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4GB USB 〜29歳既婚者が過去に戻って一攫千金を狙ったけど現実は結構厳しそう〜  作者: ナカモリトマト


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35話 静かな町の入り口

 翌朝、私は福島駅前のバス乗り場に立っていた。川俣町行きのバスは本数が少ない。乗り遅せば次はかなり待つことになる。


 停まっていたバスに乗り込み、整理券を取って席に座る。車内には地元の高齢者が数人いるだけで、静かだった。


 やがてバスは発車する。駅前の建物が流れ、見慣れた街並みが少しずつ離れていく。


 最初は住宅や店が並んでいたが、次第に建物は減り、畑や空き地が目立つようになる。さらに進むと、道は緩やかに上り始めた。


 山が近づく。気づけば、周囲は木々に囲まれていた。道路は細くなり、カーブが増える。


 窓の外には川が見えた。流れは速く、岩に当たる水の白さが目立つ。渓谷沿いをなぞるように、バスは進んでいく。


 さっきまでの街の気配は、もうほとんど残っていなかった。車内も静まり返っている。エンジン音と、時折響くブレーキの音だけが耳に残る。


 私は窓の外を見ながら、ここならやり直せるかもしれないと考えていた。人が少ない場所。余計な関係もない。一から始めるには、ちょうどいい。


 バスは山を抜け、やがて川俣町に入った。


 降り立つと、空気が違う。乾いていて、どこか軽い。目立った賑わいはない。通りを歩く人も少なく、車の音もほとんど聞こえない。


 想像していた通りの町だった。


 私はゆっくりと歩きながら周囲を見る。古い家が並び、ところどころに人の気配の薄い建物もある。


 掲示板には、農作業の手伝いの張り紙が貼られていた。


 「いけるかもしれないな……」


 小さく呟く。


 住む場所もありそうだ。仕事も、選ばなければ何かはある。そう思えた。


 近くの商店に入り、話を聞いてみる。


 奥から出てきた年配の女性に、住む場所について尋ねると、あっさりと答えが返ってきた。


 「空き家はあるよ。でもね、紹介がないと難しいね」


 予想はしていた。


 「仕事はどうですか?」


 「あるにはあるけど……身分わかるものはあるの?」


 その一言で、会話が止まる。


 「今は、なくて......」


 そう答えると、女性は小さく頷いた。


 「それだと、どこも無理だね。今はちゃんと確認するから」


 やわらかい言い方だったが、意味ははっきりしていた。


 店を出る。


 さっきまで現実だった景色が、少し遠くなる。


 場所は間違っていない。静かで、無理もない。やり直すには、ちょうどいい。


 だが、私には入るための条件が足りなかった。


 その後も少し歩いたが、結果は同じだった。どこへ行っても、最後は同じところで止まる。


 名前と住所、そしてそれを証明するもの。それがなければ、何も始まらない。


 昼過ぎ、私はバス停に戻っていた。


 来た道を引き返す。


 バスは再び山へ入る。行きと同じ道のはずなのに、景色はどこか遠く感じた。


 渓谷を流れる水の音だけが、やけに耳に残る。


 夕方、福島駅に戻る。


 人の多さと音が、現実を引き戻してくる。


 私はしばらくその場に立ち尽くした。


 川俣町は間違っていなかった。ただ、このままでは入れない。


 問題は場所じゃない。


 私自身だった。

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