第二十七話 朝餉を食べよう
今回は題名から見てわかるように完全に何も起きない回です(笑)
次回の座敷童編は、いまから執筆なので少しお時間を頂きますが、なるべく早くアップしますのでよろしくお願いします。
季節も変わり暑い日が続いている。
睡眠大好きな白沢もさすがに暑さで目が覚める。
「お、白沢殿今朝は早いではないか」
重い体を引きずるように起きた来た白沢にお舞が声をかける。
「こう暑くては寝ていられませんよ。夏バテで私が医者にかかりたいくらいです」
「なにを情けないことも申しているのじゃ」
お舞は朝餉の準備を始める。
ここに来た頃から毎朝早く起きるのはお舞であるが、朝餉を作るのはあとから起きてくる白沢の仕事だった。
それが最近思う所があるのか自分が朝餉を作ると言い出した。
女子力向上の為なのか、白沢が起きて食事を作るのを待っていられなくなったのかは定かではないが、とにかく今日もお舞が朝餉を作ってくれていた。
健康のために麦を一割混ぜたご飯に生卵、お味噌汁。具は大根と小松菜で、味噌は合わせみそを使っている。この時代江戸ではカツオと昆布の出汁が主流であったが、お舞は煮干しを使っている。この方が手っ取り早いからだ。
白沢家では糠漬けは漬けていないので、今日は漬物屋で買ったべったら漬けと、余った小松菜のお浸しでご飯を食べる。
しばらくして美味しそうな朝餉が出来あがり、二人は並んで食卓に着く。
「いただきます」
二人そろって感謝をささげ、朝餉が始まった。
まず白沢は味噌汁を人すすりする。煮干しのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「うん、美味しい。お舞さんも随分料理が上手くなりましたね」
白沢が料理を褒めると、お舞はさも当然のように「ふふん」と笑った。
「まあ元々の才能もあるが、隣の麒麟堂で料理の本を読んでおるからの、最近はあまり手間をかけずに美味しいものを作るのが流行っているそうじゃ」
「へえ」
「わらわも料理の本でも出して、麒麟堂に置いてもらおうかの」
まだ、食事を作り始めてからふた月ほどなのに気が早いなと白沢は思いながらも、機嫌よく料理を作って欲しいので黙っている。
もちろん白沢も昔からずっと自炊をしていたわけなので、料理はできるし嫌いでもない。しかし、こうも暑いと食べたいものも浮かばないし、食べるものを他人に決めてもらうのも悪くないと思っていた。
しかし実際、お舞は最初包丁も握ったことがなかったので、白沢もそこから教えるのには多少時間がかかった。
しかし一度覚えてしまえば忘れぬもの。お舞の腕前はだんだん上がっていくこととなったのだ。
なお、この時代、特に江戸では白米をたくさん食べられることがステータスだと考えられており、食事は大盛りの白米ご飯と根菜の味噌汁とわずかな漬物で食べるのが一般的だった。つまり野菜と動物性たんぱく質が圧倒的に足りていないわけである。
そのためビタミン不足で脚気を患う人が多かった。
あの膝小僧の下を叩いた時足がぴくん、と反応するかどうかを確認する検査をするやつである。
もっとも四十歳以下の人にはこの検査は何のことだかわからないかもしれないのだが、脚気になると倦怠感や手足のしびれなど深刻な症状が出るので注意が必要である。
そして、そこは流石に医者である白沢の朝餉である。
味噌汁にも小松菜が入っているし、余った小松菜でお浸しも作って意識的に野菜を採っているのだ。
生卵を付けることで動物性たんぱく質も取ることが出来、理想の朝食と言える。
白沢が作るときは納豆もつけるのだが、お舞は納豆が嫌いなのでつけていない。
かくして今日もバランスの良い食事をとって午前中の活力を補充した二人は診療所を開ける準備をする。
すると診療時間前の入り口がガラッと開く。
そこに居たのは近所に住む和菓子屋の娘である、お菊だった。
年の頃は十六歳。背はすらっと高く、たいそう器量が良いことで評判の娘である。
「お菊さん、どうしました? まだ診療は始めていないのですが」
「すみません、白沢先生。どうしても探してもらいたい人がいて」
お菊は息を切らしながら、早口で言った。
「探し物の方ですか? 一体何を?」
白沢は診療の準備はしながらも、お菊の話を聞いている。
「それが、長年家に居た座敷童さんが、今朝いなくなったんです」
「座敷童?」
白沢とお舞が同時に聞き返す。
次回エピソードに続く




