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4GB USB 〜29歳既婚者が過去に戻って一攫千金を狙ったけど現実は結構厳しそう〜  作者: ナカモリトマト


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42話 名前の続き

 翌日も同じ道を歩いた。


 迷いはなかった。門の前に立つと、昨日よりも躊躇が薄い。小さく息を整え、声をかける。


 「失礼します」


 ほどなくして男性が現れた。


 「来ましたか」


 「はい。昨日はありがとうございました」


 頭を下げると、男性は軽く頷く。


 「中へどうぞ」


 門をくぐる。昨日と同じはずの一歩が、わずかに違って感じた。完全な外ではない、という程度の変化だった。


 作業場に入ると、準備はすでに始まっている。棚の上の蚕は、昨日よりも少し大きく見えた。


 私は昨日と同じ位置に立ち、様子を見る。男性は何も言わず、ただ手を動かしている。視線だけが、ときどきこちらに向く。


 しばらくして、桑の葉を運ぶ作業が始まった。


 動きを追っていると、男性が言う。


 「持てますか」


 「はい」


 顎で示された場所に行き、積まれた葉を抱える。量はあるが、運べないほどではない。足元を確かめながら、棚の近くまで運んだ。


 「ここでいいですか」


 「そこに置いてください」


 言われた通りに置く。


 「ありがとうございます」


 自然に口に出る。男性は応じず、作業を続けた。


 「葉は新しいものを使います。古くなると食いつきが落ちるので」


 短い説明が加わる。


 「はい」


 それだけ返す。


 運ぶ、置く、離れる。求められるのはそれだけだが、昨日とは違う。見ているだけではない。


 作業の合間、男性がふと口を開いた。


 「北海道と言っていましたね」


 「はい」


 「農作業は、その時に」


 「田植えの手伝いを少し」


 男性は小さく頷く。


 「季節で仕事が動く感覚は分かりますか」


 「多少は」


 「ここも似たようなものです」


 それだけのやり取りだが、距離が少し縮まる。


 しばらくして、男性が続けた。


 「昨日の話ですが」


 「はい」


 「同じ名前の方の件です」


 自然と背筋が伸びる。


 「この近くではなく、もう少し山側に家がありました」


 初めて具体的な場所が示される。


 「今はもう、人は住んでいませんが」


 私は黙って聞く。


 「養蚕をやっていた家です」


 静かな言葉だった。


 胸の奥が、わずかにざわつく。


 「詳しくは知りません。ただ、長く続いていたと聞いています」


 そこで話は止まる。


 それ以上は踏み込まない。


 「場所は……」


 言いかけて、飲み込む。


 男性は手を止めずに言った。


 「興味があるなら、いずれ分かります」


 突き放すでもなく、急かすでもない。


 「急ぐ話でもありません」


 私は頷くだけにした。


 視線を戻し、作業を見る。さっきまでとは違う意味で。


 ここに来た理由が、形を持ち始めている。


 やがて、男性が言う。


 「今日はここまでにしておきましょう」


 「はい」


 外に出ると、空気が軽い。門の前で一度立ち止まる。


 「また来てもいいですか」


 「構いません」


 短い返事だった。


 頭を下げ、道に出る。


 歩きながら、言葉を反芻する。


 山側の家。養蚕。同じ名前。


 偶然とは思えなかった。


 確かめる必要がある。


 ただ、それは今日ではない。


 私は足を止めず、そのまま歩き続けた。

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