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生きずらさに、名前をつけるなら  作者: あーちゃん


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第69ページ  帰ったあとに、寂しくなる


「どうして私は、みんなみたいに生きられないんだろう」


誰かの何気ない一言で深く傷ついてしまう。

人の感情ばかり気にして、自分の気持ちがわからなくなる。

ちゃんと笑っているのに、なぜか苦しい。


そんな“生きづらさ”を、

「甘え」や「弱さ」だと思い込んでしまう人がいる。


この物語は、

“普通”になれなかった人たちの物語です。


誰にも言えない孤独。

理解されない苦しさ。

消えたいわけじゃないのに、

この世界にうまく馴染めない感覚。


主人公・朝比奈凛は、

そんな痛みを抱えながら生きています。


けれど、

生きづらさには、理由があります。


そして、

名前のつかない痛みにも、

いつか誰かが寄り添ってくれる日が来るかもしれません。


この物語が、

今苦しんでいる誰かの心に、

小さな灯りとして残りますように。



 真白が帰ったあと。


 部屋は急に静かになった。


 ついさっきまで、人の気配があったのに。


 ドアが閉まった瞬間、その温度だけがふっと消えた気がした。


 凛はテーブルの上を見る。


 空になったスープの容器。


 飲みかけの水。


 真白が座っていた場所。


 その全部が、妙に現実感を残している。


 凛は小さく息を吐いた。


「……寂しい」


 呟いてから、自分で少し驚く。


 以前の自分なら。


 “誰かが帰ったあと寂しい”なんて、ちゃんと認めなかった。


 人へ期待しないようにしていたから。


 離れていった時、苦しくなるのが怖かったから。


 でも今は。


 誰かと一緒にいる安心を知ってしまった。


 だから、一人へ戻った瞬間、少し胸が冷える。


 凛はソファへ座り、膝を抱える。


 静かな部屋。


 冷蔵庫の小さな音だけが聞こえる。


 頭の中へ、不安が少しずつ戻ってくる。


 ――また一人だ。

 ――真白がいなかったら。

 ――また苦しくなったら。


 凛はその考えに気づいた瞬間、胸がざわついた。


「……駄目だ」


 小さく呟く。


 依存しているみたいだった。


 真白がいると安心する。


 苦しい時、話を聞いてほしくなる。


 それは温かい。


 でも。


 “この人がいないと駄目になる”感覚へ近づいている気がして怖かった。


 凛はスマートフォンを見る。


 真白とのメッセージ画面。


 “今日はちゃんと寝るんだよ”


 最後に来ていたメッセージ。


 その文字を見るだけで、少し安心してしまう自分がいる。


「……重いかな」


 ぽつりと呟く。


 こんなふうに、人を必要としてしまう自分が怖かった。


 昔の凛は。


 誰にも頼らない代わりに、誰にも期待しなかった。


 だから傷つくことも少なかった。


 でも今は違う。


 真白にも。

 七海にも。

 灯にも。


 “いてほしい”と思ってしまう。


 その感情は、温かい。


 でも同時に、とても不安定だった。


 凛はスマートフォンを胸へ抱える。


 その時。


 不意に、真白が言っていた言葉を思い出す。


 ――一人だけに全部預けると、苦しくなる。


 凛は静かに目を閉じる。


 本当にそうだと思う。


 真白は“救ってくれる人”じゃない。


 ただ。


 苦しい時、一緒にいてくれる人だ。


 その違いを、ちゃんと忘れたくなかった。


 でも。


 苦しい夜ほど、人は“救い”を求めてしまう。


 凛はソファから立ち上がり、窓を開けた。


 冷たい空気が入ってくる。


 夜の匂い。


 遠くで車の音が聞こえる。


 東京は、人が多いのに孤独だ。


 でも。


 最近の凛は、その孤独の中で少しずつ誰かと繋がり始めている。


「……難しい」


 小さく笑う。


 人と近づくのは、難しい。


 安心するほど怖くなる。


 失うかもしれないから。


 でも。


 だからといって、もう昔みたいに完全な孤独へ戻りたいとも思えなかった。


 凛は窓の外を見ながら、ぼんやり思う。


 真白が来てくれた時、嬉しかった。


 “ちゃんと食べてる?”と聞かれて、少し救われた。


 その感情を、無かったことにはしたくない。


 依存と、支え合い。


 その境界線はまだよくわからない。


 でも。


 “誰かがいると安心する”こと自体は、悪じゃないのかもしれない。


 昔の凛は。


 弱さを見せたら終わりだと思っていた。


 でも今は。


 弱いまま、誰かと繋がる方法を少しずつ探し始めている。


 スマートフォンが震えた。


 七海だった。


『生きてる?』


 短いメッセージ。


 凛は思わず少し笑う。


『生きてる』


 返信。


『ならよし』


 そのやり取りだけで、少し胸が軽くなる。


 凛はふと思う。


 最近、自分の周りには“気にかけてくれる人”が増えている。


 真白。


 灯。


 七海。


 みんな完璧じゃない。


 みんな苦しい。


 それでも。


 互いに、“大丈夫じゃない日”を知っている。


 だから少しだけ、優しくなれる。


 凛はソファへ座り直し、ゆっくり息を吐いた。


 寂しいと思う。


 不安にもなる。


 誰かに会いたくなる。


 それはきっと。


 “人を必要としている”ということだった。


 そして多分。


 それは弱さじゃなく、人間らしさなのかもしれなかった。



『生きづらさに、名前をつけるなら』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


この作品は、

「普通に生きること」が苦しい人たちへ向けて書いた物語です。


世の中には、

頑張っても周囲に馴染めなかったり、

人より敏感に傷ついてしまったり、

誰かの期待に応えようとして、

自分を見失ってしまう人がいます。


けれど、

それは決して“弱さ”ではありません。


誰にも見えない場所で、

必死に息をして、

壊れそうになりながら今日を生きている。


それだけで、本当は十分すごいことなのだと思います。


凛が少しずつ、

自分の痛みに向き合い、

「普通」ではなく「自分」として生きようとしたように、

この物語が、

誰かが自分を否定しすぎないためのきっかけになれたなら嬉しいです。


あなたの苦しさには、

ちゃんと理由があります。


そして、

その痛みを抱えたままでも、

人は誰かと出会い、

少しずつ生きていけるのだと、

この作品を通して伝えられていたら幸いです。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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