epi 10 ヴェルナスの懺悔
「……では、補佐官様が一途に思い続けていらした刺繍のハンカチのお方というのは……」
呆然とするリゼの問いに、ヴェルナスがコクリと頷く。
私のことだったの⁈
なんてこと……。
そんな大切なことを忘れていたなんて……。
それでも必死に曖昧な記憶の糸を手繰ると、ふと脳裏に鮮やかなマーガレットの刺繍と、川原でうな垂れる男の子の姿がぼんやりと浮かび上がった。
「……そうだわ……!あれはお姉さまの…『マルグリッド』お姉さまのハンカチ……」
リゼの姉、マルグリットは自分の名と同じ意味を持つマーガレットのモチーフをこよなく愛していた。そのため、折に触れて父や母からもマーガレットにちなんだ贈り物をされていたし、姉本人も好んでそれらを収集していたのだ。
「……覚えていなかったのも無理はない。君は数えきれないほどの人間にああして分け隔てなく優しさを振りまいていたんでしょう。あの日悲しみの底に沈んでいた僕に、何の見返りもなしにハンカチを差し出してくれたように」
ヴェルナスが寂しげに笑う。
「……僕はそんな君の優しさの恩恵を受けたうちの一人にすぎないのかもしれない。でも僕にとってあの出会いは、君が掛けてくれた言葉は、どんなに時間がたっても忘れられない大切な思い出なんです」
「補佐官様……」
苦しくなるほどの優しさを帯びた目がリゼを映す。
「あの日、あの瞬間からずっと君に恋してる。君の隣に立てるようにとこの地位だって手に入れた。すべて君にふさわしい男になるために。
……それなのに…いざ君を前にしたら、愛おしすぎて目を合わせることも出来なくて……」
唇を噛み締めるヴェルナスの眉が歪む。
「本当は好きで好きで……どうしようもないくらい大好きなのに、君を前にすると……どうしても素直になれなくて……嘘をついて……すまなかった…君を騙してでも、どんなに情けなくても、どうしても君を手放したくなくて……どうしようもないくらい……君が好きなんだ
…だからどうか、離れるなんて言わないでくれ」
これが、あの血も涙もない冷徹補佐官と言われていた方なの?
こんなにも繊細で純粋な、少年のままのような心を持ったこの方が……。
リゼは堪らなくなって、ヴェルナスの頬をそっと包んで出来得る限りの優しさを込めた目で見上げた。
「補佐官様、謝らないでください。情けなくなんてないです。とても、素敵な告白です。私も恋が何なのかもよくわからないまま、ただ補佐官様に好きになっていただきたくてあれこれしてしまいました。でも、遠くからお姿を見るだけで胸がドキドキしていた補佐官様に、こんな風に仰っていただける日が来るなんて。嬉しすぎて…夢なんじゃないかって…」
言いながら、熱いものがこみ上げ、目が潤んでくる。
リゼを見下ろすヴェルナスの瞳も濡れていた。
「リゼ…ありがとう。ほんとうに……君が大好きだよ」
涙の膜に覆われたヴェルナスの青い瞳が光を取り込んで虹色に光っている。
ほら、やっぱり
こんな素敵な瞳を持ったあなたが愛されないわけが無い
「補佐官様、私の方こそ、ありがとうございます。
ずっと好きでいてくださって。
今なら自信を持って言えます。
私も、補佐官様が大好きです。
これからもずっとずっと一緒にいてくださいますか」
ヴェルナスはにっこりと微笑むと、リゼの頬を滑る涙を拭うかわりに、そっとその頬に口付けを落とした。
後から後からこぼれる涙を追うように
優しく、なんどもなんども。
最終話、お読みくださり本当にありがとうございました。
(間違って開いちゃっただけで読んでなーいという方も…^ ^;)
山のような作品の中からご縁をいただけました奇跡に感謝です。
どうしても溺愛モノが書いてみたくて生まれたお話。
少しでも心にお届けできていましたら幸いです。
評価・ブックマークも本当にありがとうございます。
手を合わせて感謝させていただいております。
また次の作品もお楽しみいただけますことを
*hana*




