押しかけ女房ならぬ、押しかけ生徒
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ついにスグルが安藤家に押し掛けるようです
想定していなかった提案に素っ頓狂な声が出てしまう。
「えーだめかなぁ。まあ突然すぎるのは分かってるけどさ。でもこの家にずっと暮らしてたら、凛斗のきょうだいも寂しがってるんじゃないかと思って・・・」
確かに俺のきょうだいは寂しいとは言っているが、俺が突然生徒を家に連れ帰ってくるとは思っていないはずだ。
「だめ? 凛斗」
綺麗な青い瞳を向けられて、俺は面食らう。
ダメかと言われたら、ダメというよりは提案が突然すぎる。
第一俺はスグルの世話をしにここに来たのであって、スグルを家に連れ帰るのは仕事のうちに入らないような気がする。
「うーん、難しいんじゃないのかな。だってスグルのご両親が許可をくれるかも分からないし」
「お父さんとお母さんならいいって言うと思うよ。だって二人とも興味ないと思うし、ボクに」
さらっと吐かれた冷たい一言に、スグルのことが心配になる。
「そんなことないよ、スグル。興味ないなんてことはない」
「・・・どうだろうね、僕は興味ないんじゃないかと思ってるよ」
何かがスグルにそのような気持ちを抱かせているのだろうか。
「でも、スグルは知らない家に行って怖くないの?こことは環境も全然違う場所だよ?」
「・・・怖くない。むしろ、一人でいるのが寂しい・・・」
「・・・俺のきょうだいに会ってみたいってこと?」
思い切って聞いてみると、スグルはどこか恥ずかしそうにうなずいた。
スグルがここまで大人しくしているのは珍しい気がする。
自分の思いを素直に伝えて、照れているのだろうか。
「会ってみたい・・・ボクも、きょうだいが欲しい」
もちろんスグルもまだ子供だが、ずいぶんと幼い口調に思えた。
「そうか、じゃあちょっと俺の家族に聞いてみる。だけどその前にスグルの両親に確認を取らないと。連絡は自分でできるか?」
「うん、できるよ!」
俺がひとまず提案を飲んでやると、スグルは目を輝かせて振り向いてきた。
「凛斗もきょうだいに説明しておいてくれる?」
「わかった、そうしておくよ」
なんだかこのまま俺の家に行くと言う話になっているが、まさかの展開だ。
家庭教師と言うより、ホームステイ先になる感じ・・・なのか?
妹たちにどう報告すればいいのやら・・・。
とりあえずはまず翌朝、朱莉に連絡をしてみることにした。
『もしもし、どうしたのお兄ちゃん?』
「じ、実はさ、朱莉に提案があって」
『提案?』
電話に出てくれた朱莉は不思議そうで、俺も言葉をためらう。
「実はさ、俺が今生徒で持ってる子が俺の家で暮らしたいって言うんだ」
『え?』
短い驚きの声。
ああ、このリアクションになって当然だとは思うけれど。
「本当に突然のことだとは思ってるよ。けどこっちの家の洗濯機が壊れちゃって、その周りの電子機器も一緒に壊れちゃったんだ。だからちょっと生活が不便で、しばらく俺の家で一緒に過ごすっていう話になってるんだけどさ・・・」
どう嘘をついたところで無駄なので、素直に状況を伝えることにする。
朱莉はしばらく悩んだようだったが、彼女は慈悲深い性格だ。
俺やスグルが困っていると思うと、断る気にもなれないようである。
『そうねえ・・・そりゃ、困ってるなら助けてあげたいけど・・・逆にあたしたちの家にその生徒さんは耐えられるのかしら』
「耐えられるって?」
『だって陸斗とかはまだ小さいし、とにかく騒がしいし・・・ずっとドタバタしてるじゃない』
朱莉の言うことは事実だ。
きょうだいが多ければ寂しさは軽いかもしれないが、その分騒がしい。
特に俺の家は次男から下はまだ全員小学生以下だ。
騒がしいったらありゃしない。
『・・・でも、お兄ちゃんがそうしたいって言うなら、まあ、受け入れるけど・・・』
「朱莉は本当に優しいな、いつも申し訳ないよ」
『別に、お兄ちゃんが誤ることじゃないじゃない。洗濯機が壊れちゃったのは仕方ないことでしょ?』
俺に次いで家族を支えてきた長女だからこそ、朱莉は器が大きい。
かなり突拍子のない提案も、なんとか受け止めてくれるらしい。
「じゃあ、明日には生徒と一緒に家に行くからさ。泊まる部屋だけ確保してもらってもいいかな?」
『了解。じゃあお兄ちゃんも一緒に帰ってくるのね?』
「うん、その予定だよ」
『よかった。その日は先に料理を作っておくから、気楽に帰って来てね』
本当に朱莉は気の利く妹だ。
受け入れの準備どころか、料理まで用意して待っていてくれるらしい。
感謝してもしきれない。
ともかくこうして家に帰る準備ができたので、俺はスグルにそのことを伝えた。
「スグル、俺の家行ってもいいってさ」
「本当、よかった!」
そのことを伝えるなりスグルは喜んで飛び跳ね、服などをまとめ始めた。
「ボク、人の家にお泊りするの初めてだから嬉しい!」
はしゃぎながらタンスから服を取り出し、カバンに詰めていくスグル。
ここまでルンルンな様子を見ると、上手く行って良かったと思う。
しかし、その時だった。
スグルがクローゼットから取り出した制服に、見覚えがあった。
「ん、スグル、その制服って高校の?」
「そうだよ」
「えっ、それって先翔堂学園の制服だよな・・・?」
先翔堂、それは俺の妹が通っている高校の名前。
妹が毎日着ていたのだから見覚えのある制服だ。
あそこは男女共通でブレザーが導入されている。
そして私服も許可されていると言うのも共通部分だ。
まさか・・・と思いつつ、それ以上尋ねることはできなかった。
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