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4GB USB 〜29歳既婚者が過去に戻って一攫千金を狙ったけど現実は結構厳しそう〜  作者: ナカモリトマト


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53話 KYOTO

 囲炉裏の火は、ほとんど消えかけていた。

私はスマホを見つめたまま、しばらく動かなかった。


 『わたしは、あなたの味方だから』


 雪から届いた最後の文章。

短い言葉だったが、妙に頭に残っていた。


 味方。


 その言葉を、簡単に信じていいのか分からない。

未来を知っている。

私のことを知っている。

助けたかったと言う。


 だが、肝心なことは何も話さない。

怖さは消えていなかった。

むしろ、やり取りを続けるほど強くなっている気さえした。


 私は少し考えてから、画面を開いた。


 『あなたは、今どこにいるんですか』


 送信する。

既読はすぐについた。

だが返事は少し遅かった。


 『京都だよー』


 それだけだった。

私は画面を見る。


 京都。


 遠い。

ここから簡単に行ける距離ではない。

だが、不思議と現実感があった。

雪は最初から、どこか現実の中にいる存在だった。


 『ずっと京都?』


 返事が来る。


 『今は』


 曖昧な答えだった。

私は指を止める。


 本当に会うべきなのか。

そもそも、会って何を確認したいのか、自分でも整理できていなかった。


 未来のことか。

帰る方法か。

それとも。

私は小さく息を吐き、文字を打つ。


 『会えますか』


 送信した瞬間、自分でも驚いた。

数秒、沈黙が続く。


 やがて画面が光った。


 『会わない方がいいかもしれないよ』


 私は眉をひそめる。


 『どうしてですか』


 返事は短かった。


 『あなたが、戻れなくなるかもしれないから』


 意味が分からなかった。

だが、その一文には妙な重さがあった。


 私はしばらく考え込む。

囲炉裏の炭が、小さく崩れる音を立てた。


 それでも。


 このまま、顔も知らない相手と画面越しだけで話し続ける方が、私には不自然に思えた。


 『それでも会いたいです』


 送信する。

既読。


 返事は、すぐには来なかった。

外では雪が降っている。

風の音が、古い家の隙間を抜けていく。


 長い沈黙のあと、ようやくメッセージが届いた。


 『分かった』


 その短い返事を見た瞬間、胸の奥が少しだけ重くなる。

安心ではなかった。

むしろ、何か決定的なものに近づいてしまった感覚だった。


 翌朝。

私はいつも通り星さんのところへ向かった。

雪は止んでいたが、道にはまだ白さが残っている。


 作業場に入ると、星さんはすでに桑を揃えていた。


 「おはようございます」


 「おはようございます」


 いつものやり取り。

私は作業を始める。


 蚕室の空気は暖かい。

葉の匂いと、静かな咀嚼音が広がっている。


 だが今日は、どうしても落ち着かなかった。

作業を続けながら、私はタイミングを探す。

しばらくしてから、ようやく口を開いた。


 「少し、長く休みをもらいたいです」


 星さんの手は止まらなかった。


 「どれくらいですか」


 「まだ分かりません」


 星さんは桑を整えながら、小さく頷く。


 「そうですか」


 それだけだった。

私は続ける。


 「少し、遠くに行こうと思っていて」


 「どちらへ」


 「京都です」


 一瞬だけ、蚕室が静かになった気がした。

だが星さんは、特に表情を変えない。


 「京都ですか」


 「はい」


 それ以上、深くは聞いてこなかった。

私は少し迷ったあと、言う。


 「会わないといけない人がいます」


 星さんは静かに桑を置く。


 「そうですか」


 短い返事。

だが否定もしなかった。

しばらくしてから、


 「こっちは大丈夫です」


 と言った。


 「今の時期なら、少し抜けても回ります」


 私は頭を下げる。


 「ありがとうございます」


 星さんは小さく頷くだけだった。

作業を再開する。

蚕の音が、静かに響いていた。


 私は桑を置きながら、京都という言葉を頭の中で繰り返す。

そこに、雪がいる。

未来を知る女が。


 そしてたぶん、

私の知らない“私”を知っている。

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