スグルちゃん?くん?あらわる
生徒のスグルと初対面!共同生活開始・・・
しかしスグルはなかなかの曲者のようで・・・
本当にここが、俺がこれから過ごす家なのか?
仕事が決定してから、あれよあれよと準備は進んでいったが、それにしても指定されてやってきた家の外装がとんでもない。
「なんちゅう高層マンションだよ・・・」
見上げれば首の痛くなるような高層マンション。
ここに依頼主の生徒がいるらしかった。
「ハードルどんどん上がってるんだけど・・・」
俺がもともと住んでいたのは、一軒家とはいえ人でギュウギュウ詰めの空間だ。
だからこれほど高いマンションなんて、まあ入ったこともないわけで。
「まあでも、行ってみるしかないか・・・」
その通り、まずは行ってみない事には始まらない。
それに仕事は受けたんだから、今更引き下がるなんてできないし。
綺麗なエントランスを通り抜け、そのままエレベーターに乗り込む。
指定されたのは二十一階。
エレベーターのベルが鳴り、目的の階へ到着したようだった。
「さて・・・」
しかしエレベーターから降りてみて、俺はさらに驚愕。
なんと内廊下のタイプである。
しかも廊下に部屋は一つしかなく、つまりこの階は依頼主が占有していることになる。
そんなことあるのか。
「どれだけ金持ちなんだ・・・」
そりゃ時給五千円なんて言えるわけだ・・・と恐ろしい気持ちが出てくる。
部屋の扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らしてみる。
「・・・ごめんくださーい」
ひるんでいるのが丸わかりの、小さい自分の声。
しかしそれから間髪入れずに、扉がすんなりと開いた。
「はい、もしもし・・・」
え。
扉が開いて出てきた人物に、俺は目を見開いた。
美少女。
少なくとも初見の印象はそれでしかなかった。
まさか、女の子の家庭教師なのか?
「・・・あれ、あなただれ?」
扉を開いて出てきた少女・・・らしき子は、ロングの銀髪をさらさらと揺らしている。
深い青色の瞳。
「・・・見たことないなあ」
女の子にしては割と低く、ハスキーな声だ。
「あ、えっと、今日から家庭教師をしてほしいと言うことで呼ばれた、安藤凛斗です」
とりあえずまずは無礼があってはいけない。
ぺこりと頭を下げた。
「あ、そうなんだ、母さんまた先生変えたんだ」
あっけらかんとした声。
というかこの子の言っていることを聞く限り、これまでに講師が何度か変わって来たのだろうか。
「あ、えっと、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ボク? ボクは新堂スグル。気軽にスグルって呼んで」
カラッとした声。
というか、今ボクって言ったか?
俺はスグルをじっと見つめたが、見た目は完全に絶世の美少女にしか見えない。
しかしよくよく見てみれば身長は比較的高く、胸もないように見える・・・。
まあ、胸があるかないかは人によるけど。
「あ、あの、女の子・・・なんですか?」
ちょっと失礼かもしれないけれど、恐る恐るそう聞いてみる。
だってこれで女の子だったら、一緒に暮らすなんて俺は無理だ!
しかしスグルは大きく首をかしげて、やけに不思議がるようなポーズをとる。
「変な質問だね。ボクに性別はないよ。ボクはボクっていう性別なんだ」
ふふん、とスグルは腕を組んだ。
は、はあ・・・と言う事しかできない。
「えっと、じゃあ男の子でもない、ってこと・・・?」
「そう、ボクはスグルっていう性別なの。女の子でも男の子でもない、ボクはボクだけ」
やけに自信ありげな声で言われて、俺はうなずくことしかできない。
「まあいいや、入って」
そして唖然としている俺を連れて、スグルはさっさと室内に入るように促した。
おずおずと靴を脱ぎ上がり込むと、家の中がかなり散らかっているのに気が付いた。
「あれ、ずいぶんと散らかってるけど・・・」
「あーそれ言っちゃうかぁ。まあその通りなんだけどね。ボク片付けが苦手なんだよ。けど廊下で汚いって言ってたら、部屋に入ったらびっくりすると思うけど」
当然と言わんばかりの顔。
汚いことを誇らないでほしいのだが。
だがひとまずはスグルの後をついて行くと、リビングらしき場所に案内される。
そして扉を開いてみて、スグルの言っていたことを理解した。
「な、なんてことだ・・・」
「ほら、言ったじゃん。顎はずれちゃうよ~?」
スグルがぐいぐいと俺の下あごを押し上げてくる。
スグルの手がなけりゃ、本当に俺の顎は外れていたかもしれない。
目にしたリビングは、今まで家事をさんざんやってきた俺からすればショック死の原因になるほどの汚さだった。
「ま~ま~、とりあえずは上がってよ。ソファの辺りはなんとか綺麗にしてあるからさ」
平然としたまま部屋を横切っていくスグル。
しかしつまりこういうことだったのか・・・。
ここにきてようやく、俺は時給があれほどに高かったことを理解した。
「ちょっと待てスグル。こんな足の踏み場もないような家で暮らしてるのか?」
「だって、まだ天井見えてるし」
恐ろしすぎる一言。
じゃあ前には天井が見えなくなるくらいゴミ山があったのかよ!
そうツッコみたい気持ちを抑えて、俺はさっそく家庭教師・・・もとい家事代行の仕事に取り組んでみようかと思った。
「えっと、スグル・・・ちょっといいか。君はここに俺を生活指導のために呼んでるんだよな?」
昼の太陽光が差し込む窓の傍に立ち、スグルはこくこくとうなずく。
「じゃあさっそくその仕事をさせてもらおうか!」
俺は腕まくりをして、部屋を掃除することに決めた。
まずは床に足の踏み場を確保する。
そしてゴミ袋があるならそれにありったけのゴミを詰め込むのだ。
「えっ、ちょっと、凛斗、掃除って本気なの? そんなことよりゲーム一緒にやらない?」
どこから持ってきたのか分からないゲーム機を見せてくるスグル。
「だめです。俺はここに生活指導に来たんだから。まず第一俺もここで一緒に暮らすなら、こんな環境流石に無理だ!」
「えーっ、汚部屋だって言いたいの?」
「言いたいだろ!」
床には洗濯物らしきものがちらばり、机の上には空のペットボトルとカップ麺らしきもの。
これを汚部屋と呼ばずになんと呼ぶのか。
「もー、凛斗はやる気だなあ。仕方ない、それじゃボクも手伝ってあげようかね」
妙な上から目線でそう告げると、スグルはどこからともなくゴミ袋を出してきた。
「なんだよ、ゴミ袋あったのかよ。あるのに使ってなかったのか?」
「だってゴミの日って把握するのめんどくさいじゃん?」
ゴミ袋をがさがさと開きながら、スグルは友達に話しかけるようにそう言ってきた。
なんか普通の家庭教師とかと違って、だいぶ距離感が近い。
「こんなフランクな感じでいいの、スグル?」
生徒によっては敬語じゃないと嫌だと言う生徒もいる。
「もちろん、もちろん、むしろ敬語はやめてよね。ボク堅苦しいのは好きじゃないんだ」
しかしスグルはフランクな関係の方が好みらしい。
それから俺たちはゴミ袋にできるだけのゴミを詰め込んで、それをゴミ捨て場まで運び出す作業を何往復も行った。
「あっ、無くなったと思ってたパーカーこんなところにあった!」
「見て、これ三年前のゲーム大会で手に入れたカード!」
ときおり、スグルのお宝発掘を挟んだりもしたが。
そうして十往復くらいを終えたころには、ようやく部屋もすっきりと片付いた。
「これでようやく足の踏み場ができたな」
「えっ、もともとはなかったの?」
「なかったよ」
スグルはとぼけたような顔をしているが、正直自分でもここまで部屋を綺麗に出来たのはかなり奇跡だと言える。
小さいころから自分で掃除をしてきた経験が活きたな・・・。
「で、あとは部屋全体にモップをかけて終わろうか」
俺は部屋全体にモップをかけて、床にも座れるような環境を作り出した。
「わ・・・」
そうなるとさすがのスグルも目を見開いて、部屋の変わりように驚いたようだった。
「すごい、なんか別の部屋みたい!」
興味深そうに部屋を練り歩き、ようやく座れるようになったソファに目を輝かせている。
「なんか部屋が倍になっちゃったみたいだね」
「いや、実際ゴミがあった時と比べたら倍になってると思うぞ」
スグルの言う事には、なんだかいちいちツッコミを入れてしまう。
部屋が倍になったと言うのは感覚と言うよりだいぶ事実に近いだろう。
「いや~これだけ広くなると気分も変わるね。さて、それでなんだけどさ」
「うん?」
「ちょっと凛斗と勝負してみたいんだけどさ」
スグルは突如そう言うと、部屋中央の机にオセロを置いた。




