6.対面
勇気は扉を開けると、私に着いてくるように手ぶりした。それで私も中に入る。
部屋の一番奥。一際立派なソファに、50代くらいの、威風堂々とした男の人が座っていた。その周りには何人かの黒いスーツの男たち。皆人相が悪いしガタイがいい。薄暗くて物々しい雰囲気だった。
勇気は緊張しているようだった。
「この子が朝乃稲穂です。ほら、稲穂、挨拶しな」
「こ、こんにちは」
おずおずと一言。男の人がこちらを見た。
その瞬間、世界に一瞬音がなくなった気がした。恐ろしいほどの圧を感じた。まるで、獲物を見定めているかのような鋭い眼光。厳しい表情。
全身が強ばって力が入る。この威圧感に負けたくない。だけど、無理だ。怖い。
でも、と思った。死のうと思っていたのに、今更何を恐れることがあるのだろうか。本能的な恐怖を必死に抑える。心臓がバクバク鼓動し鳴り響く。負けるな、死を恐れるな。失って困る命でもないのだ。
暫くそうして見つめ合っていた。先に目線を移したのは向こうだった。
「……なるほどな。それで、お前ンとこに匿う準備はできてるのか?」
「はい」
「よし、ならもう行け」
「分かりました」
勇気はそう言って私の手を引いた。引かれるままに私は歩き出す。
扉を閉めると、勇気ははぁ……と深く息を吐き出した。やっと緊張の糸が解けたらしい。
「じゃあ、これから俺んちに行くよ」
「勇気の家?」
「そ。着いてきて」
そう言われたので、私は素直に従って勇気に着いていった。
車に乗り込み、移動する。
辿り着いたのは小さなアパートだった。街の外れ。閑静な住宅街。その一端。
二階の一番奥の部屋。カチリ、と電気をつける。パッと視界が明るくなった。中はキッチン、トイレ、風呂、と一通りのものがぎゅうぎゅうに詰め込まれたようだった。
狭い。それが第一印象。
「今日から稲穂はここに監禁されます」
「えっ」
私は思わず勇気を見た。突然物騒な単語が飛び出したと思った。
勇気はにや、と笑ってこっちを見ていた。どうやら冗談らしい。とはいえ声色自体は本気のようなので、半分本気、半分冗談といったところだろうか。
「怖い?」
「今更怖くはないけど……外に出ちゃ駄目なの?」
「出たら殺されちゃうかもしれないからね」
「私が死んだら勇気が困るの?」
「困る。すんごい困る」
「分かった」
別に殺されても良かったのだが、勇気を困らせる気はなかったので大人しく頷いた。
二人で住むには小さな家だ。それに監禁。ここに、一日中閉じこもってなきゃいけないの?でも……思い返してみれば、以前の生活も閉じ込められているようなものだった。だから、今更だ。
「なんか欲しいものあったら買うよ」
「じゃあ、本かなにか、暇を潰せるもの」
「本か……気になる本のリスト作ってもらえると助かる」
「紙とペンはある?」
「そこ」
それから、勇気は押し入れを開けて私を見た。
「寝たくなったらこの布団を引っ張り出して寝て。ご飯食べたくなったら冷蔵庫から好きに取って良いよ」
「分かった」
「テレビは壊れてるから見られない。でも今度新しいの買ってくるからそれまで待ってて」
「勇気はいつも家にいないの?」
「俺は仕事があるから日中は基本いない。でも外に出ようと思うなよ。大人しくしてたら、基本的にはなにもしない。でももし暴れるようだったら、色々考えはあるから」
「そう」
脅すような口ぶりの勇気に、私は目を瞬かせた。考え、か。足を切られでもするのだろうか。でも、どうせ逃げたって、私に行くところはないのだ。それを勇気は分かっているんだろうか。
「何かあったときは電話して。これ、電話番号」
「分かったよ」
手渡された番号の紙を大切に大切にポッケにしまう。
その様子を見ていた勇気は、不意にぽつりと呟いた。
「いつまで、とか、なんで、とか聞かないんだな」
根っから不思議そうな声だった。確かに、私の態度は聞き分けがよすぎたかもしれない。そりゃあ、と思う。私だって、知られるなら知りたいけど。
「だって、勇気、教えてくれなさそうだし」
「んっふふふふ、確かに」
そうだな、と勇気は笑って頷いた。




