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逃避行  作者: 眠気
4/16

4.チマに似てる


 



 馬鹿だよなあ。

 え、誰って、俺が。


 生まれたときから親父はヤクザで、いつも家にいなかった。カーチャンは家でずっと育児と家事やって俺を育てて、親父の愚痴も一つも言わなかった。

 俺は小学校でいじめられて、中学では怯えられて、高校では教師にいちゃもんつけられて中退。

 そっからは親父の手伝いしかやってない。

 絵に描いたような底辺人生。親父は金持ちだったけど、良くない金だったし、まともな人間からは嫌厭される。

 若頭だのなんだのって、周りから持て囃されるから、調子乗ってんじゃねーのかな。まあ、そんなこと一言でも言ったら殴られるけど。


 ヤクザなんてまともな奴がやる仕事じゃないし、大体は犯罪者の集まりだ。家もまともじゃない奴が多くて、とにかく裏で稼がねぇとやっていけねーって奴ばっかり。

 高学歴だったりを見下してる奴も多い。自分たちが社会から拒絶されてると思ってんだよな。だから皆、いかにも社会で持て囃されてますよ~みたいな奴は嫌ってたりする。まあ、逆に社会で嫌われてる奴だったりすると、仲間意識感じるんだけどさ。


 俺はそんな無法地帯で、何年も人を貶めて金を稼いでいた。慣れたら良心の呵責なんてものはなくなるし、むしろ俺って賢く生きてるわーと開き直る。

 親父は何から何まで俺に教えたけど、正直どれもクソみてぇなもんだった。でも、それが正義と言われている世界だ。泣いて命乞いなんて見飽きてる。

 俺は恐喝、取り立て、女の子の斡旋、売人との交渉、窃盗なんかをやっていた。そういう関係で女の子と関わるのは得意になったけど、ぶっちゃけ、まともな女と接してないせいで目が腐ってる自信はある。


 まあそんでもヤクザとしては一端になりつつあった頃、親父が唐突に俺に仕事を持ってきた。しかも極秘。現組長にも秘密の仕事だ。これはヤベーと思った。

 元々親父と組長はそこまで仲良くなかった。対立していると言っても良い。前組長派で現若頭、組員からもかなり信頼されてる親父と、そんな親父を差し置いて別の組から子分引き連れてやって来た現組長。反目し合うのは当然だ。


 親父は『朝乃稲穂』という女を連れて来い、と言った。なんと年は15歳。未成年だし、明らかに警察に目をつけられる。親父がそんな面倒くさい橋を渡るか、と素直に疑問に思った。

 話を聞いてみると、なんとその朝乃稲穂は、現組長の妻で、前組長の娘である、神崎弥生の実の娘らしい。信じがたい話だったが、同時に親父がなぜそこまでして稲穂を連れて来いと言っているのかも理解できた。

 親父にとって、稲穂は組を取り返すためのジョーカーそのものだ。うちの組は海外にも手を伸ばしていて、それこそ世界中にコネがある、かなり大きな組だ。だからこそ内部分裂を恐れて、上層部はかなり血縁を重視する。

 現組長が組長になれたのは、他でもない、神崎弥生が奴を選んだからだ。というか、選ばされた、というのが近いかもしれない。


 抗争が起きるとまでいわれた、神崎組と野間組。両組共、当時トップクラスに力を持っていた組だったから、抗争が起きれば大事になるし、こちらも無傷ではいられない。

 それに対して前組長がとった行動が、二人の婚姻を決めること。野間が婿に入って、表向きは野間組が神崎組に下ることで、抗争を回避したのだ。

 古いやり方だけど、血縁を重視する上層部にはよく効いた。


 え、普通、日本のヤクザは血統を重視しないんじゃないかって?まあよく聞けよ。うちの組はちょっと特殊なんだ。

 うちの組は歴史が古い。戦前からあり、大正5年に大戦景気に乗じて後ろ暗い仕事の需要拡大を狙って誕生した組織だと言われている。

 当時はあくまで会社として成功としようとしていたらしく、成金になった二代目、三代目は徐々に自分たちを華族と同じように尊い存在と考えて血縁を重視するようになった。

 その後、戦争で一度は空中分解し、戦後に再び結成。その際、血縁を重視する風潮が受け継がれたことが、今に繋がっているらしい。


 とまあ、そんなことは置いておいて、話の続きをしよう。

 野間組と神崎組は一体化した。だけど、当然それに反発する奴もいた。当時、次期神崎組組長だと言われていた、神崎組若頭の黒街景太郎……俺の親父とかな。

 親父はずっと組長の座を狙ってる。現組長たちの間に子供はいねーから、稲穂は実質次期組長最有力候補者だ。若すぎるけど。

 例えば、俺と稲穂が結婚でもすりゃあ、必然的に俺は組長、親父は若い俺らの代わりに実権を握れるようになるってわけ。


 だからこそ、ここ数日稲穂を監視してたけど、まー、向こうも隙がない。

 稲穂は学校も親に送り迎えしてもらってるし、基本それ以外での外出はゼロ。家はセキュリティ対策ばっちり。これは駄目だと俺もさじを投げた……かったけど、やんなきゃ親父に本格的にどつかれるので、やるしかない。

 そんな折に、なんの偶然か稲穂が一人で外に出た。絶好のチャンスだと後を追っかけたら、なんと自殺しようとしてる。流石の俺も度肝を抜いた。

 なんとか稲穂の自殺を阻止し、誘拐することには成功したけど、ぶっちゃけ問題は山積みだ。


 稲穂は思ったより癖が強かった。これが単純なタイプなら良かったのだが、頭がぶっ飛んでるし、死ぬことに恐怖もない無敵人間でもある。両親に情もなさげだし、友達も……自殺しようとしてたんだから、いなさそうだし。人質も無意味。しかも利口ときた。

 さらに、組長だとは知らなかったらしいが、前組長と現姐さんも知っていた。想定外すぎる。

 これだと傀儡にはできなさそうだと思っていたが、不幸中の幸いというか、どうやら稲穂は俺に好意を抱いているらしい。最悪ハニトラまがいのことをして操るしかない。というか、それ以外の選択肢があまりない。

 困ったなぁ。俺ロリコンじゃないんだけど。


 すやすやと眠る、あどけなさの残る横顔を見る。感情の読めない瞳と猫のような雰囲気が、どことなくチマに似ていると思った。






♢♢♢♢♢♢

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