スグルは一体どこ大へ
それから、俺はラブレターをくれた女の子に対して、今は彼女がいるのだと言うことを伝えた。
もちろんがっかりはされたものの、朱莉に言われた通りにしなければどうなるか分からないのだし、何より朱莉の言葉が忘れられなかったのだ。
『もう凛斗は私の彼氏だからね』
そう、俺はもう正式に朱莉の彼氏になったのだ。
だからもう他の女の子にもかまけていられないわけなのだ・・・。
そして朱莉からとあるアプリをスマホに入れるように言われた。
もちろん位置情報把握とかではないが、なかなか俺も驚かされた。
「ね、カウントダウンするためだから。毎日このアプリ見て、あとどのくらいで私が大人になるかをカウントしててね」
どこか誇らしげにそんなことを言われ、俺もどきりとしてしまう。
現在高校二年生である朱莉。
もうすぐ高校三年生になるので、大人・・・つまり十八歳になるまではそれほど長い時間がかかるわけではない。
「楽しみにしてなさいよ」
そんなことを言われ、俺はいてもたってもいられなくなりそうだった。
というか、朱莉はどうしてあそこまで積極的にいられるのだろうか・・・とも思うが。
とにもかくにも、正式にカップルとなったからには、俺もちゃんとしなければならないと身を引き締めた。
ついに冬がやって来て、スグルにとっては重大な局面を迎え始めた。
そう、大学受験である。
しかしなかなかひどいと言えばいいのか、逆に信頼されていると言えばいいのか、スグルの受験の成功を不安視する家族はいなかった。
「まあ、スグルさんなら受かるでしょうからね」
朱莉は夕食の片付けをしながら、片手間にそんなことを言う。
「なんだよ~! 誰も心配してくれないの⁈」
スグルが慌てたように言うので、俺も思わず苦笑いしてしまった。
「凛斗は⁈ 凛斗はボクが受かるかどうか不安じゃないの⁈」
問い詰めるように聞かれ、どう返事をしたらいいのやら。
本当のことを言えば信頼しているので憂いてはいないが、スグルからすればそれが寂しいのかもしれないと思う。
「じゃあスグルは自信がないのか?」
スグルのことだからそんなわけはないと知っていたが、どうもいつまでも騒いでいるようなので尋ねてみることにした。
するとスグルはけろりと顔色を変えて、気を取り直したように胸元を叩く。
「なんだよ、自信はあるに決まってるじゃないか。このボクが失敗するとでも思うのかい?」
「思わないけどさ・・・」
先程まで気にかけてくれと騒いでいたスグルとはまるで別人のようだ、とよく分からない笑いが漏れてしまう。
しかしそれにしたって、スグルはどこの大学を受けるのだろうか。
俺はそれを教えてもらっていないのだ。
「てかさ、スグル、どこの大学受けるの?」
「ん、あ~。それは合格してからのお楽しみかな~」
「そんなこと言われてもなあ」
ゲームではあるまいし、焦らされても不安が募るだけなのだが・・・。
だが教えてもらえないものは教えてもらえないのだ、俺は目でスグルの背中を追う事しかできなくなる。
「ま、自信があるに越したことはないわね」
朱莉はさっさと皿洗いを終えたようで、そのまま部屋へと引き下がっていく。
「あれ、朱莉、テレビ見ないの?」
「まあ、ええ、ちょっとね」
朱莉は最近さっさと部屋に戻ってしまうことが増えた。
理由は詮索しないが、何だろうかと思いはする。
しかしそれにしたって、スグルはどこの大学を受験するのだろうか。
気になって仕方がないのだが、家族のだれも教えようとしてくれない。
それなのでスグルが風呂に行っているタイミングで陸斗に聞いてみることにした。
陸斗はスグルと仲がいいので、ある程度知っているのではないだろうかと考えたのだ。
「なあ、陸斗。スグルがどこの大学受けるか知ってるか?」
「え、お兄ちゃん知らないの?」
きょとんとした顔をされた。
・・・やはり陸斗には話しているようだ。
「ヒントだけでもいいからくれないかな」
どうしてもスグルのことが気にかかるので聞いてみると、陸斗は唇を尖らせた後うなずいた。
「えーっ、そうだなあ。でも言わないでって言われてるし・・・」
口止めされているようだが、俺だってスグルが心配なのだ。
いくら賢いとはいえ、受験先を隠されていてそわそわしないわけがない。
「じゃあ、ヒントは教えてあげるけどさ、ぼくがいったってこと、スグルくんにおしえちゃだめだからね?」
陸斗は口の前に指を立てて、しーっと秘密にしてくれのそぶりを見せた。
「わかった、いいよ」
俺が頷いて陸斗の口に耳を寄せると、陸斗は周囲をきょろきょろと見つめてからささやいてきた。
「お兄ちゃんが、さみしくなくなるって言ってた」
「・・・俺がさみしくなくなる・・・?」
ヒントと言うには妙な言い回しだったので、俺は頭にはてなを浮かべる羽目になった。
別に俺はもともと寂しいと思ったことはないのだが・・・。
「分かった。とりあえず教えてくれてありがとう」
「うん、でもひみつだからね!」
陸斗は釘をさすように、再度口の前で指を立てた。
おそらくはスグルに相当ちゃんと口封じをされているのだろう。
陸斗くらいの年頃なら、平気で真実をこぼしてしまってもおかしくないはずだ。
「そうか、さみしくない・・・」
俺はリビングに戻ってから、ソファにくつろいで先程の言葉の真相を考えた。
さみしいということは、すなわち一人ぼっちだという事だろうか。
俺が寂しい・・・それはつまり東大に一人で通っているという事か・・・?
そこまで考えると、はっと頭の中で何かが繋がった感覚があった。
まさか、スグルは東大に入ってくる気なんじゃないか。
まだ確証はないものの、陸斗の言いぶりなどを考えると、もしやと思った。
するとそんな俺の近くをスグルが通りかかった。
「おいっ、またかよ!」
俺は慌てて顔を覆う。
もう不本意なことに慣れ始めたが、スグルはまたもやタオル一枚で出て来ていた。
「いやはや、パジャマを忘れまして・・・」
パジャマを忘れたかどうかなどもうどうでもいいのだ・・・。
しかしそんなスグルの背中を見ながら、本当に東大に入ってくるのだろうかとぼんやり思ったりした。
・・・騒がしいどころでは済まなさそうだが。




