34話 新天地を目指して
福島駅に着いたのは、夜19時をを回った頃だった。
電車を降りると、日中の熱がゆっくりと引いていくのがわかる。ホームにはまだ人の流れがあり、仕事帰りの会社員や学生が足早に改札へ向かっていた。
私もその流れに混ざって歩く。
改札を抜け、外へ出る。
駅前はすでに夜の空気に包まれていた。街灯と店の明かりがアスファルトを照らし、バスロータリーには数台の車とタクシーが並んでいる。
地方都市らしい落ち着いた雰囲気だった。
騒がしすぎず、かといって寂れすぎてもいない。
ここから、川俣町に向かう。
そう決めてはいるが、具体的なことはほとんど知らない。祖父の出身地というだけで選んだ場所だ。
まずは情報を集める必要がある。
駅前をゆっくり歩く。
ロータリー脇にある案内板に目を通すと、周辺地図の中に川俣町の名前があった。福島市の東側に位置しているが、鉄道は通っていない。
移動手段はバス。
時刻表を確認すると、本数は多くない。特にこの時間帯は限られている。今から向かうのは現実的ではなかった。
一度立ち止まり、考える。
今日は福島市内で一泊する。
そう決めてから、近くの建物に入る。駅前にある小さな書店だった。
店内は静かで、雑誌や地図が並んでいる。
棚を見て回り、県内の地図と観光案内の冊子を手に取る。レジで会計を済ませ、店を出た。
再び夜の空気の中に戻る。
近くのベンチに腰を下ろし、冊子を開いた。
川俣町。
福島県の内陸にある町。山に囲まれ、人口は多くない。かつては養蚕で栄え、絹織物の産地として知られていた。
現在は農業や畜産が中心。
そして、過疎化。
空き家の存在や、地域の人手不足についても簡単に触れられている。
ページをめくるたびに、現実的な言葉が並ぶ。
華やかさはない。
だが、余白はある。
外から来た人間でも入り込める隙間が残っている。
それが重要だった。
仕事。
住む場所。
この二つを確保できなければ、ここまで来た意味がない。
都会では難しいことも、この規模の町なら可能性はある。
冊子を閉じる。
時計は20時を過ぎていた。
今日はここまでにする。
駅前を歩き、明かりのついた店をいくつか見ながら進む。しばらくして、漫画喫茶の看板が目に入った。
入口のガラス越しに中の様子を確認してから扉を開ける。
受付で一晩の利用を伝える。
身分証を求められるかと思ったが、特に問題なく現金で手続きは終わった。簡単な説明を受け、ブースへ案内される。
狭い個室。
リクライニングチェアと小さな机。壁一枚の空間だが、屋根と明かりがあるだけで十分だった。
ドアを閉めると、外の音が遠くなる。
椅子に腰を下ろし、息を吐く。
ここまで来た。
次にやることは決まっている。
川俣町に行く。
それだけだ。
冊子を机に置き、しばらく天井を見上げる。
静かな空間の中で、時間だけがゆっくりと過ぎていった。




