表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きずらさに、名前をつけるなら  作者: あーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/110

第48ページ  壊れないことは、逃げじゃない


「どうして私は、みんなみたいに生きられないんだろう」


誰かの何気ない一言で深く傷ついてしまう。

人の感情ばかり気にして、自分の気持ちがわからなくなる。

ちゃんと笑っているのに、なぜか苦しい。


そんな“生きづらさ”を、

「甘え」や「弱さ」だと思い込んでしまう人がいる。


この物語は、

“普通”になれなかった人たちの物語です。


誰にも言えない孤独。

理解されない苦しさ。

消えたいわけじゃないのに、

この世界にうまく馴染めない感覚。


主人公・朝比奈凛は、

そんな痛みを抱えながら生きています。


けれど、

生きづらさには、理由があります。


そして、

名前のつかない痛みにも、

いつか誰かが寄り添ってくれる日が来るかもしれません。


この物語が、

今苦しんでいる誰かの心に、

小さな灯りとして残りますように。



 アルバイトが終わった頃には、外はすっかり夜になっていた。


 コンビニの自動ドアが開くたび、冷たい風が流れ込んでくる。


 凛はバックヤードで制服を脱ぎながら、小さく息を吐いた。


 疲れた。


 身体も重い。


 でも今日は、心の疲れ方が少し違った。


 三崎の言葉は刺さった。


 “みんな頑張ってる”。


 その言葉は今でも苦しい。


 でも。


 以前みたいに、“自分が駄目なんだ”とまでは思わなかった。


 それが少し不思議だった。


 帰り道。


 凛は自然と『cafe 月灯り』へ向かっていた。


 最近、この場所へ来ると少し呼吸が楽になる。


 扉を開ける。


 ベルの音。


 真白がカウンターの奥から顔を上げた。


「お疲れさま」


「……疲れた」


 凛は苦笑しながら席へ座る。


 真白は少し笑って、お湯を沸かし始めた。


「今日はどんな疲れ?」


 その聞き方が、凛は好きだった。


 “疲れてる前提”で話してくれるから。


「……なんか」


 凛は視線を落とす。


「また、“みんな頑張ってる”って言われた」


 真白は「あー」と小さく苦笑した。


「結構くるやつだ」


「うん」


 凛はカウンターへ頬杖をつく。


「昔は、ああいうこと言われると、“もっと頑張らなきゃ”しか思えなかった」


 でも今は少し違う。


 もちろん苦しい。


 刺さる。


 でも。


 “限界の人に言う言葉じゃない時もある”と思えた。


「それ、かなり大きい変化だと思う」


 真白が静かに言う。


 凛は少し首を傾げる。


「そうかな」


「うん」


 真白はカップへ紅茶を注ぎながら続ける。


「前の凛ちゃんって、“苦しい=自分が弱い”になってたから」


 凛は黙る。


 その通りだった。


 苦しいのは、自分が駄目だから。

 頑張れないのは、自分が弱いから。


 ずっとそう思っていた。


「でも最近は、“それ言われても苦しくなる人いるよね”って考えられるようになってる」


 真白は凛を見る。


「それって、“自分を責めるだけ”から少し抜け始めてるってことだと思う」


 凛の胸が小さく揺れる。


 自分を責めるだけ。


 本当に、ずっとそうだった。


 上手くできない時。

 疲れた時。

 人と馴染めない時。


 全部、“自分が悪い”で終わらせていた。


「……でもさ」


 凛は小さく言う。


「やっぱ怖い」


「何が?」


「このまま社会に馴染めなかったらどうしようって」


 その本音を口にした瞬間、胸が少し苦しくなる。


 真白は静かに聞いていた。


「最近、“壊れないように”って考えるようになったけど」


 凛は視線を落とす。


「それって、“逃げてる”だけなのかなって思う時ある」


 苦しいから休む。


 無理だから離れる。


 それは、“頑張ってない”ことなんじゃないか。


 そんな不安が、まだ凛の中には強く残っていた。


 真白は少し黙った。


 それから静かな声で言う。


「俺さ」


「?」


「昔、“壊れるまで頑張る方が偉い”って本気で思ってた」


 凛は目を上げる。


「倒れるまで働いて」


「眠れなくなっても出勤して」


「限界なのに、“まだいける”って思い込んでた」


 真白は苦笑した。


「でも結局、壊れた」


 その言葉が、静かに店内へ落ちる。


 壊れる。


 その怖さを、凛は最近少しずつ現実として感じ始めている。


「で、壊れたあと初めて思った」


 真白はゆっくり続ける。


「“頑張り続けること”と、“ちゃんと生きること”って別なんだなって」


 凛は静かに息を止める。


 頑張り続けること。


 それが“正しい”と思っていた。


 でも。


 その先で壊れてしまったら。


 本当に、それは“正解”だったのだろうか。


「壊れないように休むのって」


 真白は凛を見る。


「逃げじゃなくて、“生き延びるための調整”だと思う」


 その言葉が、凛の胸へゆっくり落ちていく。


 調整。


 今まで凛は、“頑張る”か“駄目になる”かしかなかった。


 でも本当は。


 休むことも。

 助けを求めることも。

 離れることも。


 生きるためには必要なのかもしれない。


「……でも社会って」


 凛は小さく言う。


「“休む人”に優しくない気がする」


 真白は少し苦笑した。


「まあね」


 その即答に、凛も少し笑ってしまう。


「頑張れる人基準で回ってる部分はあると思う」


 真白は紅茶の湯気を見つめながら言う。


「でもさ」


「?」


「だからって、“壊れても合わせろ”は違うと思うんだよね」


 凛は静かに目を伏せる。


 昔の凛なら。


 “みんな頑張ってる”に合わせようとしていた。


 壊れても。


 苦しくても。


 普通になろうとしていた。


「凛ちゃん」


 真白が穏やかに言う。


「最近、“ちゃんと苦しいってわかるようになってきた”でしょ」


 凛は少し考えてから頷いた。


「……うん」


 前は、限界すらわからなかった。


 でも今は。


 苦しい。

 疲れてる。

 無理。


 そういう感覚に、少しずつ気づけるようになっている。


「それって、生きる上でかなり大事な感覚だと思う」


 真白は小さく笑った。


「壊れる人って、大体“もう無理”がわかんなくなってるから」


 その言葉に、凛の胸が静かに痛む。


 わかる。


 ずっと無理を続けていると、“苦しい”が普通になってしまう。


 そしてある日、突然動けなくなる。


 真白も。


 灯も。


 多分、そうだった。


 店内の時計が静かに時を刻んでいる。


 凛は温かい紅茶を両手で包みながら、小さく息を吐く。


「……壊れないことって」


 凛はぽつりと言う。


「悪いことじゃないのかな」


 真白は穏やかに笑った。


「むしろ、一番大事だと思う」


 その言葉に、凛の胸がじわりと熱くなる。


 壊れないこと。


 それは今まで、“甘え”みたいに感じていた。


 でも。


 本当は、“生き続けるために必要なこと”なのかもしれない。


 窓の外では、夜の街が静かに光っていた。


 凛はその光をぼんやり見つめながら思う。


 まだ怖い。


 社会も。

 未来も。

 普通になれない自分も。


 でも。


 “壊れないように生きたい”と思うことだけは、少しずつ否定しなくなっていた。



『生きづらさに、名前をつけるなら』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


この作品は、

「普通に生きること」が苦しい人たちへ向けて書いた物語です。


世の中には、

頑張っても周囲に馴染めなかったり、

人より敏感に傷ついてしまったり、

誰かの期待に応えようとして、

自分を見失ってしまう人がいます。


けれど、

それは決して“弱さ”ではありません。


誰にも見えない場所で、

必死に息をして、

壊れそうになりながら今日を生きている。


それだけで、本当は十分すごいことなのだと思います。


凛が少しずつ、

自分の痛みに向き合い、

「普通」ではなく「自分」として生きようとしたように、

この物語が、

誰かが自分を否定しすぎないためのきっかけになれたなら嬉しいです。


あなたの苦しさには、

ちゃんと理由があります。


そして、

その痛みを抱えたままでも、

人は誰かと出会い、

少しずつ生きていけるのだと、

この作品を通して伝えられていたら幸いです。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ