? ウチの元の飼い主の夫婦もようしてたで」
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うけど、真生自体が犬神やからなあ、この場合どうなんやろなあ。あ、 明日からまた寒なりそうやから、火鉢だしてええで」
「ほんまに? よっしゃー!」
依然としてかみ合わない会話が続く真生と理子を見ながら、茶をすする麒麟とお玉であった。
狐の嫁入り 終わり




