Big Dream、本格始動
慎平の家にて。
「ちょっ、話が違うじゃないですかー(苦笑)」
「家で素振りもできないくせに、今やらないでいつやるんだよ(笑)」
しょうがない。だって大夢のことだから。
自分が野球部に復帰したいと考えていることを、家族に内緒でいる。
自分が家で素振りするようになると、野球部に戻ると思われて気が散ってしまうのである、
ということが慎平には見え見えだったのである。
だからわざわざ大夢を勉強のアシスタントという名目で野球の練習をさせていたのである。
大夢がバットを振っている間、慎平は応用問題を解く。
解き終わる頃には大夢は素振りのノルマ回数を達成しているから、
慎平は大夢にバナナやヨーグルトを差し入れしつつ、応用問題の解説をしていく。
気がつけば慎平の国数英の成績は9割のダントツだった。
理社でも8割だから総合で400は軽く突破している。
第一志望の高高も射程内だ。しかし、高校合格がゴールでないことは承知している。
あくまで入試は自分の目的を果たす手段と考えていた。
教育システムの改革はある一つの野望だ。
まずは自分の希望する高校へ、大好きな野球とハードと思われる勉強を両立したい。
そんな考えを慎平は高校へ入学する前から持っていた。
慎平の学力は十分備わっていた。
それゆえ、他の人に勉強を教える余裕も生まれたし、
部活引退後オール選抜の落選しながらも野球の自主トレを行うことも、
作文や総合問題の対策を練ることもできていた。
「よーし今日はここまで!」
「はい、ありがとうございました!」
「またよろしくなー!」
大夢の両手はマメだらけになっていた。
ばれたくなかったので
慎平の家から1キロほど歩いて我が家に着いた。
「ただいまー」
家に帰るとあゆみがいた。
「おかえり・・・どうしたの?両手絆創膏だらけだけど」
「あぁ、これね。帰り道ですりむいちゃって・・・靴底もスタッドレスにしないとまずいな~なんて(笑)」
「まったく、だらしないわね。とりあえず、びしょびしょだし着替えてきなさーい。」
「は~い」気のない返事をする大夢。
それと同時にばれてなくて良かったと安堵していた。
しかし、女の勘が鋭いのかあゆみには分かっていた。
「あの絆創膏の位置、もしかして素振りのマメ?お兄ちゃんどこでバット振ってるのよ」
あゆみは心の中でそう思っていた。
「私の説教がきいたかしら。今度壁としてピッチング練習に付き合ってもらうわ。」
えげつない。普段は普通の小学六年生と変わらない。彼女の本性を知るのは大夢のみ。
年が明け、大夢は迫ってくる駅伝大会の練習に励んでいた。
6区のうちのアンカーを務める。
陸上部に転部して間違いではなかった、と思えるような最大限の走りを見せようとしていた。
結果は惜しくも地区準優勝、しかし駅伝エースのアクシデントで県出場も危ぶまれた中で追い上げた結果だ。
大夢は区間賞には届かず惜しくも2位だった。心肺機能の向上に手ごたえを感じた大会だった。
県大会でも1区として出場。ギリギリの8位入賞に貢献した。
この大会を最後に大夢は陸上部を辞める。
野球に専念するためだ。野球部退部後に生じた空白の半年間を埋めようとしていた。
練習生としてではあるが、高崎北ボーイズの入団を決めた。
基礎体力と運動能力は申し分なかったが、実践には程遠かったので基本練習を中心に行っていった。
慎平との努力の甲斐があったのか、外野の守備固めとしての起用が濃厚となった。
また練習だけでなく普段の生活、自己管理の徹底など様々な面で刺激を受けていった。




