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生きずらさに、名前をつけるなら  作者: あーちゃん


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第72ページ  読まれるのが、怖い


「どうして私は、みんなみたいに生きられないんだろう」


誰かの何気ない一言で深く傷ついてしまう。

人の感情ばかり気にして、自分の気持ちがわからなくなる。

ちゃんと笑っているのに、なぜか苦しい。


そんな“生きづらさ”を、

「甘え」や「弱さ」だと思い込んでしまう人がいる。


この物語は、

“普通”になれなかった人たちの物語です。


誰にも言えない孤独。

理解されない苦しさ。

消えたいわけじゃないのに、

この世界にうまく馴染めない感覚。


主人公・朝比奈凛は、

そんな痛みを抱えながら生きています。


けれど、

生きづらさには、理由があります。


そして、

名前のつかない痛みにも、

いつか誰かが寄り添ってくれる日が来るかもしれません。


この物語が、

今苦しんでいる誰かの心に、

小さな灯りとして残りますように。


 次の日の夜。


 凛は机の前へ座りながら、ノートを見つめていた。


 昨日書いた文章。


 ページいっぱいに並ぶ、自分の言葉。


 “普通になりたかった”。


 そこから始まった文章は、気づけば何ページにもなっていた。


 読み返す。


 拙い。


 まとまりもない。


 でも。


 その中には確かに、“凛自身”がいた。


 誰にも見せるつもりはなかった。


 ただ、自分のために書いただけ。


 そう思っていたのに。


 凛は今日一日、ずっと考えてしまっていた。


 ――真白さんに見せたら、どう思うだろう。


 その考えが浮かぶたび、胸がざわつく。


 見せたい。


 でも怖い。


 “重い”と思われたら。


 “暗い文章だね”と引かれたら。


 そんな不安が止まらない。


 凛はスマートフォンを手に取る。


 真白とのメッセージ画面。


 何度も開いて、閉じる。


「……無理」


 小さく呟く。


 やっぱり怖い。


 文章って、多分その人自身が出る。


 だから。


 否定された時、自分ごと全部否定された気持ちになる。


 凛はノートを閉じ、ソファへ倒れ込む。


 天井を見つめながら、小さく息を吐く。


 昔。


 中学生の頃、一度だけ友達へ小説を見せたことがあった。


『なんか暗くない?』


 笑いながら言われた、その一言。


 たったそれだけだったのに、凛はひどく傷ついた。


 “自分の好き”を否定された気がしたから。


 それ以来、書いたものは誰にも見せなくなった。


 好きなものほど、隠すようになった。


 傷つくのが怖かったから。


 スマートフォンが震える。


 真白だった。


『今日ちゃんと食べた?』


 そのメッセージを見て、凛は少し笑ってしまう。


 最近、真白はすぐそう聞く。


『食べた』


『えらい』


 短いやり取り。


 でも、それだけで少し安心する。


 凛はノートを見る。


 見せたい。


 でも怖い。


 その気持ちが、胸の中でぐるぐる回る。


『ねえ』


 凛は思い切って打ち始める。


『昨日書いたやつ、少しだけ見せてもいい?』


 送信。


 送った瞬間、心臓が跳ねた。


「うわ……」


 取り消したくなる。


 やっぱり無理かも。


 でも、既読はすぐについた。


『もちろん』


 その返事を見た瞬間、凛の胸がまたざわつく。


 本当に送るの?


 どうする?


 凛はノートを開く。


 最初のページを見る。


 そこには、自分の苦しさがそのまま並んでいた。


『私はずっと、“普通”になりたかった。』


 その文字を見るだけで、胸が少し苦しくなる。


 凛はスマートフォンを握りしめる。


 送るだけなのに。


 こんなに怖い。


 それは多分、“理解されたい”と思ってしまっているからだった。


 もし真白が読んで。


 “いいね”と言ってくれたら。


 少し救われる気がする。


 でも逆に。


 否定されたら、多分かなり痛い。


 凛は深呼吸する。


 それから、ノートの一ページだけ写真を撮った。


 送信画面。


 指が止まる。


 怖い。


 でも。


 真白になら、少しだけ見せてみたいと思った。


 凛は目を閉じ、送信ボタンを押した。


 既読。


 数秒。


 その時間がやけに長く感じる。


 凛は息を止める。


 怖い。


 本当に。


 でも。


 少しだけ期待してしまう。


 やがて、真白から返信が来た。


『……凛ちゃんの文章、静かで苦しいね』


 その言葉を見た瞬間、凛の胸が大きく揺れた。


 否定じゃなかった。


 ちゃんと、“伝わっている”感じがした。


『なんか、息苦しさがちゃんとある』


 続けてメッセージが来る。


『でも、だからいいと思った』


 凛はスマートフォンを見つめたまま、動けなくなる。


 涙が少し滲む。


 “だからいい”。


 そんなふうに言われたこと、一度もなかった。


 暗い。

 考えすぎ。

 重い。


 昔はそういう言葉ばかり怖がっていた。


 でも真白は、“苦しい”をそのまま読んでくれた。


『……変じゃなかった?』


 凛は恐る恐る送る。


 既読。


『変じゃない』


『凛ちゃんが見てきた世界なんだと思った』


 その返事を見た瞬間、凛は静かに涙を拭った。


 “見てきた世界”。


 真白は、“考えすぎ”とも、“もっと明るく書けば”とも言わなかった。


 ただ。


 凛の感じてきた苦しさを、そのまま受け取ろうとしてくれた。


『ありがとう』


 凛は小さく送る。


『こちらこそ、見せてくれてありがとう』


 その言葉に、胸がじわりと温かくなる。


 凛はノートへ視線を落とす。


 書くことは、怖い。


 読まれることはもっと怖い。


 でも。


 “誰かへ見せても壊れなかった”経験が、今の凛にはとても大きかった。


 好きなものを隠さなくていい。


 苦しい感情を書いてもいい。


 そう思えるだけで、少し呼吸がしやすくなる。


 凛はノートをそっと撫でながら、ぼんやり思う。


 昔の自分は。


 “理解されない前提”で生きていた。


 でも今は。


 全部じゃなくても。


 少しだけ、“伝わる瞬間”があることを知り始めている。


 その小さな経験が。


 凛の世界を、ゆっくり静かに変え始めていた。



『生きづらさに、名前をつけるなら』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


この作品は、

「普通に生きること」が苦しい人たちへ向けて書いた物語です。


世の中には、

頑張っても周囲に馴染めなかったり、

人より敏感に傷ついてしまったり、

誰かの期待に応えようとして、

自分を見失ってしまう人がいます。


けれど、

それは決して“弱さ”ではありません。


誰にも見えない場所で、

必死に息をして、

壊れそうになりながら今日を生きている。


それだけで、本当は十分すごいことなのだと思います。


凛が少しずつ、

自分の痛みに向き合い、

「普通」ではなく「自分」として生きようとしたように、

この物語が、

誰かが自分を否定しすぎないためのきっかけになれたなら嬉しいです。


あなたの苦しさには、

ちゃんと理由があります。


そして、

その痛みを抱えたままでも、

人は誰かと出会い、

少しずつ生きていけるのだと、

この作品を通して伝えられていたら幸いです。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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