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第十九話 夢の中の記憶【転の章】

挿絵(By みてみん)


 金蔵は一抹の不安を抱えながらも、今日は店に帰ることにした。

 和尚と話し込んだせいで少し遅くなってしまった。店の者も心配しているだろう、早く帰らねば。

 そう思い、金蔵が早足で店に向かっていると、向こうの角から提灯を持った男がすっと姿を現し、こちらに近づいてくる。

 何か剣呑な気配を感じた金蔵は、草履の鼻緒を確認するふりをしてしゃがんでみる。

 すると男も動きを止めた。

「やれやれまだこの金蔵から金子きんすを奪おうとするやつがいるとは」

 と言って、前からくるその男と慎重に距離をとりながら歩いた。。


 まもなくすれ違おうとするそのときに、その男は金蔵が思った通り、金蔵に襲いかかった。

「貴様のせいで俺は江戸を追放されたんだ! 死ぬ気で江戸に戻って来たのはお前に復讐するためだ! くらえ!」

 男は獲物を振りかざすも、金蔵に腹を蹴られあっさり吹き飛ばされる」

 もんどりうって五メートルほどの所で止まった男を見て、

「そうかい、お前さんあの時の店の主人、いや主を裏切った不心得者の元番頭かい、俺はあの時、店をつぶすだけでは飽き足らなかった。江戸払いになったから見逃してやったが……今度は逃がさねえよ」

 金蔵は逆に襲ってきた男に脅しをかける。

 しかし、蹴り飛ばした男の後ろに見覚えのある人物が立っていた。

 佐吉である。

「佐吉……どうしてここに?」

 金蔵が立ち尽くしていると男は佐吉に襲い掛かり、佐吉の後ろに回って刃物をのど元に突き付けた。


「こいつは、お前の店のものだな、ちょうど良い人質だ。まてよ佐吉? そうか、こいつはあのお人よし主人の息子か、お前、面白いやつを雇ってるじゃないか、まあいい、こいつの命が惜しければ抵抗するな」

 男は佐吉を盾にしながら、じりじりと金蔵に近づいてくる。

「申し訳ございません。大旦那様、私にせいで」

 のど元に刃物を突き付けられた佐吉は抵抗できない。

「話はあとだ佐吉、うかつに動くなよ、いつも口酸っぱく言ってる事を思い出せ」

 ついに男は金蔵に刃が届くところまでにじり寄ってきた。


「長年の恨み、くらえ!」

 男が金蔵に向かって右手の刃物を振り上げるのと当時に男の後ろで「かつん」と音がする。

 男が見ての動きを止めて後ろを見た瞬間、金蔵が叫ぶ。

「いまだ!」

 すぐさま佐吉が思いっきり男の足を踏む。

「ぐわっ!」

 よろめく男の刃物に金蔵が手を伸ばし刃物ごとつかんで男の体を佐吉から引きはがし、抑え込んだ。


「ちくしょう! もう一人いやがったのか!」

 男がじたばたしながら吐き捨てる。

「そんなものおらんよ」

 金蔵は男が近づく前にかがんだ時、拾っていた石を見せる。

 金蔵は佐吉を盾に男が近づいてくるのに合わせて、手首のスナップだけで石を男の後ろに放り投げたのだった。

 タイミングよく石が落ちた時の「かつん」と言う音に男は驚いて振り向いたのだった。ちなみに念のため、両手に一つずつ持っていたのでまだひとつ残っていた。


「くそ! 卑怯者め!」

「どの口が言うかね」

 金蔵は男の言い草にあきれながら、持っていた細帯を使って男を縛って座らせた。

 金蔵の手からは刃物をつかんだせいで血がしたたり落ちていた。

「大旦那様、お怪我を!」

「ああ、大丈夫だ、それよりちゃんと私の訓示を覚えていたな」

「はい、『自分の足元を見ろ』、そして『いつやるかを考えろ』ですね」

 佐吉は金蔵の手にさらしを巻きながら、答える。


 そこに合流したの和尚を連れた白沢と麒麟であった。

「おやおや、こっちはこっちで色々あったようだね。ちょうど医者の出番もありそうだ」

「お、和尚? それにそちらは神田診療所の白沢先生か?」

 金蔵も有名な白沢の顔は知っている。さすがに驚いて目を丸くした。

「ま、詳しい話は、罪人の引き渡しと金蔵さんの治療が終わってからだね」


 麒麟が番所に罪人を引き渡しに行き、金蔵は和尚や佐吉と一緒に白沢の診療所に向かった。

「なんやわしだけ仲間外れかいな」

 麒麟は不満そうであったが、まずは金蔵の治療が先決である。

 診療所に着いた白沢はお舞を呼び、直ぐに金蔵の手を消毒し、鮮やかな手つきで傷を縫い合わせた。血の量は多かったが傷はそこまで深くなく、半月ほど安静にしていれば抜糸できるだろうとの見立てだった。

 その間に白沢は今日の出来事をかいつまんで金蔵に説明していた。

 夢の話と聞いた白沢は直ぐに獏の仕業と思い至った。白沢は親分を通して、佐吉に金蔵が一人で出かけた時、後をつけるように言って、途中で合流したのだ。


 しかし、獏と金蔵が別れたので、佐吉は金蔵を、白沢と麒麟は和尚、つまり獏を問い詰めることにしたのだが、まさか金蔵がくだんの元番頭に襲われるとは予想だにしていなかった。

 そして、金蔵が治療を終えたころ、麒麟も診療所にやって来た。

 元番頭の罪状について詳しい話はまた改めて明日聞くこととして、とりあえず元番頭の男は江戸所払いを破った罪で牢屋に入っている。

 そして佐吉が巻き込まれたと聞いて親分も麒麟と一緒に診療所に来ていた。


「佐吉が襲われたって? 佐吉は無事かい?」

 親分の言葉に金蔵は苦笑いして、

「おいおい親分、怪我人はこっちだよ」

 と言った。

「ああ、金蔵さん、あんたは丈夫そうだから大丈夫かと」

「ひでえなあ、まあ後見人の親分は佐吉が心配なのはわかるけどね、このとおり佐吉はぴんぴんしてるよ」

「親分さん、ご心配をおかけしました」

 佐吉が親分に頭を下げる。


 そこで白沢が「ぱん」と手を叩き言った。

「さて、全員揃ったところで、謎解きといきましょうか、皆さん座敷へ上がってもらえますか?」


 座敷に上がりながら、白沢の言葉に親分が興奮気味に食いつく。

「と言うと夢の話が解決したのかい?」

「まあ、本当に解決するかどうかはお二人次第ではありますが……」

 そう言って、白沢は金蔵と佐吉を見る。

「まあ、まずは金蔵さんからですかね。金蔵さん。あなたは佐吉さんの父親の事を知っていますね」

 金蔵は全て観念したように落ち着いて話し出す。

「ああ、佐吉の父親とは商売人としての修業時代からの知り合いだ。俺たちは店の後継ぎとして五歳の頃から修行をしていた。そしてある修行先の大店で佐吉の父親【宇吉】と出会ったんだ」


       結の章に続く

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