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4GB USB 〜29歳既婚者が過去に戻って一攫千金を狙ったけど現実は結構厳しそう〜  作者: ナカモリトマト


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21話 動き出した.....

 軽トラのエンジン音が、朝の静けさをゆっくりと切り裂いていく。

 助手席に乗り込み、シートベルトを締めると、北大路さんが無言でアクセルを踏み込んだ。


「なんか変な感じですね」


 ぽつりと呟く。


「何がだ」


「いやこうやって一緒に金の話して、農協行くって」


「はっ、確かにな」


 北大路さんは鼻で笑った。


「ついこの前まで、土いじってただけだからな」


「今もやってますけどね」


「まあな」


 短いやり取り。

 だが、その裏にあるのは軽さだけじゃない。


「で、いくら出すんだお前」


 前を見たまま、北大路さんが聞く。


「俺は250万です」


「結構いくな」


「北大路さんは?」


「300だ.....」


 一瞬だけ、間が空いた。


「いいんですか?」


「今さらだろ」


 ぶっきらぼうに返す。


「競馬の分だけでねぇ」


 ぽつりと、付け足す。


「貯めてた分、少し崩した」


 その言葉は軽い。

 だが、内容は軽くない。


「色々大丈夫ですか?」


「当たり前だべや」


 即答するが、


「まあ、余裕はねぇわな」


 小さく本音が混じる。


 風の音だけが、しばらく車内に流れた。


「どうせ、お前に稼がせてもらった金だ」


 昨日と同じ言葉。

 だが、その意味は明らかに違っていた。


「減っても文句は言わねぇ」


「はい」


「その代わり......」


 一拍置いて、


「増やせよ」


 低く言い切った。


「任せてください」


 軽くは言えない。

 それでも、はっきりと答えた。


 軽トラは、そのまま農協の駐車場に滑り込む

ガラス張りの自動ドアが開くと、ひんやりとした空気が流れてきた。

 中は静かで、どこか張り詰めた空気がある。


「こっちだな」


 金融窓口の方へ向かう。


「いらっしゃいませ」


 若い女性職員が、にこやかに頭を下げた。


「送金をお願いしたいんですが」


 北大路さんが用件を伝える。


「かしこまりました。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「投資するんだわ」


 その一言に、ほんの一瞬だけ間が空いた。


「投資......でございますか」


「株だよ」


「承知いたしました」


 笑顔は崩れない。

だが、どこか慎重な空気が混じる。


「金額の方は?」


「550」


 静かに答える。

一瞬、女性の手が止まった。


「確認ですが、550万円でお間違いないでしょうか」


「間違いねぇ」


 北大路さんは即答する。

女性は頷き、端末に入力を始めた。


「差し支えなければ、投資先をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「ドイツランドって会社です」


 こちらが答える。


「ありがとうございます」


 笑顔のまま、メモを取る。

だが視線が、わずかにこちらに向いている。

値踏みするような、そんな感覚。


「こちら、ご本人様確認をお願いいたします」


 北大路さんが書類にサインをする。

自分は、その隣で黙って立っているだけだ。

その構図が、余計に不自然なのかもしれない。


「送金処理、完了いたしました」


 数分後、女性が丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございました」


「おう」


 それだけ言って、農協を後にする。

外に出ると、さっきまでの空気が嘘のように軽い。


「終わったな」


「ですね」


 あっけないほど、簡単だった。

550万。

数字にすれば、それだけの話だ。

だが......


(これで、戻れないな)


 ふと、そんな考えがよぎる。

軽トラに乗り込み、エンジンがかかる。

何も変わらない景色のはずなのに、

どこか、少しだけ違って見えた。



 一方、その頃。


 窓口の女性は、帳票を整理しながら小さく息を吐いた。


(550万……投資……)


 珍しくはない。

だが、どこか引っかかる。


(あの人……見ない顔だったな)


 北大路さんは知っている。

だが、その隣にいた男は違う。

関係性も、少し不自然だった。

女性は、ふと思い出す。

最近、北大路のところに出入りしている農協職員のことを。


 軽くでいい。

本当に、ただの雑談でいい。

そう自分に言い聞かせて、席を立つ。


「あの、少しいいですか?」


 声をかける。


「さっき北大路さん来てたんですけど――」


 それとなく。

あくまで自然に。


「投資の話をされていて……一緒にいた方って、どなたかご存じですか?」


 何気ない一言。

けれどそれが、静かに波紋を広げ始めていた。

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