大人の階段
朱莉が見せてきたのはカウントダウンの画面。
日数のカウントはゼロになっている。
「今日が誕生日ってことは、それはもうつまり、分かるわよね?」
朱莉の目は爛爛とこちらを見ている。
まあ、もう逃げられるわけがない・・・というより、俺だって逃げ出すつもりはなかった。
「うん、わかってるよ。ただし、みんなが寝たらね」
「・・・はあ、早く夜にならないかしらね」
まだ夕日が見えている窓を眺めながら、朱莉は不敵な笑みを浮かべた。
しかし時間と言うものは思っている以上に早く過ぎるものだ。
夕食を終え、ヒビキさんと陸斗たちがゲームをしていれば、どんどんと夜は更けていった。
「それじゃあ、またお会いしましょうね」
ヒビキさんを玄関先で見送ってから、俺たちはきょうだいを風呂に入れてやった。
「お兄ちゃん、おやすみ」
ゆかりを部屋まで見送ってから、自分も風呂に入る。
そういや明日は土曜日か、なんてことをぼんやりと考えつつ、風呂からあがって寝間着に着替えた・・・のだが。
洗濯機上に置いてあったスマホに何やらラインが届いていることに気が付いた。
「ライン・・・?」
こんな時になんだろうかと思うと、それはどうやら朱莉からのものであるようだった。
同じ家の中にいるのにわざわざラインを送って来たからには何か理由があるのだろうと思ったが、それを確認してみると、送られてきていたのは一枚の写真だった。
「・・・写真?」
俺がその写真を開いてみると、そこには自撮りらしき写真が添付されている。
メイド服の女の子・・・。
「朱莉?」
顔が隠れているので全容は分からないものの、写真の背景になっている部屋の様子が朱莉の部屋のものになっていたのだ。
「・・・メ、メイド服を着て待ってるのか・・・?」
まさかここまで用意周到にしているとは思っていなかったものだから、朱莉が今日をどれだけ心待ちにしていたのだろうと緊張してしまう。
しかしともかく朱莉が待ってくれている事には、俺もそちらへと向かうしかない。
風呂場から抜け出し、きょうだいの部屋がある一階を通り抜ける。
もうきょうだいたちは眠りについてしまったようだ。
階段を上り二階に向かうと、朱莉の部屋の扉の隙間から光が覗いてきていた。
やっぱり、中にいるのか・・・。
扉を小さくノックする。
「・・・朱莉? いる・・・?」
夜という事と緊張が重なり声が小さくなるが、中からはちゃんと返事が返って来た。
「ええ、いるわよ」
「あ、あの・・・」
「扉の前に居てどうするのよ、早く入ってきたらどう?」
なんとも挑発的な声色で誘われ、俺もおそるおそる扉を開いた。
するとそこには例の文化祭で着用していたメイド服を着て立っている朱莉がいた。
「あ、朱莉、そのメイド服って・・・」
持ってきたのだろうか?と疑問が頭に浮かぶ。
すると朱莉はメイド服のスカートの裾を持ち、それを持ったままくるりと回って見せる。
ふんわりと裾が揺れ、いかにも可愛らしい雰囲気だ。
「・・・そうよ、持って行っていいって言われたから、せっかくならと思って」
「そ、そうなんだ・・・」
俺は朱莉の姿に吸い寄せられるようにして部屋の中に足を踏み入れる。
すると朱莉はそそくさと寄って来て、俺の背後の扉に手をかける。
がちゃん。
・・・鍵のかかる音だ。
「・・・逃がさないからね」
舌をぺろりと出して微笑まれ、俺も顔に血が集まる。
「・・・俺だって逃げないよ」
朱莉に手招かれるままに部屋の奥へと進んでいき、朱莉が中央に立つ。
ぴたりと止まった後、彼女はメイド服を見せびらかすようにしてポーズを取り始めた。
「どう、渾身の一着なんだけど」
不敵な笑みを浮かべ、朱莉はまた俺を見上げて来る。
文化祭で見たときから可愛らしいとは思っていたものの、こうしてじっくり見てみると目が離せなくなるほど魅力的だ。
フリルのついたスカートから覗くすらりとした足、きゃしゃな体・・・。
「あはは、見とれちゃってるのかしら?」
朱莉はどこまでも余裕そうだ。
「・・・ほら、来てちょうだい、凛斗」
手を引かれ、そのままベッドの側へと連れていかれる。
そして身構えていれば、予想の通りにベッドへと押し倒された。
だがそれは前ほど乱雑なものではなくなっていた。
俺がもう逃げないと分かっているからだろう、朱莉も順序を踏もうとしているらしい。
「・・・もう逃げないのね」
朱莉は俺にのしかかりながら、満足そうな表情を浮かべた。
「・・・逃げないよ、こっちだって、逃がさない」
そう言うと、朱莉の顔がふっと赤くなった。
俺の真剣さが伝わってくれたのだろう、彼女もここに来てようやく納得がいったようだった。
「凛斗、私の告白を受け止めてくれてありがとう」
ふとそんなことを言われ、俺も何か胸がじんわりとあたたかくなった。
朱莉からすれば、俺が受けとめてくれるかどうか不安な部分もあっただろう。
「・・・いいよ、大丈夫」
俺は朱莉の頬に手を添え、そっとなぐさめるような言葉を掛けた。
「ふふ、やっぱり凛斗ってどこまでもお人よしなのね」
くすり、と朱莉が微笑んだ。
そのまま、二人の影が重なった。




