これからも、家族でいようね
「ほらー! 陸斗、テスト見せてあげてよ!」
ドタバタ、と朝から騒がしい音。
スグルと陸斗がリビングを走り回っているようだ。
「陸斗、もう学校に行かなきゃいけない時間じゃないのか?」
俺はちらりと時計を見た。
小学校の登校時間はもうすぐに迫っている。
「まあまあ、凛斗、ちょっと見てあげてよ、昨日返って来たテストがすごかったんだってさ!」
あきらかにはしゃいでいるスグルと陸斗の様子に、俺もなんだろうかと陸斗の手元をのぞき込む。
そこにはテストが握られており、どうも昨日返却されたそうだ。
「そんなによかったのか?」
俺が尋ねてみると、陸斗は待ってましたと言わんばかりにうなずいた。
「そうなんだよ! スグルくんと一生懸命勉強したから、じゃじゃーん!」
陸斗が見せてきたのは、なんと満点のテストだった。
解答用紙の上には大きな花丸が書かれており、右端の方には百の文字がある。
「まじかよ、陸斗! すごいじゃないか!」
なんと前にはあれだけ勉強ができないと言ってひいひい言っていた陸斗が、満点を取ってくることがあるだなんて。
これもスグルの手助けのおかげなのだろうか。
「スグル、ここまで熱心に付き合ってくれたのか」
「ふふふ、ボクもまさかここまで伸びるとは思ってなかったけどね。やっぱり陸斗がやる気を出してやってくれたのが良かったんだね」
スグルは褒められても、功績を自分のものにしようとはしなかった。
ただ微笑ましそうに笑ってから、陸斗たちを学校に送り出す。
「さ、今日も楽しく過ごしておいで!」
「はーい! 帰ったらまた一緒に勉強しようね!」
「うん!」
陸斗とスグルは本当に仲が良くなったものだと思う。
実際、陸斗がアレルギーを発症したときにはスグルに助けてもらったし、スグルがいなければどうなっていたか分からない瞬間も多々あった。
「じゃ、凛斗、私も行ってくるわね」
朱莉がリビングの奥の方から現れた。
彼女も今では高校三年生だ。
制服に身を包んだまま、俺の肩を叩いて去って行く・・・。
と思いきや、振り返りざまに頬にキスをしてきた。
「ちょっ、朱莉⁈」
突然のことに目を見開いたが、朱莉はいたずらっぽく舌を出してそのまま走って行ってしまう。
その光景を見ていたスグルはくすくすと笑った。
「お~、朝からお暑いですなあ」
「ちゃ、ちゃかすなよ・・・」
スグルがあからさまにニヤニヤしているので、俺もこっぱずかしくなってしまう。
というか、振り返ると朱莉と俺がくっつくきっかけを作ったのはスグルのような気がする。
文化祭での細工に始まり、きょうだいたちが家にいないように仕向けたりなど・・・。
「スグルさ、いろいろ手回ししてくれたよね」
ふとそんなことを尋ねると、スグルは少々恥じらったように笑顔を見せてきた。
「・・・まあ、凛斗が気付くのが遅すぎた面はあるけどね」
・・・それを言われたら・・・と俺もなんだか恥ずかしくなった。
文化祭の時なんて、今から考えれば無茶なゲームばかりだったじゃないか。
脱出ゲームとか言いながらまったく頭も使っていなかったし、人質とか言ってほとんどラブレターみたいな紙を朱莉に書かせたわけだし。
「ていうか、スグルは朱莉が俺のことを好きって知ってたわけ・・・?」
そんなことが気になって、思い切って尋ねてみることにした。
文化祭の時点でスグルは朱莉が何を紙に書いていたかを知っていたわけだから、朱莉が俺に対して恋愛的な好意を持っていたと気が付いていたはずで・・・。
「・・・そうだね、もうこの家に来てすぐ気が付いたけどね」
「えっ、そんなにすぐ⁈」
「凛斗はほんととことん鈍いんだな・・・。そうだよ、だって朱莉ちゃん、凛斗に対して優しすぎてるもん・・・」
半ば呆れたような目で言われて、俺も何とも言えない気分になる。
気が付いていない俺は果たして何だったのだろう・・・と。
しかしそんな俺の腕を引っ張り、スグルは突如として玄関に向かった。
「ど、どうしたんだよ、スグル!」
「話してて忘れてたけど、ボクたちも大学に行かなきゃいけないじゃん! ほら、早く!」
急かされるがままに時計を見てみると、確かにもう針は一限の時刻を指しそうになっていた。
「ホントだ、やばっ・・・!」
俺たちは慌てて家を出て、大学に向かった。
それから大学に到着すると、俺たちは学年が違うのでそれぞれ別れることになった。
「そうだ、凛斗。帰りに寄りたいところがあるから、授業が終わったら中庭で集合ね」
「寄りたいところ?」
「うん、よろしくね」
そんなことを言った直後、スグルはそそくさと走り去ってしまう。
やがてその姿も見えなくなって、俺はぽつんと講堂の近くに立ち尽くしていた。
ほんとう、朝からいろいろと慌ただしい・・・。
けれど言われたことは言われたことなので、俺は大人しく授業を受けることにした。
「おい、凛斗」
講堂に入ると友人の久留米が声を掛けてきた。
「あ、久留米」
「あれからどうだ、生徒とは。仲良くやれてるか?」
そう言われ、俺はどう返事をしたらよいのだか分からなくなった。
仲良くやれているというか、同居することになったというか・・・。
今では家族の一員として接しているということを説明しようにも、どうにも・・・といった感じで。
「なんだよ、微妙な表情だな。思ったより大変な案件だったか?」
問われて、俺は一応首を振った。
「いや、大変って言うより、そのさ・・・生徒ももう大学生になったんだよね」
「あ、そうなのか! ちなみにどこ大行ったとか分かってるのか?」
久留米は何の気なしにそう聞いてきているようだったが、俺からすると素直に答えていいものなのかと思ったりもする。
しかしスグルの行動力を思うと、近日中にバレてもおかしくないなとは思った。
「・・・東大だよ」
「へえ~、東大」
「うん」
「・・・」
「・・・東大⁈」
あまりに俺がさらっと言ったからだろう、久留米も一瞬は聞き逃しそうになっていたようだった。
しかし生徒が東大に入って来たとなって、いつか会うかもしれないと動揺しているようだ。
「そ、そんなに頭良かったのかよ。じゃあいつか会うかもってこと?」
「まあ、そうだろうな、多分あっちから来るようなもんだとは思うけど・・・」
そうして駄弁りながら時間が過ぎていき、やがて学校も終わりを迎えた。
「そうなのか、いろいろあったもんだなあ」
「まあ、これでも一部であるんだけどさ・・・」
スグルが家族になるまでの紆余曲折を久留米に話しているうちに、陽は傾き始めていた。
すると講堂の扉が開き、そこから誰かが姿をあらわす。
銀色の長い髪、スグルだった。
「ちょっと、凛斗! 約束したのに来てないなんてひどいじゃないか!」
大声で名前を呼ばれたものだから、もうどうやっても言い逃れはできない。
「あ、あれがもしかして、例の・・・」
久留米は突然現れたスグルに唖然としていたようだったが、スグルはすぐに俺の元に駆け寄って手首を掴んできた。
そしてあっという間に立ち上がらされる。
「さあ、行くよ、凛斗、早く行かないと売り切れちゃう!」
「売り切れるって、じゃ、じゃあな、またな、久留米!」
「お、おう・・・」
ぽかんとしたままの久留米を置いて、俺たちは街へと駆けだした。
「ほ、ほんと、どこ行くんだよスグル・・・!」
「いいから、ついてきて!」
俺の手を引いたまま、止まることなくどんどんと進んでいくスグル。
そしてやがて見覚えのある建物の場所までやって来た。
「ベーグル屋さん・・・」
そう、そこには昔スグルと出会ったばかりの頃にやって来たベーグル屋さんがあった。
昔はスグルもここのベーグルを食べないと一日が始まらないと言っていたものの、今は朱莉の朝ごはんを食べるようになったので落ち着いていたのだが・・・。
「食べたくなったのか?」
俺が尋ねてみると、スグルはあいまいな頷きを見せた。
肯定のようでもあるが、反対にそうでもないようにも見える。
「・・・どうしたんだ、スグル?」
「・・・みんなで、食べたいなって思って」
そう言われて、俺はハッとした。
昔は自分の分のベーグルを何とか確保しようとしていたスグルが、今では家族のみんなにベーグルを上げたいと考えていた。
「・・・わかった。じゃあ、買って帰ろうか」
「うん、ちゃんと家族のみんなの分をね」
どこか誇らしげなスグルの表情に、俺も微笑み返した。
これにて完結です!初投稿だったにもかかわらず、たくさんの方に読んでいただけてうれしかったです!
次回作もまた書けるように頑張ります!
書きながら投稿していたのでハラハラしていましたが、何とか走り切れました!次回はもっと準備してから挑みます!みなさん、本当にありがとうございます!




