同じ部屋で寝れるか!
「オセロ?」
「そう、これ、ボクが毎回やってることなんだ。やってきた家庭教師には、かならずオセロの勝負を申し込むってね。これで、その家庭教師がどれだけやり手かを見極めるわけ」
「えっ・・・?」
「どれだけ家事が上手でも、まずはボクとやりあえるくらいの賢さがなきゃね」
まるで舌なめずりでもするかのように言われ、俺は思わず息を飲む。
「さあ、やろうよ。ボクに通用するような家庭教師か確かめさせてよ」
慣れた手つきで、スグルはオセロの台を開いている。
そして白色の駒を手に取って、俺を試すように微笑んだ。
「ほら、来て」
年下の相手にも関わらず、その目を見張るような魔力に逆らえない。
俺は半ば引きずられるようにしてスグルの前へ歩み寄り、机の前にしゃがみ込んだ。
「さあ、勝負しよう。先攻か後攻か、好きな方を選んでいいよ」
それを決めさせると言うことは、それだけ余裕があると言う事なのだろう。
ど、どちらを選ぶべきなのか。
「じゃ、じゃあ後攻で」
それでよいのかは分からない。
ただ後攻の方が強そうな気がしただけだ。
「そう、じゃあ始めようか」
スグルはいたって冷静な、むしろこの状況を楽しむような顔で白色の駒を置いた。
「ほら、凛斗も」
促されて、おずおずと黒の駒を置く。
それから、部屋にはパチパチとオセロの音だけが響いた。
しかし、オセロを進めているうちに気が付いた。
・・・こいつ、本当に強い・・・!
オセロを置く手が止まりそうになり、そのたびにニコニコとスグルが顔を向けてくる。
「ほら、凛斗、手が止まってるよ」
「う、うん。もちろん・・・」
焦ってオセロを進めるけれど、なんだか雲行きが怪しくなってきた。
盤面の上の黒色がみるみると減っていくのだ。
「ふふふ」
スグルはまったく考える時間も要していない。
俺はその余裕そうな態度に焦りを感じてオセロを進めた。
しかし、だ。
「な、なんでだ・・・!」
そう、オセロの盤面の上は四隅を除いてすべて白色になっていたのだ。
というか、なんでこんなことできる⁈
「あ、ありえないだろっ! なんでこんなことになる⁈」
驚きのあまり盤面を凝視していると、スグルから高らかな笑い声が上がり始めた。
「あははっ、ありえないよね確かに、でもありえてる! こんなことってあるんだ!」
流石のスグルでも見たことのない状況だったのだろうか。
腹を抱えて、涙まで拭っている。
だがこれではスグルの言っていた〈試し〉を通過できていないのでは。
思わず背筋の寒気を感じていると、スグルがそれを察したらしい。
「あれ、凛斗顔色悪いね」
「いや、だってとんでもない惨敗だし・・・」
「うーん、でもやっぱり気に入ったんだ~。凛斗っていちいちリアクションが大きくて面白いし、それにこんなに部屋を綺麗にしてくれた家庭教師、今までにいなかったから」
スグルの言葉を聞くに、クビではないのだろうか。
そう言われて部屋を見渡してみれば、確かに見違えるほど綺麗になった。
「今まで何人か家庭教師は来てくれたけど、みんなボクの部屋を見て帰っちゃうからさ」
スグルは不満そうに言っていたが、確かにあれを見て帰るのは仕方ない気もする。
だが何人もの暴れ盛りの弟を相手してきた俺だ。
ある程度の汚さの部屋なら耐性がある。
「俺にきょうだいがいっぱいいてよかったよ。ある程度の散らかり具合なら対応できるしさ」
「きょうだい? 凛斗、きょうだいいるの?」
「そうだよ、下に妹三人と、弟二人がいる」
そう告げると、スグルはどこかうらやましそうな顔を浮かべた。
「いいなあ、ボク一人っ子なんだ。それに両親も一緒に暮らしてないから、寂しいんだよね」
スグルは膝を抱え、すねたように指を机の上で遊ばせる。
「なんだ、寂しいとか感じないタイプかと思ってたなぁ」
「失敬なヤツめ。ボクだって寂しいと思うよ。でもとりあえずは凛斗が一緒に暮らしてくれるから楽しみだな~」
オセロのボードを片付けながら、スグルは楽しそうにそう告げてくる。
そうか、採用ということは共に暮らすと言う事なのか。
「一緒に暮らすのはいいけどさ、俺はどこで寝起きすればいいんだ?」
「ああ、それなら寝室にもう一台ベッドがあるから、そこで寝てね」
「えっ、寝室ってスグルも寝るんじゃないのか?」
驚いて俺がそう訊くのに反して、スグルは動揺もしなかった。
「ん?そうだけど?」
そうだけど、じゃないだろ!




