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生きずらさに、名前をつけるなら  作者: あーちゃん


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第57ページ  誰かだけで、生きてはいけない


「どうして私は、みんなみたいに生きられないんだろう」


誰かの何気ない一言で深く傷ついてしまう。

人の感情ばかり気にして、自分の気持ちがわからなくなる。

ちゃんと笑っているのに、なぜか苦しい。


そんな“生きづらさ”を、

「甘え」や「弱さ」だと思い込んでしまう人がいる。


この物語は、

“普通”になれなかった人たちの物語です。


誰にも言えない孤独。

理解されない苦しさ。

消えたいわけじゃないのに、

この世界にうまく馴染めない感覚。


主人公・朝比奈凛は、

そんな痛みを抱えながら生きています。


けれど、

生きづらさには、理由があります。


そして、

名前のつかない痛みにも、

いつか誰かが寄り添ってくれる日が来るかもしれません。


この物語が、

今苦しんでいる誰かの心に、

小さな灯りとして残りますように。



 夜。


 凛は部屋のベッドへ寝転びながら、ぼんやりスマートフォンを見ていた。


 真白とのメッセージ画面。


『今日もお疲れ』


 その短い言葉を見ただけで、胸の奥が少し温かくなる。


 凛は小さく息を吐いた。


 最近、真白と話す時間が増えていた。


 大学帰りにカフェへ寄る。


 しんどい夜に連絡する。


 ただ他愛もない話をする。


 その時間が、凛にとって少しずつ“安心できる場所”になっている。


 でも。


 同時に、少し怖かった。


 もし真白がいなくなったら。


 もしこの場所がなくなったら。


 そう考えると、胸がざわつく。


 凛はスマートフォンを伏せる。


「……依存してるみたい」


 小さく呟く。


 その言葉を口にした瞬間、胸が重くなった。


 昔の凛は、人へ頼ること自体が苦手だった。


 でも今は違う。


 真白の言葉に救われる。


 真白がいるだけで、少し安心する。


 それは温かい。


 でも。


 “この人がいないと駄目になる”感覚へ変わってしまいそうで怖かった。


 凛は膝を抱える。


 昔、母へ期待して傷ついた。


 “わかってほしい”を求めて、苦しくなった。


 だから本当は、人へ期待するのが怖い。


 でも。


 真白には少しずつ心を開いている。


 それが、嬉しくて。


 同時に、不安だった。


 スマートフォンが震える。


 七海からだった。


『明日一限だるすぎ』


 凛は少し笑う。


『それはわかる』


『人類、一限廃止すべき』


 そんなくだらないやり取りをしながら、凛は少し肩の力を抜く。


 七海とも、前より自然に話せるようになっていた。


 灯とも。


 真白とも。


 少しずつ、“繋がり”ができている。


 でも。


 その繋がりが大きくなるほど、凛は怖くなる。


 失うのが怖い。


 一人へ戻るのが怖い。


 次の日。


 大学帰り。


 凛はいつものように『cafe 月灯り』へ向かっていた。


 外は冷たい風が吹いている。


 空は薄暗い。


 店へ入ると、真白が「いらっしゃい」と穏やかに笑った。


 その顔を見た瞬間。


 凛の胸が、少しだけ安心する。


 その感覚に気づいた瞬間、凛はまた少し怖くなる。


「疲れてる顔してる」


 真白が言う。


「……ちょっと考え事してた」


「珍しく真面目な顔してる」


「いつも真面目だよ」


 凛が小さく返すと、真白は笑った。


 その空気が心地いい。


 でも。


 その心地よさへ寄りかかりすぎそうになる自分がいる。


 凛は紅茶を受け取りながら、小さく言った。


「ねえ」


「ん?」


「人に頼りすぎるのって、駄目かな」


 真白は少し目を瞬かせる。


「急にどうした」


 凛は視線を落とした。


「最近、真白さんいると安心する」


 言葉にするのが少し恥ずかしい。


 でも本音だった。


「でも、それが怖い」


 凛は小さく続ける。


「もし、いなくなったらって考えると不安になるから」


 店内が少し静かになる。


 真白はすぐには答えなかった。


 その沈黙が、凛には少しありがたかった。


 軽く否定されるより、ちゃんと考えてくれている気がしたから。


「……頼ること自体は、悪くないと思う」


 真白がゆっくり言う。


「でも、“その人だけ”になると、結構苦しくなる」


 凛は静かに聞く。


「俺も昔、それあったから」


「え?」


「しんどい時、一人の人だけに全部預けちゃってた」


 真白は苦笑する。


「その人いないと生きれない、みたいな感じになって」


 凛の胸が少しざわつく。


 それは多分、今の自分が怖がっていることだった。


「でもさ」


 真白は紅茶の湯気を見つめながら続ける。


「人って、一人だけで立つのも無理だし、誰か一人だけに全部背負わせるのも無理なんだと思う」


 その言葉が、凛の胸へ静かに落ちる。


 一人だけで立つのも無理。


 誰か一人へ全部預けるのも無理。


 その“間”を、凛はまだ知らなかった。


 昔は完全に孤独だった。


 今は逆に、“繋がり”が嬉しくて、少し掴まりたくなっている。


「だから多分」


 真白は穏やかに言う。


「少しずつ色んな場所作るのが大事なんじゃないかな」


 七海。


 灯。


 母。


 真白。


 凛は頭の中で、その名前を思い浮かべる。


 最近、自分には少しずつ“居場所”が増えてきている。


 それはきっと、悪いことじゃない。


「凛ちゃんさ」


 真白が少し笑う。


「最近、“一人で抱え込まない”覚え始めたでしょ」


「……うん」


「それってかなり大事」


 凛は静かにカップを握る。


 誰にも頼らず生きることが“強さ”だと思っていた。


 でも本当は。


 壊れないためには、人が必要なのかもしれない。


 ただ。


 その“寄りかかり方”を、まだ凛はうまく知らない。


「難しいね」


 凛が小さく呟くと、真白は笑った。


「人間関係って大体難しい」


 その言い方がおかしくて、凛も少し笑う。


 窓の外では、夜の街が静かに光っている。


 凛はその景色を見ながら、ぼんやり思う。


 誰かだけで、生きてはいけない。


 でも。


 一人だけでも、生きていけない。


 その不器用な間を探しながら、人は少しずつ“誰かと生きる”を覚えていくのかもしれなかった。



『生きづらさに、名前をつけるなら』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


この作品は、

「普通に生きること」が苦しい人たちへ向けて書いた物語です。


世の中には、

頑張っても周囲に馴染めなかったり、

人より敏感に傷ついてしまったり、

誰かの期待に応えようとして、

自分を見失ってしまう人がいます。


けれど、

それは決して“弱さ”ではありません。


誰にも見えない場所で、

必死に息をして、

壊れそうになりながら今日を生きている。


それだけで、本当は十分すごいことなのだと思います。


凛が少しずつ、

自分の痛みに向き合い、

「普通」ではなく「自分」として生きようとしたように、

この物語が、

誰かが自分を否定しすぎないためのきっかけになれたなら嬉しいです。


あなたの苦しさには、

ちゃんと理由があります。


そして、

その痛みを抱えたままでも、

人は誰かと出会い、

少しずつ生きていけるのだと、

この作品を通して伝えられていたら幸いです。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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