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第二十八話 座敷童【序】

今回の座敷童編は「序」、「破」、「急」の三部構成です。前のエピソードをご覧になった方はわかると思いますが、歌舞伎の三部構成の表現をお借りしました。

本当は前回の歌舞伎の話でこれを使いたかったのですがいかんせん話が長くなったの今回使わせていただきます。とはいえ、まだ「急」を書き始めた所なので最後だけ長くなっちゃう可能性もありますが(笑)

挿絵(By みてみん)


「はい。そうです」

 お菊はこともなげに返事をした。

 座敷童というのは主に岩手県(江戸時代岩手は盛岡藩と仙台藩が管轄していた)に伝承があり、妖怪とも神様とも言われているが、家に居つくとその家の家族に幸運をもたらすと言われている。

 基本的には東北地方に居るものだと言われているものなので、白沢も知識としては知っているが実際には見たことがない。


「今朝いなくなったということは、昨日まではお宅に座敷童が住んでいたということですか?」

 白沢が不思議そうに尋ねる。

「そうなんです。私が五歳くらいの時に私の前に現れて、『自分は座敷童でお前の家に幸運を授けに来た』って言ったんです。なぜだか直ぐに打ち解けて、毎日部屋で仲良く遊んでました」


「へえ、というと今から十一年前ですか、そんな話初めて聞きましたね」

 白沢はこのお菊の家の家業である和菓子屋は、昔から客としても行っていた。

 店主夫婦とも顔見知りだし、お菊のことも生まれた時から知っているが、そんな話は聞いたことがなかった。それに神的な気配をお菊から感じたことはなかったので、少し首をひねった。

 座敷童は一種の神様なので、それと触れ合っているお菊からも、多少そういったオーラが感じられるはずだと思ったからだ。


「ええ、他の人に自分の事を話したら、この家を出るって言われたので内緒にしていたんです」

「ご両親はこのことを?」

「座敷童さんはなぜか私にしか見えないみたいで、両親もこのことは知りません」

「ふうむ、お菊さんお家は、江戸でも指折りの和菓子屋で繁盛してますからねえ。それも座敷童の影響なんでしょうか?」

 お菊は少し困った顔をした。

「それは私にもわかりません。でも、商売の方は今ほどでなくても地道にやって行ければいいのです。何より大事な友達に会えなくなってしまうのかと悲しくて、なにか私が怒らせるようなことをしたのであれば謝るので、帰って来てほしいのです」


「座敷童ってどんな格好をしておるのじゃ?」

 ここで、お舞が口をはさむ。

「見た目の年は私と同じか少し上くらいの女の子で髪はおかっぱでした。服は私普段着るような普通の服を着てましたね」

 座敷童に性別があるのかどうかは定かではないが、少なくとも見た目は普通の女の子に見える。

「最初同い年くらいと言ってましたが、今もやっぱり子供の姿だったんですか?」

「はい、座敷童さんは年を取らないらしくてずっと最初の姿のままでした」


「ふうむ、その……座敷童さんの持ち物なんて残ってないですよね?」

「すみません」

 お菊は申し訳なさそうにうつむく。白沢が探し物をするときは、探したい物があった場所や人がいた場所、あるいは身に着けていたものなどを手掛かりに探すことを知っていたからだ。

 であれば、お舞の家の和菓子屋に行って座敷童が住んでいたというお舞の部屋に行けばよいのだが、さすがに白沢が年頃のお舞の部屋に入る理由などない。

 両親に何事かと怪しまれるだろう。

 この件をお菊は、両親にも内緒で解決したいのであろう。

 白沢もそれがわかっていたので、手掛かりになるような持ち物がないか確認したのだ。


「あ、でも、手掛かりになるかどうかはわからないのですが、今年一緒に初詣に行ったときに一緒におみくじを引いたんです」

「座敷童も外に出ることがあるのか?」

 お舞がもっともな疑問をぶつける。

「ええ、普段はずっと家にいるんですが、その日は私がどうしても一緒に初詣に行きたくて無理に連れだしたんです。もちろん私以外には見えていませんが」


「そもそもお菊さんにしか見えないとなると私も見えないので、探しようがないかもしれませんよ」

「普通の人なら無理だと思うんですけど、白沢様はなにか私達と違う不思議な力があると感じるんです。だから、白沢様であればあるいは見えるのかもしれないと思ったんです」

 確かに神様や妖怪なら私には見えるだろうけど。やれやれ、あんまり何でもかんでも解決するものではないなと白沢は反省した。


「そうだと良いのですが。まあ、とりあえず続きを聞かせてください」

 白沢が促すとお菊は話を続けた。

「おみくじの結果は大吉で、とても良いことが書いてあったので、神社の木にくくらず、お守り代わりに持って帰ることにしました。その時のおみくじは私が持っているのですが、座敷童さんも一緒に触っていたはずです」


「そのおみくじは今も持ってますか?」

「はい。ここに」

 お舞は帯の中から紙に包まれたおみくじを出して白沢に渡した。

 白沢が受け取って中身を見ると、確かに大吉で、願い事は叶い、会いたい人にも会え、そのほかの項目もほとんど良い一年になると書かれてあった。

 内容はともかく、そのおみくじに触れた白沢はなんだか妙な違和感を感じた。一つはお菊さんの気配だが、もう一つ何かよくわからない気配が残っている。確かに人ならざるものであることは確かなようだが、どこかで会ったことがあるような気もした。


「このおみくじ、しばらく預かってよいですか?」

「勿論です。よろしくお願いします。どうか座敷童さんを見つけて下さい」

 お菊は深々と頭を下げて、家に戻って行った。

 気になることは色々あるが、とりあえず白沢とお舞は今日の診療の準備を急ぐことにした。


 今日も診療所は賑わっていた。

 奈落への落下でけがをした歌舞伎役者の慶次郎も相変わらず健康チェックに来ていた。

「お舞ちゃん。今日は花梨堂の金平糖を持ってきたよ」

 花梨堂とはお菊の両親が経営している和菓子屋だ。

「金平糖であるか~? もう少し腹の足しになるものがいいのじゃが」

 お舞は少なくとも表面上は普段通り慶次郎と接している。

「金平糖なら仕事に合間にもさっと糖分を補給できるから、都合がいいんですよ」

 白沢がお舞に言うと慶次郎も言う。

「ええ、稽古の合間に食べるとまた元気が出て、頑張れるんです」


 そして白沢は慶次郎の診療に入る。

「慶次郎さん、その後古傷は傷んだりしていませんか?」

「おかげさまで痛む所はありません。次の公演に向けて激しい稽古も出来ていますので」

 慶次郎は自分の右腕をまくり上げて力こぶを見せる。

 それを見たお舞の目がきらりと輝く。

 白沢はそれを見て見ぬふりをしながら、問診を続ける。

「それはなにより」


「それに、あの事件以来坊ちゃんも様子が変わってきて、私に声をかけて居残り稽古をするようになったり、弟弟子の指導をするようになったので、他の弟子からも一目置かれるようになってきました」

「へえ、宗太郎さんがねえ」

 宗太郎はあの事件を解決する過程で判明した、実は努力家でいい人エピソードを一座全員に知られて以来、意地を張っているのが逆にきまりが悪くなったのか、以前よりも他人にフレンドリーに接するようになっていた。

 父親の清十郎や妹のおあさもそれを微笑ましく見守っている。


「話は変わりますが、この金平糖、花梨堂さんのものですよね? なにか変わったことはなかったですか?」

「変わったことですか? そういえばいつもお店の手伝いをしているお菊さんがいませんでしたね。店主の勘兵衛さんに聞いたら何か友人のお見舞いで留守だとか」

 お菊はお菊で座敷童の行方を捜しているのでだろう。しかしそういった神性のものが必ずしもいい存在だとは限らない。

 なにか、危険なことに巻き込まれないうちに解決してやらねばな、と白沢は思った。


 そして、一日の診療が終わった白沢は夕餉の支度はお舞に任せて、隣りの麒麟堂を訪ねた。

「おお、白沢か。おぬしがこっちの店に来るとは珍しいやんか。ここの本に書いてあることなど全て知っていそうなもんやけどな」

「そうかもしれんが、確認も兼ねてな。この店に座敷童のことが書いてある本はないか?」

「座敷童と言うと、盛岡藩のあたりの伝承やな。その棚の奥の方にある赤い背表紙の本に東北地方に伝わる伝承について書いてあったはずや。それにしても変なもの調べとるな」

「ま、ちょっとね」


 白沢はそう言いながら、棚からその本を取り出し、座敷童の事が書いている所を読んでいく。

「ふうむ、見た目の特徴はやはり一致しているようだが……やっぱりひっかかるな」

 そして、お菊が生まれた頃の事を思い出し、なにやら思い当たることがあったようだ。

 あのおみくじに触った時の違和感、お菊さん以外の気配の正体、これは少し面倒なことになるかもしれんと、白沢が表情を曇らせた。


第二十九話 座敷童【破】に続く

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